海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

イスラムが「創った」ヨーロッパ世界 | 『マホメットとシャルルマーニュ ヨーロッパ世界の誕生』アンリ・ピレンヌ、監修:増田四郎、訳:中村宏・佐々木克己

 

歴史が面白い、と感じる瞬間があります。まあ簡単に言えば「風が吹けば桶屋が儲かる」的な話が聞けたときです。言い換えると、一見普通に見える事象の裏に、思いもよらない事実が隠されていた時。また、どうも腑に落ちない不可解な史実の背後に、状況証拠等を駆使して人が考えもしなかった動機を探ったりするときです。

 


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マホメットが欧州を作った!?

で、本作。世界史の授業でしばしば言及される作品です。面白いのはイスラムがヨーロッパを形作った」とする言説です。

もう少し丁寧に言うと、現在のヨーロッパを基礎づけたのはイスラム教の侵入とカロリング朝だという言説。なお本作第二部でのメインテーマです。

 

「桶屋が儲かる」しくみ

ロジックは以下の通りです。

5世紀以降のイスラムの急激なる隆盛(アラビア半島からの北上)によって、先ずは商業圏としての地中海からキリスト教徒・欧州人たちは排除される。ローマ時代以降、商業で大いに栄えたマルセイユなどの港湾都市での取引はしりすぼみとなり、ローマ時代は大いに使用されていた香草やハーブ等は600/700年代以降はさっぱりヨーロッパに入ってこなくなったとか。

 

その結果、東方世界(現ギリシア・トルコを中心とする東ローマ帝国イスラムとの対峙で精いっぱい)と西方世界(フランク王国等それ以外のヨーロッパ)とが分断してしまったという。

 

さらに、海上貿易の途絶は各王室財政に窮乏をもたらす一方、土地持ち貴族が(税が揚がるから)有利になる。そうこうしている間に、宮宰カロリング一家が無策な王家をのっとって覇を唱えたということのようです。

 

丁度そのころ、イコン崇拝問題でビザンツ皇帝と揉めていたローマ・カトリックシャルルマーニュを皇帝として戴冠することで教会の自治を確保するという形となりました。

 

ちなみにシャルルマーニュが皇帝となった当時、俗人教育は完全にすたれ、読み書きできるものはまれであったということらしく、聖職=学者、と同義だったそうです。結果、皇帝の傍に仕える読み書きできる聖職のみがラテン語を使用する一方、皇帝をはじめとした俗人たちは土着の言葉(フランス語等)を使用するという流れになったということのようです。ここに世界語としてのラテン語の命運の尽きようが確認できます。

 

ということで、イスラム隆盛→地中海海上貿易途絶→各王国財政困窮→臣下がのし上がる→その臣下(カロリング家)の勢いにローマ教会が乗っかる→ヨーロッパの誕生そして中世の始まり、とこんな感じのようです。

 

結局これってどういう意味があるのか・・・

どうですか?面白くないですか?笑

この言説は、さらに「そもそもヨーロッパとはどの部分のことなのか」とか更なる疑問を呼びそうな気もします。ただ、きっとピレンヌは、同じ土地に同じ民族が住まうけれど、シャルルマーニュ以降は文化の性格が異なる、こういいたかったのだろうと思います。これは中世以降の歴史を学ぶ上では大きなヒントになるのだろうと思います。

 

第一部の内容も少しだけ

ちなみに第一部は、ゲルマン民族の移動はヨーロッパ文化への影響はほとんどなかったという言説。これは驚きとかは特にありませんが、世界史でそれなりに習う割に影響なかったのね、という軽い驚き。なんでもゲルマン民族はヨーロッパ世界に侵入してきたものの、あっという間にラテン文化に馴染んでしまい、法律も文化もすべてラテン色に染まったということらしいです。

 

おわりに

ということで世界史に興味がない人にとってはさっぱり面白くない本かもしれません。でも歴史の授業が無味乾燥であると感じた時など、こうした書籍は助けになるのではないかと思いました(さらに眠気を催す可能性もあります)。あらゆる物事は必ず因果の糸でつながっています。そして授業では説明されないことが多い物事の因果が、こうした書籍で確認できると、歴史も世界も一層面白くそして身近に感じられるのではないか、と思った次第です。

 

評価     ☆☆☆☆

2022/10/02

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