海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

気怠い雰囲気の中で、真面目に退廃を見つめる |『1973年のピンボール』村上春樹

皆さんこんにちは。

私、あまり作家さんは手広くは読みません。最近だと恩田陸さん、湊かなえさん、西加奈子さん、が結構多かったかと。そして本は読んだら基本的には処分(売却)です。

 

他方、印象に残ったもの・もう一度読むかも(読みたい)というものはとってあります。でも物語は少ないのです。この前実家をのぞくと、存外に村上春樹の作品が多く残っていました。結構好きだったみたいです。

 

とういことで、村上氏の作品、整理もかねて年代順に再読してみようと思いたった次第です。

 

本作、舞台設定は今から50年前!!古いですねえ。

私が買ったのも古いですよ。もう25年以上前に町の古本屋で買ったみたいですね。本の最後のページに鉛筆で“170”と汚く殴り書き。趣があります。ちなみに当時の定価240円。きっと消費税も無い頃に印刷されたやつでしょうな。

 

ひとこと

ノーベル文学賞候補として名高い村上春樹氏。

私は「ノルウェイの森」以降の読者でありますが、一言でいうと、「うーむ」な感じありました。

 

風の歌を聴け」の続編なのか!?

講談社文庫で二作目となる本作ですが、「風の歌を聴け」の続編という位置づけ。

但し、前作が「鼠」「僕」の青春小説という建付けでありましたが、今回はより「幻想的」な作りでありました。いつ僕と鼠がつるむのかと思ったら、あれ、絡まずに終了?みたいな。ま、詳細は是非お読みください。

 

「再生」「再起」がテーマ?

前作で、バーでできた友人、ボンボン大学生の「鼠」。

本作でも登場しますが、「僕」とはすれ違いません。ただただ、けだるい日常で、恵まれた環境で、素敵な努力家の女性と戯れ、そして自己嫌悪する、といった状況。もう死語かもしれませんが、「アンニュイ」なんてカタカナで表現しましたがああいう感じでしょうか(フランス語なだけ!)。

その彼が、女との連絡を取らず(すなわち別れて)、ジェイズ・バーにもさよならをして、新たな旅立ちを決意する、という流れに、間接的に「再生」「再起」「回復」のようなワードを感じました。

 

また、「僕」は「僕」で翻訳の会社を友人と起こし、そこそこ恵まれた給料で働く中、ピンボール(要はパチンコ)にハマり、廃盤となった台を探しに行くという話が後半から本格化します。ピンボールを女性と見立てて、会話なんか始まりますが、思いを寄せる女性を探し、再会したら、何だか吹っ切れた。次に進もうかな、みたいな。これまた「新生」「再出発」みたいな展開を暗示するような終末でした。

 

音楽と女の子

こうした展開のなか、女性と音楽は村上氏の中では欠かせません。

音楽でいうとクラシックから、ジャズから、そしてビートルズなどのポップからジャンル問わず出てきます。音楽好きにはたまらないことでしょう。

あとは女性ですかね。双子の女性が部屋に住みつき(猫かよ!)、同居するという。ただ、性的な描写はなく、真ん中に入り川の字になり寝るなんていう、第二次性徴前の男の子のようなお話が綴られていました。

その気がないのに交わってしまった、あるいは蠱惑的な状況なのに特段なにも感じなかった、みたいな設定は何だか村上氏らしいです。

 

「直子」とは?「ノルウェイの森」との関連は?

あと本作、再読していて気になったのは冒頭に「直子」の表現が見られたこと。「ノルウェイの森」から村上作品に入った私としては非常に思い入れの深い名前でありました。

 

帰りの電車の中で何度も自分に言いきかせた。全ては終わっちまったんだ、もう忘れろ、と。そのためにここまで来たんじゃないか、と。でも忘れることなんてできなかった。直子を愛していたことも。そして彼女がもう死んでしまったことも。結局のところ何ひとつ終わってはいなかったからだ。

 

 

この名前、その後本作では全く出てこなかったとは思いますが、真実はどうなのでしょうね。また続作読むことで確認したいと思います。

 

おわりに

ということで村上氏の作品の再読でした。

分かるというより、感じる乃至解釈するといった作品でした。ストレートに「おもしろい」「つまらない」というより「良く分からない」みたいな反応になりそう。

 

まあ兎に角古い作品ですが、私くらいおっさんだとまだまだ人生で見た風景でした。風呂なしトイレ共同なんて、電話共同なんて、今の子は想像つくかしら?

 

ただ、若者のけだるさ、お酒の魅惑、こうしたものは時代に関わらず、ですかね。

 

評価 ☆☆☆

2023/12/05

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