海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ちょっぴりドジな世之介が紡ぐ青春小説|『横道世之介』吉田修一

今回は一月半ばから、かなり長めに一時帰国していますが、つくづく日本の季節の移り変わりの美しさは素晴らしいと感じます。2月の初めは蕾だった川沿いの梅は今や満開。白やピンクに咲き誇り、はらはらと花びらを風に散らします。あぁ、何と可憐で、儚く、美しいことよ。そしてもうじき、桜もそのあでやかな姿を見せてくれるのでしょう。

対して私の居所。常緑の熱帯。いつも暖かく、木々の緑は太陽の光にいつも燦燦と照らされます。それはそれなりにいいのですが、時にその単調さに息苦しくなる時もあります。

四季の移り変わり、これは天の恵みであると感じます。

 

さて本日は、私にとって新たな作家さんです。最近はまりつつある朝井リョウ氏のお気に入りとのことで早速手に取りました。


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ひとこと

ほのぼのとした、軽妙なそしてユーモアのある楽しい青春小説。面白い。

 

自分の大学時代を思い出す

大学入ったときって、自分ってどうだったかな。1990年代半ば。

当時まだ一部の服好きな人の限られたセレクトショックであった渋谷・原宿のSHIPSやBEAMに足しげく通い、ウインドウショッピングで鍛えた目で、セール品や一番安い価格帯のアイテムを買う。男子校上がりの身としては、大学に女子が多すぎて常に腰がソワソワする感じ。頑張って彼女作ろうと合コンの機会をうかがうも、結局仲の良い男子グループとの家飲みがメインとなる。時給の高いバイトを探して情報誌を必死で読む。

 

本作、主人公の世之介が大学生を生きるのは1980年代後半、バブルのピーク。私はそのちょっと後に大学生になりました。当時ケータイもコロナもありませんでしたし、ウインドウズはGUIですらなかった(当時イケてたブラウザのNetscapeを立ち上げるのはダブルクリックではなくコマンドプロンプト経由であった)。でもきっと学生のメンタリティはそんなに変わらないのだと思います。

 

主人公世之介は九州の田舎から出てきたちょっと抜けた男の子。

彼、「愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる」(裏表紙より)。なんというか世之介は愛されキャラなんですよね。冷房の恩恵にあずかりたいがためだけに友人の家に行くなんて言う失礼さは大学生ならでは。まあでも渋々許されちゃう。まあ許す方も許す方ですが笑

 

そんな世之介の、学生生活、友達との付き合い、バイト、サンバサークルでの日々がユーモラスに描写されます。でも何といっても気になるのは女性関係。勝手に千春さんに恋してのぼせ上って空回りしたり、地元の元カノと割と仲良く友人でいれたり。あと彼女かどうかちょっと曖昧な立場の女性。結局付き合うようになるスーパーお嬢様の祥子ちゃんとのちぐはぐなやり取りも面白い。祥子ちゃんもぶっとんでいて、関係が曖昧なまま世之介の実家に行っちゃうとか。迎えて一緒にご飯を食べちゃう家族もなかなかな包容力。外堀を埋められた感に身動きが取れない世之介もまたよろしい笑

 

世之介への駄目だしや突込み、「押しの弱さ」や妙な気の強さは、天の声よろしくナレーションが第三者の視点で解説してくれます。これもほのぼのとして好き。ちょいちびまる子ちゃん的。

 

ちなみに、話は後半より1980年代の当時とその後(20数年後の2000年代)とが行き来します。そこに何がしかの変化を示唆しますが、このあたりが物語をピリッとしめる上手な筆運びであると感じました。作中でもはっきり言わず、状況から読者に知らしめるので、この変化・事実が最後部で明らかになるまで結構むずむずします笑

 

おわりに

ということで吉田修一さんの作品、初めて読みました。

芥川賞受賞作家さんですが、なんというか「味のある」文章でした。NHK連続テレビ小説的なユーモアあり、ほっこりありの安心して読める楽しい作品でした。どうやら続編もあるようなので、また読んでみたいなあと思います。

