近所の新古品を扱う本屋で5冊セットで買ったもの(確か日本円で2,500円程度)。こちらが最後に読んだ作品となります。
これまでアガサ・クリスティの作品を4冊読んできました。”MURDER OF THE ORIENT EXPRESS”, “THE ABC MURDERS”, “MURDER OF ROGER ACKROYD”, そして“EVIL UNDER THE SUN”です。そして、本作”FIVE LITTLE PIG” の5冊を読んだ中では、本作が間違いなく一番面白かったです。
あらすじ
16年前の父親Amyasの殺人の再調査を依頼してきたのは当時5歳であった娘Carla。21歳になったCarlaはフィアンセとの結婚が危ぶまれていた。というのも、その犯人が母親Carolineであり獄中死していたからである。ところが彼女宛てにかつて届いた手紙には無実を訴える母の声が。依頼を聞き入れたポワロはかつての関係者にあたり事情を調べるが、そこに浮かび上がるのは意外な真実…
ドラマが起こる予感ぷんぷん
いやあ何と言っても、舞台設定が私の好みでした。16年前という当の昔に結審した事件。容疑者も被害者もどちらもがこの世にいない。そして両人の関係者、警察関係者、弁護士等誰もがCarolineの罪を疑わない。そう思わざるを得ない。自白だってしている。そこにポワロが挑むという筋なのですから、本の冒頭を読んだだけで、これはドラマが起こる・絶対なにか起こる、とわくわくして読むことができました。
ポワロのやり方はとても地道で徹底的。容疑者・被害者と近しい人一人ひとりに会ってインタビューを繰り返します。更には事件当日の事を各人に手紙に書かせ、各人からみたAmyasとCarolineの人間像を再構成してゆきます。人によって実に人物像が異なることに驚かされます。こうした事件像の再構成をしてゆく様は、近年ドラマや映画にあった『99.9-刑事専門弁護士-』の主人公深山が被疑者の弁護にあたって「まずは生い立ちからお話を…」と切り出すあれを彷彿とさせました。
その他気になった点をいくつか
さて、気になったのは浮気の世間的な許容度。日本ではかつては女性関係に寛容な印象がありました。特に芸能関係や芸術関係にその印象がありました。いわゆる芸の肥やし論。私が子どもであった1980年代・1990年代まではそうした雰囲気を感じていました。今からすれば考えられないような状況ですが。
他方、本作は扉を見ますと1943年の初版とありますが、アガサ(あるいは当時の英国の雰囲気?)は明らかにこれを許容しない風潮のもと、被害者で画家のAmyasを描いています。本1冊だけでは判断しかねますが、英国社会は特に地位の有る人には相応に倫理的厳格さを求めていたのかもしれません(単なる想像です)。
あと、Amyasの浮気相手だったElsaの描写が8章で出てきます。そこにわざわざ彼女の出自として、粉屋の娘的な表現が出てくるのです。
“In her voice was the arrogance of the successful mill hand who had risen to riches. (彼女の声には富裕にまで上り詰めた成金製粉業者のもつ尊大さが見られた)”(P.157)
たまたま並行して読んでいた『カンタベリー物語』の解説によりますと、粉屋というのは卑しい職業の代名詞のようです。好きだったらいいじゃない、と浮気を容認するElsaの生き方は先進的にも見えますが、他方描写からするとやはり非難めいた印象を与えていると思いました(当たり前といえば当たり前ですが)。
おわりに
ということで実に面白い作品でした。面白い故にアガサ作品で真っ先に読むことはお勧めしません!「オリエント~」や「ABC~」などを読んだ上で本作読むと、一層本作の良さを味わっていただけると思います。
英語は美しい英国英語(おかしな表現ですが)。簡単だとは言いませんが、死ぬほど難しいとも言えません。文法は間違いなく高校レベルですので、単語さえわかれば楽しく読めると思います。
評価 ☆☆☆☆
2022/03/31
以下、読了したアガサ4作品もご参考まで。