ひとこと
ここ数か月、伊坂幸太郎作品再読フェアであります。
こちらの作品も、面白くてあっという間に読了。
人間関係が次第に明らかになる群像劇
別個に展開する物語が、結末に進むにつれて絡み合ってゆく群像劇。その関係が明らかにされるたびに「あ、だからか」「そうなってるのねえ」と誰に言うともなく独りごちてしまいました。
本作の面白さや伊坂作品に練りこまれているエッセンスをどう表現すればよいのか。
私自身考えあぐねていましたが、巻末で池上冬樹が私の気持ちを美しく代弁してくれました。
「シュールな設定とオフビートな展開、軽妙でありながらシンボリックな方向性をもつ物語」
「ミステリ系にしてはちょっと純文系のにおいがする」
そう、そこですよね。エンタメ小説としては十二分に面白い。展開の妙も設定も。でも面白いだけではなく、そこはかとなく感じられる上品さ、そこも良いのです。ビバ純文学。
程よい健全さが、全体感をマイルドに
また、巻末解説でも述べられていますが、伊坂作品が描くまっとうな倫理観や人生への再チャレンジみたいな部分。このエッセンスが作品全体に安心感・安定感を持たせているように感じます。
スポ根的単純さではなく、またシニシズム一辺倒でもない、なんとも言えない平衡感覚が私にはストンときました。
本作で主役級を張る黒澤(空き巣!)が、入った家にわざわざ置手紙を置くとか。色々それらしい理由を吐かせていますが、正直じゃない(けど)イイ奴の出来上がりです。でも空き巣というアングラから抜け出る気もないし、その仕事にプライドもあるという。
そのほか・・・
そのほか、伊坂氏お得意の時間軸ずらし作戦も健在、そしてクールでちょっとアンニュイ?なキャラも多数。そして仙台近辺が舞台ってのもこれまた伊坂定番!?でしょうか笑
おわりに
ということで今年4冊目の再読伊坂作品でした。
本作を読まれるかたは必ず「オーデュボンの祈り」を先に読まれることをお勧めします。これもまた伊坂氏の作品に特徴的なことですが、過去作品の登場人物や作中のプロットが暗示されている部分があります。前作を読んでいるだけで、本作の楽しさが5%くらいアップしそうです笑
ということで本作、未読の方も既読の方もおすすめできるエンタメ小説です。伊坂氏のファンはもとより、ミステリ好き、エンタメ好き、仙台にゆかりのある方、等々にもおすすめできる作品です。おすすめ。
そうそう、程よく入り組む物語なので、人間関係図など手書きすると面白いですよ。私もやってみましたが、楽しかったです。
評価 ☆☆☆☆
2023/06/17