皆さん、こんにちは。
いやあ、年末ですね。
休みを取る人、自宅勤務にする方、もろもろあって、オフィスはガラガラ。
また、会社を去る人のfarewell、異動の通知などが飛びかいました。
そんな年末モードですが、バタバタと本が読了しております。
ここからは連日のポストになるかも、です。
こんな話
ソビエトの作家というと取っつきづらいという印象があります。
そして、近年読んだソルジェニーツィンしかり。全体的に、陰鬱。
でも本作『CHILD44』は英国作家の著。
但し、舞台はソビエト時代のモスクワ。従って、その陰鬱な雰囲気は十分に踏襲されています。
時は1953年。大戦の爪痕も作品の端々に滲みます。ドイツ軍の占領跡、食糧不足、外国人≒スパイ、占領と解放・レイプ、等々。
本作の主人公は、MGB(州警察?)の幹部候補LEO。彼はとある殺人事件の後片付けを命じられる。
しかし、そこに一部の疑念がわき、その念をうっかり口外してしまう。そこから周囲の雰囲気が徐々に変わりはじめる。
いつの間にかLEOは追う側(警察)から追われる側(容疑者)となり、出られない蟻地獄のようなスパイラルにハマっていることに気づく。
LEOは追っていた殺人事件を、そして自分の窮地をどのように調停するのか。
共産主義の自己完結的世界を描く
主人公LEOは戦争時代のヒーロー、かつ警察でも優秀(≒冷徹、ルール厳格主義)な男。
多数派に所属する間は当然の事が、立場が変わることでおかしさに気づくことはままあること。LEOはまさにそれに気づいた人間。
事件とは結論ありき。結論に沿って証拠は作られる(自白も証拠)。そして一旦出た結論に疑義を提出する人間はすべからく「反社会主義的」「反体制的」。
州警察時代はそうやって事件を「解決」してきたLEOは、年上の部下の嫉妬から、同様に無実の罪を着せられます。で、過去の自分のやってきた横暴に気づく、という流れです。
信じていたものが幻影だと分かったとき
もう一つLEOにとってはショッキングだったのは、最愛の妻の裏切り。
器量よしに惚れ込んで結ばれた妻Raisa。
彼女は出会った当初LEOには偽名を使っていた。LEOはそれを照れ隠しか何かと感じていた。しかしRaisaは警察とは関わり合いたくなかったから偽名だった。
LEOは彼女も惚れてくれて結婚したと思っていた。しかし、Raisaは断れば何をされるか分からないと考え、生き延びるために結婚した。
その点、LEOは能天気で純なおじさんという役回り。逆にRaisaは現実主義の女性ということに。
こうした最も近しい人間関係の心理状況が次第に変化しつつ、物語はLEOが追う殺人事件へと連結してゆきます。
英語
英語については、まあ読みやすいと思います。
一つ特徴的に感じたのは、従属節(whenとかifとか)と主節の間に句点を打たない文が多く、そこがやや読みづらいと感じました。
でも単語もまあ標準の難易度でして、これまで読んだAgatha ChristieやJeffrey Archerと同じく、そこまで難しくない、むしろ読みやすいくらい、と感じました。
おわりに
ということで、初になるTOM ROB SMITH氏のソビエトが舞台のスリラーでした。
なお本作、2008年のMan Booker Prizeのlong-listed作品となります。
単にエンタメ・スリラー系であるに留まらず、ソビエトの閉塞的政治状況をありありと描くさまは一読の価値があります。
評価 ☆☆☆
2024/12/23
日本語訳もあるみたいです。
ソルジェニーツィンの作品はソビエトの強制収容所の様子をありありと描きます。
同じく強制収容所から逃れてアメリカンドリームをつかむというのがJeffrey Archerのこの作品