世代的には80年代90年代に青春を過ごした1960年代生まれ~1970年代生まれくらいの方々にドンピシャな作品かと思います。まさに筆者の年代ですね。また、田舎から都心へ出てきてそのギャップを感じた方にも大いに共感いただける作品かと思います。

 

評価   ☆☆☆☆

2023/03/02

内容に目新しさはないも、経験者ゆえの言葉の重みあり |『50代から実る人、枯れる人』松尾一也

みなさんね、まあーこんな本、手に取らないと思うんですよ。

50代?いやあ、おっさんだし。遠い将来のことだし。って、そう思うでしょ?

 

あっという間にやってきまから!!!

 

・・・ここから先の将来の仕事・お金に不安なアラフィフの私。何とか先人の知恵を得たいと、すがる気持ちで購入した次第です。

 


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アラフィフはきっと読んでて楽しい

ターゲット層がごく絞られている本ですが、その分アラフィフへのエンパシー強め。

役職定年お疲れ様 → あー、パパ友のオンライン飲みでよく話題になってるねえ。親の介護 → オヤジのボケ、うちも始まりました。子供の教育の仕上げ → 子供が二人とも私立の高校いって財布が壊れました泣、等々、あーやっと俺の気持ちわかってくれる人が出たわあ、みたいな気持ちになります。

 

で、内容のノウハウですが、はっきり言うとどの年代でも必要なスキルの話が多く、内容も特に目新しいものはありません。どのページも実る人は〇〇、枯れるひとは××、と人生を簡単に二分法でまとめられると、うーむ、って黙ってしまいます。ただ、一つの業界で生き抜いた筆者の意見は、やはり響くものがありました。

 

一例を挙げますと、「人生を幸せにするものに気づく」にあるマーク・トウェインの引用の孫引き

「かくも短き人生に、争い、謝罪し、傷心して、責任を追及している時間などない。愛し合うための時間しかない。それがたとえ一瞬に過ぎなくても、良い人生は良い人間関係で築かれる」(P.36)

 

どうですか。美しいじゃないですか。

友人知人がちらほら鬼籍に入りだし、親の老いを見て、さらに自分の体でなかなかの不具合が見つかったりすると、どうしても死を意識します。そんな時にくだらない喧嘩とかしている時間はないんじゃね?ってまさにその通り。本当に大事な関係は誰となのか、そして多少の欠点は受容する心の広さを持とう、と思いました笑

 

あとは「発言をマネジメントする」(P.59)の箇所もなかなか。ベテランなりの矜持をもって自分の思いやノウハウを発信すべし、と勧めます。

これなんか私、海外のローカル社員として、日本の本社から派遣されてくる若い駐在の子なんか見ると、感じるところありです。一部の子はもうめちゃくちゃで、喋る気とかなくなることがあります。英語も業務も根回しや段取りも含めてそのレベルかと。別に部下でもないし増してや自分より良い給料もらってるんだから、勝手に傷ついて学んでよっていうのが最近の気持ち。でもこういうの読むと、まあ老婆心くらいはちょいと示しておいた方が良いのだろうな、と。

 

それ以外にも色々ありますが、全般的にはペースダウン、大事なものの選別、というのが通底する方向性かと思います。

 

おわりに

ということで、いわゆるハウツー系、自己啓発系でした。

タイトルほど浅薄な内容ではないですが、新奇さがある内容でもなかったかと思います。中高年の方が悩むポイントが書いてあるので、ドンピシャの年代の方、あるいは、人事関連の業務に就かれている方で若い方とかは参考になったりするかも、ってちょっと思いました。

 

