あらすじ(文庫本裏表紙より)
羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を超えて少年はピラミッドを目指す。「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」 少年は錬金術師の導きと旅の様々な出会いと別れの中で、人生の知恵を学んで行く。
ひとこと感想
メッセージは素晴らしい! 内容も面白い。だけど現実はちょっと難しいか。これがストレートな感想笑
ネタバレありです(まっさらに読みたい方は飛ばして!)
本作、羊飼いのサンチャゴが旅に出て、宝物を探し当てるという夢をひたすらに追い求める話です。幾度となく困難に出会うのですが、次のステップに行く都度、彼は安定を捨てギャンブルのような未知へと歩を進める様子が見どころです。少年の呻吟は安定好きな我々に対しても夢とは何か、自己実現とは何かを語りかけてきます。
羊飼いが冒険に踏み切れず、出入りの商人の娘に告白して幸せな生活でもしようかどうかと悩むときに現れた老人は、羊飼いを急かすべく、このように語ります。
まだ若いころは、すべてがはっきりしていて、すべてが可能だ。夢を見ることも、自分の人生に起こってほしいすべてのことにあこがれることも、恐れない。ところが、時がたつうちに、不思議な力が、自分の運命を実現することは不可能だと、彼らに思いこませ始めるのだ(P.28)
「人は、人生の早い時期に、生まれてきた理由を知るのだよ」と老人がある種の皮肉を込めていった(P.31)
人はみな成功する要素を兼ね備えて生を受けるのに、みな勝手に諦めてしまう、というようにも聞こえます。
まあ、失敗しない唯一の方法は成功するまであきらめない、なんていうやや詭弁?じみた名言もありますし、着手しなければ実現も成功もないのは確かにその通りではあります。
安定に面白みや成長は少ないか!?
少年は羊飼いをやめ、羊を売ったお金でアフリカに渡りますが、速攻で騙されて一文無しに。そこでクリスタル商人のもとに住み込み、一年後に大きな財を成します。彼はまたもや夢と安定との間で揺れ動き自問します。
「でも、僕はよく知っている野原に戻り、また羊の群れの世話をしよう」と確信をもって自分に言った。しかし、彼は自分の決心に、もはや幸せを感じなかった。彼はまる一年間、自分の夢を実現するために働いてきたが、今やその夢は一分ごとに重要さを失っていった。おそらく、それは本当の夢ではないからなのだろう」(P.76)
自分がなぜ羊の群れに戻りたいのか知っている、と彼は思った。僕は羊たちを理解しているからだ。彼らはもはや、やっかいものではなく、良い友人になるだろう。他方、砂漠が友人になってくれるかどうかは、僕にはわからない。宝物を探さなくてはならないのはその砂漠の中だった。たとえ、宝物は見つからなくても、僕はいつでも国に帰ることができる。僕は今、十分なお金も、そして必要な時間もある。いかない手はない(P.77)
こういうのもつい自分に重ねてしまいます。今の仕事をやっていって、業務内容やカバレッジ、組織体制が将来どのようになるのかなんて大体想像つくわけです。予想がつくことは普通、興奮はあまりしませんよね。夢、挑むべきですか?笑
失敗そのものよりも失敗を恐れる心が、人をたじろがせる
お金も時間もある、ついでに言えばお金を生み出すスキル(羊飼い)もある。それなのに夢の実現に踏み出さないのはなぜか、と言われているかのようです。。。人はそんな余裕があるとき、チャンスな時になぜ動かないのでしょうか。確かに不思議です。そして自己実現を阻む自分の意思について羊飼いの少年はこのように自答します。
人は、自分の一番大切な夢を追求するのが怖いのです。自分はそれに値しないと感じているか、自分はそれを達成できないと感じているからです。永遠に去ってゆく恋人や、楽しいはずだったのにそうならなかった時の事や、見つかったかもしれないのに永久に砂に埋もれてた宝物のことなどを考えただけで、人の心は怖くてたまりません。なぜなら、こうしたことが本当に起こると、非常に傷つくからです(P.154)
つまり自己実現を阻むのは安定よりも、むしろ失敗への恐怖というのが自己分析のようです。それについて途中から同行している錬金術師もこういいます
傷つくのを恐れることは、実際に傷つくよりもつらいものだと、お前の心に言ってやるがよい。夢を追求しているときは、心は決して傷つかない。それは、追求の一瞬一瞬が神との出会いであり、永遠との出会いだからだ(P.154)
これにはぐっときました。何かに一生懸命取り組んでいるときに、その前に覚えた恐怖などはもう頭にはありませんからね。失敗への恐怖というのはとてもでかい心理的摩擦なのですね。
つっこみ
こうして羊飼いの少年は錬金術師と禅問答のような会話を繰り返しつつ、自己実現に励み、最終的に夢を達成するということです。ただですよ、やはりこれ、お金と時間、そして生きる糧を持つというごく恵まれた状況の人にしか許されないわけですね。ついでに言えば明確な夢も持っている人。今日び、自分の夢をはっきりと瞬時に言える人もそんなにいないと思うんですよ、実は。
加えて、夢の実現には普通周囲の理解というのも必要です。少年の場合、オアシスで出会った運命の人アイシャは少年を快く送り出してくれました。曰く「私は砂漠の女だから。男を待つものなの」みたいな。くぅー、素敵。
でも、普通は親や子や、あるいは連れ合いがいて、現実にがんじがらめになっていて、夢の一歩を踏み出すのは躊躇われる(許されない)わけです。うちなんかもどこか別の国で働いてみたいとか(冗談というか軽口で)よく言うのですが、「子供たちが大学を卒業してからね」と目の笑っていない笑顔で嫁に言われるのが落ちです。
そもそも筆者のプロフィールをWikipediaで見てみますと、大学在学中に「突然学業を放棄して、旅に出る」とか、社会人になってからも「しばらくレコード制作を手掛けるが、1979年、ふたたび仕事を放棄して、世界を巡る旅に出る」とか書いてありました。その後本作のような大ヒットを飛ばすのですから、やりたいようにやれば成功できるさ、という信念を持たれるのもむべなるかなとも思います。何度も言うけど、これを現実にやるのは難しいぞ。
おわりに
ということで非常にinspiringでmotivationalな本でした。勇気づけられます。自分も是非夢をあきらめずに取り組みたい、とそう思います。
ただ、自分の子供ならば、夢の応援するけどあんま無茶はしないで、そして生きて帰ってきて、と言いたい笑 こんな保守性が私の夢が実現しない理由かもしれませんが笑
心に夢のくすぶりの炎をお持ちの方、ぜひ読んでみてください。
評価 ☆☆☆☆
2022/10/12