概要
砂糖という「世界商品」の歴史を紐解くことにより、近現代史を大陸横断的に俯瞰し、砂糖の文化的インパクト(特に民衆へのそれ)を分析する。ジュニア文庫からの出版も、非常に内容が濃くかつ簡潔、大人が読んでも遜色のない内容です。なお筆者は大阪大学で長年教鞭をとっていた川北稔氏。
感想
10年程前からほしいものリストに入っていました。出版年も結構古いし(1996年)、いつかブックオフで100円で買ってやろうと思っていたもののなかなか出会わず。活動制限令の下、勇気と財布を振り絞り新品で買った次第です。
激押し!世界史が更に面白くなる!
一言で言うと面白かった。本当に面白かった。スタディサプリなんかよりずっと面白い!
これまでぼんやり知っていた三角貿易、プランテーション、奴隷制度、そして産業革命等々が頭の中で綺麗にピースが嵌まる感覚を覚えました。前提知識ゼロでも面白いと思いますが、世界史を学んだ人はきっと一層面白く感じるはずです。
なかでも一番印象深かったのは、筆者が、現在の中南米やアフリカの貧困を大航海時代付近まで遡って西欧諸国へと還元している点です。
今も中米やアフリカが貧しいのはかつての西欧列強のせい!?―モノカルチャーによるインフラ整備遅延
砂糖との関連で言えば、砂糖生産により中米諸国をモノカルチャー経済たらしめていた事実です。例えばカリブ海に浮かぶキューバやバルバドス等が西欧諸国によりサトウキビ生産のみのモノカルチャー経済が推進され、それ以外の産業は一切育成されなかった。食料でさえもが当時から米国から輸入されていた。これでは地域に人材が育たない。仮に独立を果たしたとしても国が成り立たない(ゆえに今でも国が貧弱である)。
働き手を狩り取られたアフリカで、どうやって国を育成するのか
同様に砂糖生産には多くのアフリカ人奴隷が狩られ、中米諸国へ連れてこられ、そしてプランテーション農場で働かされた。当然労働力を奪われたアフリカの諸国では国力を伸ばそうにも人材が存在しない(ゆえに今でも諸々の点で日本と比べはるかに遅れている)。
このように考えると、砂糖(や綿花など)の世界章商品の生産は、現在の今に至るまで世界の多くの場所で負の遺産を残していると言えます。アフリカや中米では、奴隷からの収奪とモノカルチャーが200年以上続いていたも。もし同じ頃、日本で同じことが起きていたらどうなっていただろうか。江戸や大坂から成人男性女性が狩り出されて日本から消えていたら、きっと明治維新などは起こらなかったであろう。
勿論、現代に生きる西洋人はこうした事実に直接負い目を感じることなぞないのでしょうが、この事実は重いのではないでしょうか。私はする側でもされる側でもなくてよかったとホッとしてしまいました。
砂糖普及の文化的な役割
さて、砂糖単に贅沢品としてのみ機能したのでしょうか。決してはそうではありません。当初こそ砂糖は貴族のステータスとして後者と並んで重宝されていました。しかし、紅茶が普及するにつれ庶民にも飲茶の習慣が広まります。これこそがティーブレイクです。そしてここで飲まれるティーにはお砂糖がたっぷり入れられていたようです。これはイギリスは当時より土地が貧しく、都市労働者にとっては手軽かつ貴重なカロリー源となったからだそうです。
このように砂糖の歴史は西洋の食料事情をも明らかにするのです。なお、類似の切り口から欧州の貧しい食糧事情を明らかにしている『肉食の思想』(著:鯖田豊之)も参考になります。
おわりに
最後に、改めてですが非常に面白い本でした。教科書で勉強する年号ばかりの世界史ではなく、現代とのかかわりや世界の事情の関連を説明してくれています。多くの大人、特に私のように世界史を勉強しなかった方、ジュニア文庫ではありますが勇気を出してこの本を手に取ってほしいと思います。きっと世界史の面白さを共感していただけるものと思います。
評価 ☆☆☆☆☆
2020/07/12