評価     ☆☆☆

2023/03/02

突き抜けて人の良い肉子ちゃんに思う|『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

本作は私にとって再読でありました。

きっかけは近くの市民ホールでやっていた映画の再上映です(因みに700円!)。

映画があるのは知っていましたが、見たことはありませんでした。ならば見た後に再読しようと思い、手に取りました。


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ひとこと

そうですね。印象は、西さんの作品らしい、静かな騒がしさ、とでも言いましょうか。

 

夫婦漫才ならぬ、親子漫才的な

物語は、主人公の子供の見須子喜久子(みすじきくこ)、彼女の眼を通して描かれます。小学五年生の女の子が、北陸の田舎の港町での生活を慎ましやかに表現します。性格は母親とは真逆。頭の回転もよく、器量よしで静かなタイプ。でも運動もできちゃう。母親を冷静・冷徹に観察し、口には出さないものの突っ込みまくっています。その突込みの声がどこか作品全体に冷静さを与えているような印象です。

 

一方騒がしさというのは、主人公たる母親ですね。その名も見須子菊子(みすじきくこ)と、読みだけみると子供と同姓同名という。既に「なんでやねん」て読者に突っ込みを期待するような展開。このおばちゃん、これまた大阪出身のこてこて関西弁で、ちょっと頭が弱くて、体形も相当ふと目で、見た目も器量よしとは言えない。まあ悪目立ちする感じです。それでいつの間にかついた愛称が「肉子」。

 

この親子、どこからどう見ても似ていないのです。で、ここまでで勘の良い方は概ね方向性が読めるのでしょう。ぼんやりいうと、終盤に向けて親子関係の真実がつまびらかになる、というものです。

 

肉子ちゃんが体現するものとは

さて、ここで改めてタイトルを確認して頂きたいんです。「漁港の肉子ちゃん」。ストーリの視点は子供からのものですが、それでもタイトルはその母親の愛称(「肉子」)なのです。私は、西さんがここに何らかの思いを込めたのかなって考えてしまいました。

デブでブスでしかもアホ、でも飛びぬけて明るくて、人が良い肉子ちゃん。逆境にもめげないし、他人のことを悪く言わない。そんな人の良さの価値を問うている気がします。

 

会社とかでは違いますよね。真逆。「いい人なんだけど・・・」という枕詞は、仕事できないんじゃおのれボケこの給与泥棒、と言い換えてもまあ7割くらいは意味が通じると思います。性格悪くて仕事ができる人と、性格良いけど仕事ができない人だと、前者が可愛がられ出世すると思います。つまり、人の良さは必ずしも業務上の価値として認められるわけではないと。

でも家族ならどうでしょう。むしろこの「人の良さ」を家族こそが認め受け入れることが大事なのかなあと。丁度、喜久子が菊子を受け入れたように。

 

というのはですね、つい先ほども80を超える母親と喧嘩したのですよ(しょうもない話ですが、鍋の洗い方について)。うちの母親はお嬢様育ちで、買い物大好き、物溜めまくる、壊れてなくても新しいもの買いたがる(因みに古いのも捨てない)、そのくせ整理とかド下手、散らかしっぱなし。だけどめちゃくちゃ外面いいし、頑固で自分の考えを曲げない、という超めんどくさい人なのです。私の家内も「お母さんとは絶対一緒に暮らせない」と頭を抱えるくらい。

随分前、もうかれこれ20年くらい前に父親に、独自ロジックが半端ない母親の面倒臭さを指摘していたんですよ、よくもまあ結婚していられるね、と(失礼な話です)。すると父親、ぽつりと絞り出したのは「あれは悪気は一切ないんだよ」と。

父親は、母親の人の良さ・裏表(悪意)のなさを見て、それ以外の欠点を吞み込んでいるように見えました。

 

本作を読んだら、そんな父親との会話を思い出しました。

人を見れば、悪いところは簡単に見つかる。家族だからこそ、悪いところではなくて良いところを見てあげないといけないのかなあと。母親だけでなく、嫁や子供たちに対してもそうですね。まあ簡単ではありませんが。

 

