端的に言うと、うーむ、残念。という一言。
本作は、佐藤優氏と手嶋雄一氏の対談で言及されていて興味を持ったと記憶しています。
現実世界を取り巻くパワーバランスは米国中心。彼の国がどうなるのか、中国はどうか、インドだってわからない、中東の平和は、というか日本の行く末は、等々の疑問について、衰亡の理(ことわり)が開陳されるのではとの期待から購入しました。
ダメだ、色々気になりすぎて本旨が追えない
期待は大きく裏切られました。
骨太なロジックにより主題が展開されることを期待しましたが、疑問を呈する短絡的な論述が多く、これらがいちいち気になって集中できません。
例えば。イギリス人がスポーツ(サッカー)を愛するのは人生が先の分からないゲームであるからであり、だからこそ開き直ってイギリス人はプロセスそのものを愛する(P.51)とある。サッカーは主に下層大衆に愛好されていると私は習いましたが、そうした大衆がプロセスを愛するとは到底思えません。サッカー好きは男性に顕著であろうと思いますが、それをもって全英国を特徴づけるというのもどうか。演繹が過ぎると感じました。
他にも、大英帝国の衰退の因として享楽的になった部分というのがあり、海外旅行ブーム、温泉ブーム、イベント好きという事象を挙げ、ローマでの「パンとサーカス」や温泉好きと絡めて、そこに共通因をみている。ひいては日本のレジャーブームや軽薄化から衰退の原因をほのめかしている(第三章)。これもなぜ英国人が享楽的となったのかを聞きたいし、その結果としてどうやって当時の英国の「エッジ」が失われなかったのかをしりたい。
やはり論旨が分からない・・・
また結局本旨も良くわからないという状況に陥りました。
序章には、国家の衰退について論じる、とあります。なかんずく著者が日本人であるからには日本の衰退局面に生かそうということは類推できます。ただ、本論では明示しないことで一層わかりづらくなっています。
結びではようやく、日本のあるべき姿が述べられています。因みにそれは、
「一口で言えば、「自由で、活力に富み、伝統と歴史を重んじて、世界で自立し名誉と協調を重んじる国」(P.234)」
ということです。私としては具体性を全く感じませんでした(そもそも衰退を認定する現状分析が希薄であったこともありますが)。
結局私はこのように解釈しました。『日本は今、なんだかヤバい。過去を振り返るとローマとか英国は過去享楽的になってヘコんだ。日本は今なら間に合う、誇りと伝統と自信をもって気合いで生きていこう』、こんな感じにしか解釈できませんでした。
おわりに
ということで、ネガティブなことばかり口にして反省しています。勿論私の理解力不足は火を見るより明らかであります。きっと深遠なことが書いてあったのであろうとは思います。
なにしろ筆者は京都大学の名誉教授であるし、間違いなく私よりもインテリジェントな方でしょう。ただ、議論の進め方は、昭和日本風で、結論から切り出す明快な欧米的なものではありませんでした。また、衰退を論じるにあたり、色々な可能性や仮説が考えられる中で、それでもこれが一番ふさわしい何故なら・・・という他の可能性の検討を経ず、筆者の感ずるままの話に付き合わされた感がありました。
安易な答えを求めすぎたことを反省し、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』を読み進めることにしました。
評価 ☆☆
2021/02/24