海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

村上流、自己の受容と過去の受容の物語?|『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹

4、5年ぶりに本作を再読。これだけ経つと筋もあらかた忘れており、フレッシュな気分?で改めて楽しく読むことができました。

 


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主人公に自身を重ねる?

本作の主人公である多崎つくる。他の村上作品同様、非常に自制的・自省的、言葉に敏感、そして適度な運動を好むという、自分があこがれていた方向であり、勝手に自身を重ねて読んでいました笑

再読して改めて感じたのは、本作が生死・友情・グループ・信頼・過去の清算など、多くの人が遭遇する人生における困難に主人公を対峙させていることです。多くの人が日々の生活でこうした問いに悩みつつ、時に間違えたりしつつ自ら答えを出していると思います。読者は主人公を通じて、自分がするかもしれなかった経験、ないしは過去にしたような経験を追体験し、困難の克服についてのケーススタディを行い、適合する方はある種のカタルシスを得られるのではないか、と思いました。

あ、ちなみに筋についてはもう書きません。アマゾンか何かでご覧ください。筆力がないので筋を書いたらすべてネタばらしになりそうで。

 

名古屋ネタ満載

ちなみに本作、名古屋ネタが多く、きっと名古屋出身の方は大いに喜ばれるのだろうなあと感じました。主人公含む5人グループの一人アオはLexusの販売店で働いているとのことですが、おそらく桜通沿いの高岳の店だろうな、とか、クロの進学先の英文科が有名な私立女子大というのは椙山か金城か、とか、アオの勤務先から5kmほどのアカの事務所があるガラス張りのビルってのはやっぱりミッドランドじゃないかとか、きっと色々検証される方が多いのではと想像します。私も仕事で3、4年ほど仕事で名古屋に住んだのですが、小説の舞台に覚えのある場所を重ねて想像するのは予想外に楽しいものでした。

 

おわりに

実はこの春、友人を亡くしました。中高一貫の男子校で、学年に当初は沢山いたバスケ部員で、しごきのような練習に6年耐えて最後に残った5人のうちの一人でした。チームはそこまで強くはなかったけど、卒業前は5人でバスケをやれば、喋らなくてもパスが来る、そういう無言の紐帯を感じたものです。今回、私の一時帰国にあわせて、残った4人でそいつの実家にいって手を合わせたその晩、偶然手に取ったのがこの本でした。まさかお前がこの本を読ませた?なんて逝った友人に問いかけた、そんな夏の読書でありました。

 

評価   ☆☆☆☆

2022/08/20

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