小説推し

あと、映画(アニメ)もありますが、断然小説を推します。

小説では喜久子は第六感があったり、見えないものが見えたり、虫や生き物の喋りも感じ取ってしまうちょっと不思議な感じの子として描かれています。でも映画ではこのあたりの描写は弱い。また小説ではマキさんとか金子さんとか、癖強めの面白いキャラは省かれていました。映画はですね、全般的に小説の内容を端折って尺に収めた、というイメージを抱きました。

 

おわりに

ということで久しぶりの西作品でした。

港町でのうるさくて静かなお話です。一般受けする感じではないのですが、私はこの西さんの醸す雰囲気が好きでついつい読んでしまいます。

 

因みにですが、私と母の喧嘩の原因。焼き芋焼き鍋にこびりついたサツマイモの蜜です(!)。母親「そんなのを洗い流したら水道が詰まるからやめてくれ」、私「それくらいじゃ詰まらない、さっさと洗わせてくれ」。

くだらないですよね。さていずれが正しいか。でも今は正否は問うまいよ。明日私が頭を下げますよ。

 

評価   ☆☆☆

2023/02/27

アホなノリが病みつきに!|『風と共にゆとりぬ』朝井リョウ

朝井氏のエッセイは2作品目です。昨年、「時をかけるゆとり」で、その真摯なアホさ加減に驚愕しました。

中学生の娘(日本語いまいちな子)が「電車で吹いちゃう」との感想を漏らしたことから、我が家での氏への評価がうなぎのぼりとなり、本作の購入に至りました。

そして今般、父たる私が先に読みましたが、本作で完全に朝井ファンになった、といっても過言ではありません。


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本作でも彼のアホさ加減が遺憾なく、そしてユーモラスに語られます。妙なプライド、中二病的自意識過剰感、しょうもないトラブルと下ネタ、その他もろもろのあり得ないような話の数々。

今回、彼のエッセイは就職後から兼業作家を経て専業になるまでの期間のエピソードが語られます。で、読中気づいたのです。

この人、社会人になっても変わらずアホかもしれない・・・

この時点で惚れました。こういうタイプ、愛してやまない真正のアホの可能性が高いかも。

前作も確かに片鱗は見えました。でも大学生時代の話がほとんどで、まあ学生って全般的にアホだし、筆者も若いよね、と私は彼のことを斜に構えてみていました。

でも違うんです。彼はきっと本物。そういう真剣・真正なアホは是非応援したい!

 

・・・で、具体的に今回面白かったお気に入りを幾つか。

作家仲間の柚木麻子さんとともに顧問税理士の結婚式の余興で「今夜はブギーバック」の替え歌「今野でマネーバック」を練りに練って会場を沸かせる話『作家による本気の余興』。

そして痔瘻に悩み手術までの過程を爆笑で綴る『肛門記』です(出だしの放浪記でも方丈記でもない、という掴みで持ってかれた)。

あと、インキンタムシばらまき疑惑を明るく暴露する『初めてのホームステイ』もよかった。

 

こうやって面白く読んでいると、作中登場する柚木麻子さんって、作品はどんなだろうか、とか、筆者が好きだという吉田修一氏の「横道世之介」もどんな話だろうかと気になり始めました。世界が広がりますね。

 

おわりに

ということで朝井氏の爆笑エッセイでした。

帯の宣伝(裏の方)にもくだらないとあったのですが、確かに内容的にはしょうもない話ばかり。でも筆者がいたって真剣であるからこそ、そこに面白みやユーモアが生まれていると感じました。

筆者の言及している作品、登場する別の作家さん、そして筆者自身の別作品にも興味が湧いた一作でありました。

ワイドショーとかバラエティーみたいなノンフィクション系エンタメを欲している方にはお勧めできる作品かと思います。

 

評価   ☆☆☆☆

2023/02/26

フリーランスさんの、ほのぼのエッセイ |『フリーランスの生活をぶっちゃけてみました。』大塚さやか


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この手の本を手に取るときは、エッセイなのか、はたまたハウツー系なのか、ちょっと思案します。私が求めるのはハウツー系。会社に依存しない生き方が展開できないかと検討しているからです。

