海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

天才打者の短い一生を寓話的に描く |『あるキング』伊坂幸太郎

50も近く、病気もあるので、徐々にですが身辺整理を心がけています。

最近進めているのは銀行口座でしょうか。かつては6つも7つもありました。80を超えた母親がかつて勝手に父親名義で作った口座を今処分できずにいる(父親は半ボケで家から絶対に出ない)のをみると、何かあったときに妻を困らせてはなるまい、と考えました。で、現在は3つまでに減り、来年いっぱいで1つにまで絞りたいと思います。

そういえばお金の細々としたことを教えてくれたFPという資格(CFP)。こちら年会費が高い(二万円!)わりに業務に直結せず、解約に至りました。この手の私的団体が主催する資格は会員代を結構取りますよね。引き続き諸々『見極め』を続け、資格の断捨離をもすすめて参ります。

 

<イメージ>

ひとこと

相変わらず軽快で洒脱な会話が展開されるも、氏にしては珍しく寓意に満ちた「ねっとり」とした終わりを迎える作品でした。その不穏な空気は非常に印象的でした。

 

設立当初の楽天イーグルス!?

導入は仙醍という都市にある弱小プロ野球チームとそれを応援するとある家族(山田家)の話から始まります。熱烈な仙醍キングスファンの家族のもとに育つ劇的な天才野球児の話です。

仙醍なんて書いたらほぼ仙台だろって感じますが、これを読んで球団設立当初の楽天イーグルスを思い出さすには居られませんでした。仙醍キングスは弱小・常敗チーム。一方現実の仙台のチームといえば楽天ですが、新規参入の際は体制づくりがビハインドのなか、当初リーグダントツの最下位、当時の田尾監督は常にへの字口であったことを思い出します。

 

天才と、嫉妬する凡人

さて、山田家の天才野球児の王求(おおく)、名前からして(横書きで球(たま)とも読める)野球の神様から祝福されているかのような彼は、小学生時には引退したプロ野球選手の球を軽々とホームランするほど。中学時代もその名はとどろくも県大会どまり、そして高校では訳あって中退。しかし、幸運もあり仙醍キングスに入団。

 

そしてぼろくそに打ちまくる。ないしは敬遠か死球。結果として6割・7割打者という驚異的な成績に至る。

 

・・・

自分にストイック、野球にしか興味がない。

                         

それはそれで素晴らしいことであるも、はるかに他を凌駕した才能を持つ彼。その姿勢や存在が気に食わない連中も多い。明示はされていないものの、彼はチームの監督にこっそり刺され、この世での生を20年と少しで去ることになります。

 

ここに私は、凡人の衆愚、嫉妬を見た気がしました。主人公山田王求への日本的出る杭は打たれる的バッシング。

加害者の家族は人権なしか

実は、主人公山田王求へのバッシングは、彼の父山田亮が犯してしまった殺人にも理由がありました。そのため彼は高校を退学せざるを得ず、またどうにかプロ野球でプレーできることになるも、常に殺人者の子として後ろ指をさされることになったわけです。

 

ここで気になるのは、加害者家族に人権はあるのか、という話です。被害者家族は金銭的に補償され、また精神的にもケアされるべきだと思います。加害者本人も法の下に罰せられるべきでしょう。その中にあり、加害者家族、なべてもその子どもはどれくらいの責任を負うべきなのでしょか。

作品ではこうした価値判断については一切明言はありませんでした。しかし、温厚な仙醍キングス監督が狂人じみたクレーマーの差し金を受け入れた末に山田王求を刺したことに及んだシーンから、「大衆は加害者家族を抹殺する」「大衆は加害者家族を許さない」、と感じました。もちろん、被害者家族の気持ちを離れて、大衆はうねりを作ります。

 

加えて、シェークスピアマクベスから”Fair is foul, foul is fair”という文句を度々引用し、善悪の相対性、善悪は大衆による都合によって決定される、というメッセージを勝手に受け取りました。このあたりのストーリー展開、歯止めが効かない流れ、にゾクっときました。

 

おわりに

ということで一風変わった伊坂作品でした。

天才打者の短い一生はバッドエンドで終わり、明言されない寓意が霧のように立ちこめる作品でした。その点でも、伊坂氏の純文学的エッセンスが感じられる面白い作品だったと思います。

 

伊坂作品のファンはもとより、野球好きの方、純文学好きの方、倫理学やジャーナリズムに興味がある方にはお勧めできる作品でした。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/09/29

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