海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

「閉塞感」「喪失感」の中に希望と恢復を描く |『ダンス・ダンス・ダンス』村上春樹

(前段与太話です。失礼します。)

皆さんこんにちは。

突然ですが、今まで一度に大きな買い物(キャッシュアウト)って、どれくらいでしょうか?

 

いやあ、実は私のところの1月のクレジットカードの請求額を見ていてちょっとたじろいだって話ですが。78万7,440円!

上には上がいることは分かります。 私は家無しですが、住宅ローンなどを組んでいればこんな数字は小さく見えるのだと思います。また1枚のカードでの決済で経費を集中させているので、理由も背景も分かっています。ただ、なかなかしびれます。

 

で、今まで一番大きな買いものを改めて思い返しました。

中古のGibsonレスポール(サンバースト)、28万円。

中古のプジョー306、30万円。

タヒチへの新婚旅行、32万。

 

色々使ってきたなあ。

でももちろん、今マックス金がかかるのはやはり子どもたちの学費。そんなんじゃ済みません。あれがためにうちの家計は完全なるボーナス頼み。下の子が大学を卒業するまであと6年。出費のピークが続きます。

 

相変わらずオチのない問わず語りで申し訳ないです。

 

 

はじめに

三部作と言われる『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』。これらに続く続編。とはいえ、本作独自で読んでも十分楽しめる作品。

 

ざっくりイメージとしては『羊をめぐる冒険』と雰囲気が近いかな。

大人になりきれない『僕』が相変わらずブツブツ言いながら人生を拓いてゆく。人に傷ついて人を傷つけ、失ったものに気づき、残ったものの少なさに呆然とする。それでも歩んでゆく。・・・的なことを村上流に語ります。

 

で、以下三点、感じたことを少々。

 

「僕」が感じる「喪失感」「疎外感」が魅力か

流行りとかもあったかもしれませんが、若い頃村上春樹氏の作品を実に良く読んだ気がします。こうして再度読んでも面白いのですが、何が良かったのかを改めて考えました。

 

で、思ったのは、『僕』の設定。若者のもつセンチメントを上手に表現していることが、数ある魅力の中でも大きいのかな、と。

 

今回『僕』の設定は34歳。20代からすれば年は取りました。なのにまだ方向感が定まっていない。そのことに不安を覚える。また孤独も感じる。

いるかホテルに再び逗留し、周囲のサラリーマンを見渡し、自分が浮いていること、孤独であることを再認識し、改めて愕然とする。

また、羊男と再会し、自分が年を取り、可能性を失いつつあること、残された部分が多くはないことを自覚する。そんな『僕』に残された生き方は、ただ人生を愚直に『やり抜く』だけなのかもしれません。

 

「踊るんだよ」羊男は言った。「音楽のなっている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい? 踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなことを考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう(略)」(上 P.164)

 

 

このような、世間とのずれ、自分の理想との乖離、仕事に生きがいを見出せない失望、希死念慮?みたいな鬱屈が縷々表現されていると感じます。

友人五反田君の「がんじがらめ」な状況も相まって、若者が抱きがちな「閉塞感」が上手に描写され、そこに頷く人からの支持が大きいのかな、と思いました。もちろん私もその一人でありました。

 

結末はやや陳腐か(ネタばれあります)

他方物語の展開からすると、特に後半以降はやや陳腐な様相であった気もします。

 

その象徴的な存在はやはり五反田君です。

これまで探していたキキの声。そのキキを手にかけたのが、なんと近頃唯一友人といえる五反田君だった。しかもそのことを察したのが、「中学生だったら恋に落ちていただろう」13歳の美少女ユキ。その後程なく、「経費で落ちる」マセラティと共に海へ沈む五反田君。

当然ではありますが、既存の登場人物数人できれいに物語が終結に向かいます。

 

もう一つ。

五反田君が逝き、ユキも自らの道を歩み、再び独りぼっちになった「僕」。事が片付き、その「僕」の胸にぽっかり空いた穴を埋めるのは、もちろん女性。メガネのユミナリさんです。

ユミナリさんとの心の通った激しい交わり(しかも彼女の勤務先で!)は、「僕」の再生・恢復の象徴なのでしょうが、なんかちょっと陳腐に感じました。他方、まあ村上作品らしい展開だなあというのも感じました。

 

昭和だなあ

最後に一つだけ。

読中にふと思い出したのが、井上陽水さんの「ダンスはうまく踊れない」。気怠いアンニュイな(死語ですよね)雰囲気が昭和です。でも本作に合うなあと感じた次第。

 

GOLDEN BEST

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Disc2の3曲目。昭和ぁーって感じです。

 

おわりに

ということで本年一発目の村上作品でした。

改めてタイトルとか展開とかを考えると、なかなか深いかも、と感じました。

ダンスって一人では普通踊りませんし、ルールもありますし。そんなダンスを何も考えずにうまく踊れって言ったのが「僕」の映し身たる羊男なのですよね。

 

タイトルや内容を色々に解釈する人も出てきそうです。それを楽しめるのもまた、作品の懐の深さといえるかもしれません。

 

評価 ☆☆☆

2024/01/24

 

 

申し訳程度に本作につながる前三部作を掲示

lifewithbooks.hateblo.jp

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