大学時代の友人とのバカ騒ぎっていうのは、多くの方の記憶に残っていると思います。
本作『砂漠』は、そういういつもつるんでいた仲間のことが脳裏に浮かぶこと間違いなしの名作であります。
僕(北村)、南、鳥井、西嶋、東堂、の五人の個性ある仲間たちのエピソードが春夏秋冬の四季にあわせて描かれます。
実は西嶋の物語
本作は何といって印象に残り過ぎるのは西嶋でしょう。どストレート発言と呼びつけ+敬語。空気読むなんていうことをしない独自の価値観。そしてダサい。そしてかわいい。
読みつつ「あー、これって本当の主役は西嶋だなあー」って思っていたら、書評家の吉田さんの解説でも、やはり西嶋が気に入った旨が書いてありました。「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」と言い切る、独断・毒舌・奇天烈キャラですが、「恰好悪いけど堂々としているんだ」と友に言わしめる不器用キャラは、見ていて(読んでいて)清々しい。
そしてそういう癖を受け入れつつ、友人という贅沢をかみしめた5人の4年間、しめくくりの学長の言葉が美しく、必見。
醒めた北村が徐々に熱くなる。最後の一途さも良き
もう一つ。北村の鳩麦さんとの恋愛も良かった。
上記の西嶋の真っすぐな表現「砂漠に雪を降らす」という言葉にもある砂漠。厳しい環境、守られていない環境という意味合いで、北村も何度か表現します。
社会人の世界というのはその「砂漠」であり、いつも皆が必死に生きているという世界。そして彼女の鳩麦さんが既に生きている世界。
その「砂漠」で死なないように、うるおいを失わないように、鳩麦さんとの結婚を匂わせて終わるこの締め方も素敵な終わり方だなあと思います。
そういえば、私の同期には彼女と学生時代から付き合っていた奴が(私も含めて)多かったのですが、入社後数年たって「いやここまで待たせて結婚しなかったら後ろから刺されるって」「たしかに」みたいな話が結構口上に上っていました。本当に失礼な話ですが。
それから比べるとですよ。人を思い続けるってのはとても難しいのですが、そのなかで北村のささやかな一途さみたいな点、非常にいいなあ、と思った次第です。
おわりに
ということで伊坂氏の描く青春小説は、面白く、そして感動的でもありました。
こういうのは中高生にも読んでもらいたいなあと思いました。細かいことは面倒くさくって全然書いていませんが、お勧め度かなり高いです。読んで欲しい。
評価 ☆☆☆☆
2023/10/23