海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ローマ史大家の名著で修行のような読書を楽しむ―『新訳 ローマ帝国衰亡史』著:エドワード・ギボン 訳:中倉玄喜


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 まさに修行のような読書でした笑

 500ページに迫る大著。洞察にあふれる記述に驚きの声をあげることもある一方、ややもすればダラダラと続く人物描写が眠気を大いに誘う事もありました。毎日70ページとして1週間でスケジューリングするも果たせず、途中でリスケを敢行、結局読了まで12日程かかりました笑。

 

一番の売りは、その生き生きとした描写

 本作の一番の特徴は何といっても人物描写のビビッドさだと思います。各皇帝の描写も良かったです。コンスタンティヌス帝とか。ただ、いかんせん人数が多く印象に残りづらい。そのなかで一番瞠目したのはユスティニアヌス帝の妃となったテオドラ。若くして父母を亡くし、体を売らされ人々に供され、アレクサンドリア(エジプト)まで流れ着くも再び美貌と知性を駆使しコンスタンティノープルまで舞い戻り、皇帝の妃に座り、政治までしてしまう。すごい。

 以前佐藤賢一氏のフランス史の本を読んだら非常に面白かったのですが、その本もまた、筆者があたかも宮殿の柱の陰からのぞき見しているかのような臨場感を持っていました。

読んでも王様の名前は覚えられないけど、本の内容は面白い!―『カペー朝 フランス王朝史1』著:佐藤賢一 - 海外オヤジの読書ノート

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ブルボン王朝は性欲ダダ漏れ?の印象(歴史のほんの一側面だけど)―『ブルボン朝 フランス王朝史3』著:佐藤賢一 - 海外オヤジの読書ノート

 作者ギボンが今から200年以上前の人間であることを考えるとちょっと驚きました。昔の文章というと辛気臭いイメージがありましたが、全くそんなことはありません。恐らく訳者の力も大きいのでしょう。

 

ローマ衰退の理由

 衰亡史というタイトルであるので、衰退に至る道についての記述も多い。いわゆる「パンとサーカス」(享楽化)や国境線が膨張しすぎた点とか(現代中国を彷彿とさせます)。個人的に発見だったのは、当時は蛮族と呼ばれたゲルマン人。ゲルマン大移動などは習いましたが、ローマ人は、傭兵として使っていた彼らを最後まで異物化・差別化したことで彼らの逆上を促してしまったそうです(P.371)。なんか、外国人労働者を毛嫌いする日本人とすこしダブります。

 その他色々書いてありますが、論文のように因果を明示するスタイルではないので、ローマ衰亡の理由は端的には複合的理由と纏めておきます笑。個人的には衰亡なんて諸行無常・栄枯盛衰だろうと仏教的無常観が一番しっくりきますが。

 

 日本が今後どうなるのかという観点から読書をしたとき、衰退は避けられると猛々しく叫ぶ著作(『なぜ国家は衰退するのか』)や、覇権と取らずに細々とやっていく(『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』)など積極的消極策ともいうべき案も見ました。国のかじ取りをする政治家や官僚はどのように考えているか気になります。

 

編訳よしあし

 もう一つ加えておきますと、本作品は抄訳(編訳)でして、完全版ではありません。500頁弱の大著ですが。

 世界史業界ではギボンは超有名人だと思いますので、完全版を制覇したいというMっ気の強い御仁もいらっしゃるかと思います。Amazon調べたら、ちくま文庫で完訳が10巻セットで 15,290円! なかなかのお値段とボリュームです。

 時間の限られたサラリーマンには本作(編訳版)で十分と私は思います。読んでみて思いましたが、抄訳でも本当に長くて、それなりに辛いのです。他方、訳者による解説・補足が章毎についており、これがローマ史の理解を大いに促します。これは良い点。

 一点ちょっと残念だったのは五賢帝。世界史ではさも重要かのごとく教わりますが相当さらっと終わってしまった。これが編訳の為なのか、原作がこうなのかは不明です。

 

おわりに

 改めて本作を振り返りますと、歴史好きとしては非常に楽しめました。いわゆる政治史を追うだけだと歴史は大抵つまらないのですが、著者の力量でしょうか、皇帝や取り巻きが実に生き生きと描かれておりました。

 私のような歴史好きにはもちろんのこと、旅行好きの方も勉強してから言ったらゼッタイもっと旅行が楽しくなると思います。いまコロナですが、旅行ができるようになったらローマやイスタンブールにに絶対行きたいです笑。それと、本作は歴史業界のビッグネーム、そして大著ですので、読後に相応の達成感も味わえます。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/03/18

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