 

フリーランスのぶっちゃけ話

で、本作はどっちかというと、エッセイ系です。

女手ひとりでフリーランス、辛いこともあるけど楽しいこともあるよ、というノリです。ジェンダーレス時代に表現が古臭くて申し訳ありませんが。

 

その生の声をフリーランスの本人直々に語っているところは好印象です。ハウツー系の斜め上からの「よく失敗する人は大抵〇〇なんです」的なしたり顔(したり文?)はありません。100%体験談・感想です。

 

そうしたぶっちゃけ話がメインであることの帰結ですが、「えー、やっぱりフリーランスって楽じゃなさそう」って感じちゃいました笑 例えば、仕事を終えてから支払いサイトがズレるというのは、やっぱり辛そうだなあと。今している仕事がすぐ現金化されず三カ月程度ずれ込む。ということは、今頑張らないと将来食えない。そしてサラリーマン以上に感じそうな将来への不安(病気とかできないし)。むむう。

 

無からフリーになりたい人、ともに自己分析しよう

だから、ハウツー系を期待している方は、本作は避けるのが吉かな。

例えば「飯のタネ」の開発の仕方とかを求めている方。はい、私です(まあそこを他人様から授かろうということが既におこがましく自立していないのですが・・・)。そうした話は展開されませんので、悪しからず。

筆者の場合はイラストレーターという職であり、その「絵」「デザイン」「イラスト」というコンテンツは一般人と競争の起きないものかと思います。もちろん、デザイナーやイラストレーターのなかでもこれまた競争が熾烈であろうことは想像に難くありませんが。ただそのコンテンツは強力で、際立っていることは確かだと思います。

だから、どうすればフリーランスになれるのかな・自分なにができるかな、とか考えている方は、本作を読むのではななく、自己分析からでも始めましょう。私と一緒に笑

 

おわりに

ということで題名まんまのエッセイ本でした。

表紙には、依怙地に「結婚しない!」とか宣言しちゃっていますが、結婚してても参考になりそうですよね。手に職がある方はフリーランスで夫婦で地方に行くとか、相方もリモート可の職に移行してみるとか、応用が利きそうです。そういう意味では参考になりそうな実体験本でした。

手に職の有る方、(そのスキルで)独立を考えている方、等々には参考になると思います。

 

評価     ☆☆☆

2023/02/24

 

英国移民の厳しい現実をえぐる。引き込まれる佳作 |『The Year of the Runaways』Sunjeev Sahota

 

日本では外国人労働者の受け入れには否定的、労働力だよりの移民には断固反対。こんなニュースをしばしば耳にしてきました。

ところが、コロナ後に何度か一時帰国すると、ワクチン接種を確認するファストトラックのスタッフは外国人だし(バイト?)、ターミナル駅へ向かう空港バスで働いているのも外国人の若い子たち。寒いのに、大変だなあ。ご苦労様、と声をかけたくなります。

 

その瞬間、強い既視感を感じました。

東南アジアでも比較的豊かな地域では、外国人労働者が低賃金できつい仕事をこなす現状があります。私がよく目にするのはミャンマー人(食堂に多い)、ネパール人(ガードマン)、家政婦だとインドネシア人やフィリピン人、そしてどの業界でも良くインド人を見ます。

物価の高い国では若者はそういう汚れ仕事はしたくないとか。

年配の方は移民の受け入れに反対が多いようですが、日本でも実質受け入れの方向に自然と移行しつつあるように感じます。

 


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ひとこと感想

本作は英国に住むインド移民の話であります。

端的にサマると、とにかく暗い。そして救いがない。ただ、その暗部をえぐるさまに目をくぎ付けにされ、ついつい読んでしまう。そんな小説でした。

 

