皆さんこんにちは。
あっという間に一年も残すところあと二月となりました。会社では、ついこの前上期(1H)の自己評価を終えたばかりですが、個人的に勝手にやっているYear Resolution(1月初めの12月終わり)はまだまだ積み残しがあります。
こちらもきちんと取り組みたいなあと思う今日この頃です。
はじめに
村上春樹氏による1994-1995に発表された長編小説。
私が読んだのは文庫版三分冊で、夫々、第一部 泥棒カササギ編、第二部 予言する鳥編、 第三部 鳥刺し男編と名付けられています。
村上作品の典型
村上春樹氏の再読シリーズをここのところ毎月続けています。
これまで村上作品のイメージというと、軽妙、音楽、性、不安、象徴的、みたいな単語が頭に浮かびます。
もう少し具体的に肉付けしていくと、音楽や軽いエクササイズ、読書が趣味のちょっと変わった男が主人公。仕事に命を懸けるわけではないけど、そこそこ成功している。女性にモテるわけでもないけど、どういうわけか女性に困らない。こんな男性の冒険譚。そして男性は何かを失い、そして恢復する。
『羊をめぐる冒険』に終わるいわゆる鼠三部作?、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、そして『ノルウェイの森』も概ねこの流れであったように記憶します。
そういう意味では本作『ねじまき鳥クロニクル』もラストの完結以外はほぼこの流れだったかなあという印象であります。
ノモンハン事件やシベリア収容所。世界史との交差。
さて、本作で特に印象的であったのは、ノモンハン事件の戦争描写やシベリア抑留や強制労働といった歴史的シーンを、幻想的・象徴的・予言的な村上氏のストーリーテリングにブレンドしたことではないでしょうか。
当初本作を読んだとき、私はオツムの弱めな文系大学生でしたが、その25年前後たった今、子どもの教材で世界史を勉強した後、読後の理解度が上がったような気がします。
ノモンハン事件というと『失敗の本質』で語られた通り、本土の指令本部と実力行使の関東軍との指揮系統の欠損・掌握不足等から、外交問題に繋がりかねない失敗・大損害を被ったということです。そうした場面に原田氏や間宮中尉が居たということで、私は『失敗のー』に一時立ち寄ったあと、本作『ねじまき鳥―』に戻りました。
また、シベリア収容所送りになった間宮中尉がかつてハルハ河近辺で対峙したロシア将兵のボリスと再会したことも以前と少し印象が異なります。
辛く厳しい収容所というのは分かりますが、幾つか関連書やシーンが出てくる作品を読んでいたため、よりビビッドにシーンを想像できました。
結果よりもプロセスが大事!?
さて、もう一つ最後の結論について。
なんだか結構、??な終わり方だった気もします。とはいっても、精神の安寧を回復できたように見える「僕」の感じはバッドエンドではないといえるかもしれません。
というか、ここに及び、終わり方よりもその過程の起伏を楽しむので十分かもな、と思い始めました。
第一部の泥棒カササギ編では、妻の機嫌の悪さや不穏さと本田老人はじめ歴史の断片がビビッド描かれたことに感心。
第二部の予言する鳥編では、女に縁のある「僕」の周囲を彩る女性たち、加納マルタ、加納クレタ(なんだよこのネーミングって突っ込みますよね)、笠原メイ、これらに囲まれつつ、クミコ出奔の原因を探ります。
第三部の鳥刺し男編では、ナツメグやシナモンの助けを借りつつ、クミコを奪還するために綿谷ノボルと対決する(しかも物理的ではなく)という奇想天外さ。
丸ごと映画化でもしようものなら何時間で終わるのか分からん位の長尺になりそうですが、実に起伏に富む展開でありました。
おわりに
ということで一か月ぶりの村上作品でした。
結構バッサリ処分するのに躊躇しないタチですが、数十年そのままであったということは、当時の自分にとって何か思うことが有ったのであったと思います。
それを思うと、死とか、運命とか、そういう観点から読んでいたことをうっすらと思い出しました。今回は歴史という観点から読んだ部分が大きかったです。
ということで本作、死、運命、予言、歴史、戦争、こういったワードに興味がある方には面白く読んでもらえるかもしれません。
評価 ☆☆☆☆
2024/10/31
ノモンハン事件関連本は他にも読みたいと思案中。当件も取り上げ、組織運営の失敗例として日本軍の失敗を分析した本書は秀逸。
シベリア抑留というとソルジェニーツィンが頭に浮かびます。この名も村上作品でしばしば出てきますね。
シベリア抑留から辛くも逃げ切ったという以下の作品面白かった(フィクション)。