海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

多民族国家中国の歴史。こりゃまとまらないはずだわ―『世界史とつなげて学ぶ中国全史』著:岡本隆司


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 中国というと我々の多くのイメージは中国共産党とか、共産主義とか、中華料理とか、門切り型のイメージを持っていることが多いと思います。

 本作はそのような通り一辺倒な中国のイメージを壊すとともに、作品名にある通り、日本やその他の諸国の歴史と関連付けることで中国史をより理解しやすくする作品と言えます。

 

実は中国って多民族国家!?

 本書を読んで一番感じたのは、中国はとにかく多民族だということです。元という国がモンゴル系ということは皆さん日本史で習ったと思いますが、後の清も実はツングース系民族の王朝であり、漢民族のものではありません。4-5世紀を五胡十六国時代と言いますが、この五胡も5つの胡族の国ということであり胡族とは華人以外の蛮族の意味です。現在も50以上の少数民族が暮らしていると言われています。当然のことながら異民族同士で文化や習俗は異なりますね。

 つまり我々がイメージする漢人中華思想に基づく王朝を打ち立てた時代は、意外にも中国の歴史のなかではそこまで長くはないのです。

 

 外国が日本に持つ単純なイメージ(寿司、アニメ、勤勉)はすべての日本人に当てはまるわけではないように、我々日本人が外国に持つイメージもまた、得てして正確ではない可能性が高のではと考えてしましました。もちろん国民性といった一般的な性格はあるかもしれませんが、それとてグローバル化された社会では徐々にまだらになってきているのではないでしょうか。中国とか日本とかにかかわらず。

 

中国の多様性の現代的な意味

 ちなみに、中国の多様性についてですが、この多様性が現在の中国の悲劇を表わしているように思えてなりません。

 本書でも触れられていますが、日清戦争以降の負け戦が続く中国で、国民国家を目指して辛亥革命が起き、第二次世界大戦を経て共産党一党体制が現在も続いています。しかし、こうした国民国家の理想がいかに難しいのかは、中国の現状を見ればよくわかります。ダライラマはインドへ亡命し、チベットは厳しい弾圧を受け、新疆ウイグル地区では今も人権侵害を他国から指弾されています。

 つまり、そもそも中国人という国民概念はいわば幻想であり、漢人満州人(清王朝の辮髪の人達。ラーメンマンの感じ)、モンゴル人(遊牧民)、ウイグル族ムスリムの多い中央アジア人)、チベット人という別個の歴史と文化を持つ別々の民族なのです。さすれば共産党一党独裁で何とか70-80年ばかり来ましたが、そもそも一つの国としてまとめるには無理がありそうなのです。さすれば中国人というアイデンティティはどこまで浸透しているのか、と疑問に思った次第です。

 ソヴィエト連邦崩壊後、ヨーロッパではユーゴスラビアが内戦に陥りましたが、そこには国民国家というよりも民族や言語或いは宗教にこそアイデンティティを感じていた人々が多かったのではと想像します。

 今後の中国がどうなるかわかりませんが、平和でいてくれることを願うばかりです。

 

世界史との絡み。新しい視点も。

 その他、幾つか見られた世界横断的な歴史分析も良かったです。たとえば中国発の統一王朝である秦の始皇帝、実はローマ帝国の統一とほぼ同時期のBC3世紀とか、3世紀に起こる気候の寒冷化により、中国では遊牧民族(胡族)の南下による侵略を、西洋ではゲルマン大移動を引き起こしたとか、です。

 また、貨幣に関する記述も見られ、興味深かった。例えば元の中統鈔という紙幣は銀との兌換が可能だったとか(結構すごいことだと思いますよ)、清朝で中国の輸出が激増したのはヨーロッパ各国が金兌換を開始したため銀の価格が落ちたため(つまり通貨安による輸出増)とか、政治史に隠れていて日が当たらない中国経済の一端が見えた気がしました。

 

おわりに

 今更ですが、本作の内容は、おおむね高校世界史の教科書に書いてある事項だと思います。なので、しっかり世界史を勉強された方には、なあんだ知ってるよ、という感覚を持たれるかもしれません。しかしながら、中国史を個別に学びたいというニーズがあるときは、本作は非常にコンパクトかつ優れた本だと感じました。また、決して中国は一通りではないということを再認識させてくれました(この点は強調したい)。

 ですので、本作につきましては、どちらかと言うと初心者向けかもしれません。ですので、世界史未修者や中国史を通して勉強をしたい方にはお勧めできます。あと、中国と関わりのあるビジネスマンにとってはこの作品の内容は最低限度の中国史知識かもしれません。以前教養レベルが高めの中国の方とお話した時、奥様との民族の違いをジョークのネタにされていたことを読後思い出しました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/02/16

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