メンバー紹介

メインキャラクターは4名。

タロチャン(Tarlochan)は下層カーストの出身。インドでは野良仕事にすらありつけず、仕事探しに徒労を繰り返す。さなかに暴徒に家族を焼かれ、大枚をはたいて欧州へ不法入国、仕事を探し新たな人生を開こうと努力する。ロンドンに流れ着くも、不法滞在故に足元を見られ低賃金での労働を余儀なくされ、寺院(gurudwara)では下層民であると蔑まれ、果ては同胞から隠していたお金を丸ごと盗まれる。

ランディープ(Randeep)は下層官吏の息子。プライドの高い母親と妹たち、そして父と暮らし、大学へ進学するも、父が心を病みクビに。一家の将来が危ぶまれる。丁度、心を寄せる女子生徒に手を出したところセクハラと訴えられ大学を放校処分となる。その後、家族の生活を支えるため、母親の手引きで英国在住のインド女性と偽装結婚をアレンジされ、英国へ移住。肉体労働者寮での寝泊まりのなか、警察のがさ入れもあり、ルンペン生活なども経験。もともと坊ちゃん体質も、世知辛い現実を知ることに。

アブター(Avter)はインドの中小ワンマン企業で働いていた若者。運悪く、そこの社長のドラ息子と仲良くなる。ドラ息子は会社の金を横領し、最終的にその責任がアブターに押し付けられ、クビに。時を同じくして父親の営む会社が傾き、これまた家族を支えるため、借金をして英国の大学へ進学するていで学生ビザを取得、英国へ出稼ぎにでる。彼もまた労働許可がない中で不法就労を行い、途中で病を得、足を切断することになる。

ナリンダー(Narinder)は英国育ち。シーク教徒の篤信な家族の下で厳格に育てられる。神を信じ、神を愛し、奉仕活動に全霊をささげるも、活動に熱心だった母が早死し、そしてシーク寺院でのカースト差別も目の当たりにする。善良な人がひどい仕打ちを繰り返し受ける様子に神の存在を疑い、自分の奉仕活動に疑いを持つに至る。

 

読んでいて気が滅入る・・・

こうした四人が邂逅し、物語を織りなしていきます。

インドでも、英国でも、ローカルな価値観が根強く残り、その息苦しさが立ち昇るかのような描写が満載。インドでは下層民は面接のたびに出身地を聞かれ、結局採用されないとか。女性は親のアレンジした結婚に従うべき、とか。そういう因習的息苦しさのリアルさと、そこから逃れようとする若者たちの大都市ロンドンでの苦労の様子がまざまざと描かれます。

加えて異国で出てしまうのが若い故の浅慮であり、短絡的行為。支えてくれる人は僅かで、英国生まれとインド生まれで同胞間にも差別・被差別意識もある様子。結局、浅慮でもどん詰まりで、無謀な行為に出る、という悪循環。

 

ある程度デフォルメされているとは思いますが、因習的な考えが実はまだまだ多く残っていることを示唆しているように思います。また、他国での移民の厳しい現実に目を覆いたくなるような気持ちになります。

 

インド・シークの言葉が頻出

あと、英語ではありますが、とにかくインド、わけてもシーク由来の言葉が多く難儀しました。シークってのはターバンを巻いた彫の深い方たちですね。パンジャブ州。

加えて、文法どっちらけの外国人英語の雰囲気が満載です。読んでいてインド英語のイントネーションが激しく上下する様が脳裏に浮かびました。

因みに本作、英国のブッカー賞候補になったんですが、選定者もこのシークの言葉の連発に耐えたのかしら?私はグーグル頼りに相当な時間を使って一つ一つ調べるという時間つぶしに勤しみました。

 

おわりに

ということでインド系作家による長大小説でした(467頁!)。大都市での移民たちの悲惨な生活が非常に印象的で、引き込まれる作品でした。

この作品、もう一度翻訳で読んでみたいなあと思いました。起伏が大きくないので人気は出なさそうですが、きちんとproofreadされた翻訳でしっかり噛みしめたいと思いました。

