今回は一月半ばから、かなり長めに一時帰国していますが、つくづく日本の季節の移り変わりの美しさは素晴らしいと感じます。2月の初めは蕾だった川沿いの梅は今や満開。白やピンクに咲き誇り、はらはらと花びらを風に散らします。あぁ、何と可憐で、儚く、美しいことよ。そしてもうじき、桜もそのあでやかな姿を見せてくれるのでしょう。
対して私の居所。常緑の熱帯。いつも暖かく、木々の緑は太陽の光にいつも燦燦と照らされます。それはそれなりにいいのですが、時にその単調さに息苦しくなる時もあります。
四季の移り変わり、これは天の恵みであると感じます。
さて本日は、私にとって新たな作家さんです。最近はまりつつある朝井リョウ氏のお気に入りとのことで早速手に取りました。
ひとこと
ほのぼのとした、軽妙なそしてユーモアのある楽しい青春小説。面白い。
自分の大学時代を思い出す
大学入ったときって、自分ってどうだったかな。1990年代半ば。
当時まだ一部の服好きな人の限られたセレクトショックであった渋谷・原宿のSHIPSやBEAMに足しげく通い、ウインドウショッピングで鍛えた目で、セール品や一番安い価格帯のアイテムを買う。男子校上がりの身としては、大学に女子が多すぎて常に腰がソワソワする感じ。頑張って彼女作ろうと合コンの機会をうかがうも、結局仲の良い男子グループとの家飲みがメインとなる。時給の高いバイトを探して情報誌を必死で読む。
本作、主人公の世之介が大学生を生きるのは1980年代後半、バブルのピーク。私はそのちょっと後に大学生になりました。当時ケータイもコロナもありませんでしたし、ウインドウズはGUIですらなかった(当時イケてたブラウザのNetscapeを立ち上げるのはダブルクリックではなくコマンドプロンプト経由であった)。でもきっと学生のメンタリティはそんなに変わらないのだと思います。
主人公世之介は九州の田舎から出てきたちょっと抜けた男の子。
彼、「愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる」(裏表紙より)。なんというか世之介は愛されキャラなんですよね。冷房の恩恵にあずかりたいがためだけに友人の家に行くなんて言う失礼さは大学生ならでは。まあでも渋々許されちゃう。まあ許す方も許す方ですが笑
そんな世之介の、学生生活、友達との付き合い、バイト、サンバサークルでの日々がユーモラスに描写されます。でも何といっても気になるのは女性関係。勝手に千春さんに恋してのぼせ上って空回りしたり、地元の元カノと割と仲良く友人でいれたり。あと彼女かどうかちょっと曖昧な立場の女性。結局付き合うようになるスーパーお嬢様の祥子ちゃんとのちぐはぐなやり取りも面白い。祥子ちゃんもぶっとんでいて、関係が曖昧なまま世之介の実家に行っちゃうとか。迎えて一緒にご飯を食べちゃう家族もなかなかな包容力。外堀を埋められた感に身動きが取れない世之介もまたよろしい笑
世之介への駄目だしや突込み、「押しの弱さ」や妙な気の強さは、天の声よろしくナレーションが第三者の視点で解説してくれます。これもほのぼのとして好き。ちょいちびまる子ちゃん的。
ちなみに、話は後半より1980年代の当時とその後(20数年後の2000年代)とが行き来します。そこに何がしかの変化を示唆しますが、このあたりが物語をピリッとしめる上手な筆運びであると感じました。作中でもはっきり言わず、状況から読者に知らしめるので、この変化・事実が最後部で明らかになるまで結構むずむずします笑
おわりに
ということで吉田修一さんの作品、初めて読みました。
芥川賞受賞作家さんですが、なんというか「味のある」文章でした。NHK連続テレビ小説的なユーモアあり、ほっこりありの安心して読める楽しい作品でした。どうやら続編もあるようなので、また読んでみたいなあと思います。
世代的には80年代90年代に青春を過ごした1960年代生まれ~1970年代生まれくらいの方々にドンピシャな作品かと思います。まさに筆者の年代ですね。また、田舎から都心へ出てきてそのギャップを感じた方にも大いに共感いただける作品かと思います。
評価 ☆☆☆☆
2023/03/02