海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

子宮頸がんワクチン騒動を俯瞰する良書 |『10万個の子宮』村中璃子

父:「高校生になったら一番したいことは?」

娘:「素敵な彼ピッピを作って高校生活をエンジョイすること!」

父:「・・・じゃあ、お前、あれだ。セーフセックスに備えて、子宮頸がんワクチンだな」

 

という、しょうもない会話をきっかけに、娘にはこの4月の頭に子宮頸がんの9価ワクチン(計3本)の初回を打ってもらいました。コロナワクチンの際は私もそれなりに抵抗していましたが(まあチャイナ製含め結局3本打ちましたが)、今回は結構エイヤで受けさせてしまいました。

 

本当は受けさせる前に読み切りたかったのですが、本作今更の読了であります。



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ひとこと

本作は、医師兼ジャーナリストの村中璃子氏による、いわゆる「子宮頸がんワクチン」問題に鋭く切り込む作品です。その趣旨は、「子宮頸がんワクチン副作用」は言わば「つくられた」ものだ、というものです。ちなみに、2012年から開始された、ジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞。 

 senseaboutscience.org

 

 

池田氏の杜撰な実験とその意図に迫る

本作クライマックスは、元信州大学医学部池田教授による、子宮頸がんワクチンの副作用によって脳障害(HANS)が起こると主張した実験データについて。これを捏造であったと結論づけるところでしょうか。

 

統計的手続きの詳細は理解できませんが、実験が再現できず、かつマウス実験で脳障害を起こした個体が僅か一つ、さらにその症例も起こすべくして起こした実験といえるデザインであったことが暴露されています。この実験に携わったとされるA教授は池田教授の指示に従っただけと述べ、池田元教授は逆に、実験はすべてA教授に任せたので詳細は分からない、とお互い責任のなすりつけあいにも少し驚きました。

 

村中氏はさらに踏み込みます。

子宮頸がんワクチンの副作用を主張する池田教授という方が、どうやら野心家であり、学部長選挙やひいては学長選挙への当選を狙うために手柄を必要とし、不正に及んだと類推しています。

このあたりはちょっと下衆の勘繰りチックかもですね。ただ私も思いましたが、国立大の医学部でしかも学部長、学長選挙は敗れた模様ですが最後は副学長まで上り詰めたエリート。仮に自分が間違っていたとしてもそれを認めることは大変に難しいかもしれませんね。出世街道のクライマックスですし。

 

最終的には池田元教授に研究を依頼した厚労省も実験結果が正しくないことを認めた模様ですが、所属元の信州大、子宮頸がんワクチンに副作用は認められないと暗示する統計を出した名古屋市も最後はだんまりを決めます。厚労省は、池田元教授の実験は拙かったものの、実験そのものに不正はないと玉虫色の幕引きを狙い、本作筆者の村中医師も名誉棄損で池田氏から訴えられ敗訴。泥仕合的結末になった模様。

 

ワクチンを巡る真実はどこに?

こうした内容を読んでいると、凡人の一般市民たる私は何をどう信じればよいのか、と考えてしまいます。

 

想起するのは、内海聡医師の「ワクチン不要論」です。ワクチン製剤の作成原料を詳らかにしつつ、ワクチンビジネスの規模の大きさから、陰謀論的殺人をも匂わせていたものです。トンデモ本に近いものがありますが、私が当該作品を読んだときは丁度コロナが大流行し、かつ緊急避難的にワクチン接種が行われたため、内海氏の作品に大いに影響されました(わりに3回きちんと打ちましたが)。

 

実は内海氏の作品と村中氏の作品には共通したトピックを取り扱っています。不正な薬害データを作成したとして医師免許をもはく奪された、ウエイクフィールド医師の事件についてです。

村中氏は、子宮頸がんワクチンの副作用を主張し実験データを捏造した池田氏ウェイクフィールド氏になぞらえる一方、内海氏の作品では、ウェイクフィールド氏は真実を唱えたため医薬業界から抹殺されたとし、ウェイクフィールド氏を追い込んだブライアン・ディア記者(やそれを取り巻く医師も)が英国製薬業協会から資金援助を受けていたことを暴露しています。また日本にもディア記者のような(製薬業界からの金を受け取る?)医師が多くいる、とほのめかしています。

 

うーむ。どっちが正しいのか?一般市民は何を信じればよいのでしょうか?

私個人が現在下した判断は、日本人が一生を通じて多くの宗教行事を祝うかのように、好きな時に好きなものを信じればよいのかな、とちょっとシニカルに思いました。だってもう、分かんないんだもん。

人間の体のメカニズムがそもそも複雑極まるなか、ワクチンの作用の複雑さは一般の理解を越えます(基本的な原理はジェンナーのおかげでよく分かりますが)。全般的にはワクチンの有効性は信じたいと思います。ただし、内海氏のような医師も(一人ではなく)出てくることを鑑みるならば、製薬会社だって清廉潔白なだけでは済まない、人に害のならない程度に「まぜもの」でもしているかもしれない、と勘繰るところです(製薬関連の方、大変申し訳ないです。超個人的な思い込みです)。だから、真に必要ではないクスリ・ワクチンはなるべく受けさせたくない。

 

分からないものは調べる・学ぶ、というのが私の基本スタンスですが、当該分野はあまりに深く広く、調べ切ることが難しいところです。それゆえ、生半可の調査ののち、「信じる」というアクションしか今のところ私はとれていません。

 

おわりに

ということで、村中氏のノンフィクション作品でありました。

誤解を恐れずに言えば、私は、大人がワクチンを打とうが打つまいがどっちでもいいと思っています。私も数十年後には既に死んでいましょうし。

でも、これからの社会を築いてゆく将来のある子どもたちに、万が一でも害があるとすれば、それは親には耐えがたいことです。

統計学的とはいえ、一部に(例外的に)重篤な副作用があるというのはクスリの世界ではよくあることかもしれません。例外というのはどの世界にでもある話でしょう。ただそれが自分の子だったとしたら、当然の事ながら親は許容できかねるわけです。

本作では内容を読む限りでは池田元教授の杜撰さが明らかで、子宮頸がんワクチンは大切だという気持ちになります。他方で、確率論を越えた親心をサポートしワクチン接種により病菌の蔓延をを防ぐためには、薬害発生時の一層の手厚いサポートやそうした情報・制度の流布が必要なのかなと思いました。

 

本作、子を持つ親御さん(特に女の子、でも子宮頸がんワクチンは男性にも効果あるそうですよ)、薬害に興味があるかた、医薬関連トピックに興味がある方、ジャーナリズムに興味があるかたにはお勧めできる作品です。

 

評価     ☆☆☆☆

2023/04/21

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