 

インド移民に興味がある方、ロンドンや周辺の街にゆかりのある方、外国文学が好きな方、英語を鍛えたい方等々にはお勧めできる作品です。

 

評価     ☆☆☆☆

2023/02/19

 

 

青春ストーリーとして読みました|『AKIRA』大友克洋

やっと下の子の高校受験が終わりました。となると、上の子同様、下の子も彼らの祖父母宅(私の実家)から学校へ通うことになります。

実家を出てから、実家を倉庫代わりに使っていたことが多くあったことを今更ながらに反省しております。大分自分のモノは処分したとはいえ、それでも残っている蔵書や私物がいくらかあります。

娘に少しでもスペースを与えるため、父は断捨離を決行するのでした。ということで一応さよならする前に再読であります。本作はその第一弾であります。

 


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久方ぶりの再読です。もう30年ぶりくらい。そして、相変わらず読後の満足感・幸福感が得られる作品でした。

 

舞台設定に震える!?

舞台は第三次世界大戦後の「ネオ東京」という街ですが、時期は2019年でした。しかも、三次世界大戦からの復興の意図もあり、翌2020年に東京でオリンピックを控えているという設定。

いやあこれ読んだとき、少し震えました。以前読んだときはまだ1990年代だったし、20年後の話なんて遠い未来でした。でも東京オリンピック、奇しくも「AKIRA」で予言されていた?形になります。きっとファンの方は既にご存じだったのでしょうが・・・。

現実には核戦争とか起こってなくてよかった笑

 

主人公金田を中心とした青春ストーリー

再読して感じたのは、本作は青春ストーリーだ、ということです。

確かに舞台は、暴力のまかり通る荒廃した東京(「北斗の拳」のごとく)、そして主人公の金田は落ちこぼれ職業訓練高校在学の暴走族のリーダー。そんな金田が、幼馴染で同じ暴走族で地位の低かった鉄雄(超能力を獲得する)と対決する、というのが一つのテーマです。不良モノ、アクション系の気配が全面に出ていることは確かです。

 

また、超能力というのが一つの大きな味付けで、これを開発するための政府の特別プロジェクトがあったり、力を制御できなくなった「アキラ」の存在があったり、最終こうした超能力を持った日本ごと吹っ飛ばそうとする米ソの強力があったり、「アキラ」を祭り上げてクーデターを起こそうとしたりするグループがあったり。

超能力開発、科学の力で超能力を制御する、核戦争後という場面設定等々を考えますと、SFやディストピアの要素も多分にありますね。

 

で、そんなもろもろの出来事の中でも、主人公金田はチャラくて器用で、それでいてカリスマがあり、窮地を乗り越え、いつの間にか敵との間にも友情のような繋がりをも持ってしまうこともしばしば。クライマックスで鉄雄と対決するときだって、口先では死ねーとか言っているけど、やっぱり鉄雄は友達なんですよね。そういう金田の義理堅い心情や「イイやつ」感が良く描けていると思います。金田とケイが最後に生き残るってのも未来があっていいですよね。

このような種々の点から、私は本作は青春ストーリとして位置付けたいと思います。いやあ、金田がマジでいい奴なんです。あと、でぶのジョーカーもマジいい奴。

 

おわりに

ということで、久方ぶりの楽しいマンガ体験でした。

私、結構人嫌いの癖に、こういうマンガ読むと、つい「あぁ、仲間っていいなあー」とかって思っちゃうんですよね。でも、裏表のない人間関係が難しい・現実には稀だからこそ、義理堅い主人公が描かれるのかな、と斜に考えたりもしました。

 

最後に私が一番好きな金田のセリフを一つ。「ヨタヨタのジャンキーどもになめられてたまるかよ。俺達ァ健康優良不良少年だぜ」です。不良の癖に健全さをアピール笑

 

評価   ☆☆☆☆

2023/02/20

 

 

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