海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

頑張ることって素晴らしい。元気になれるスポ根小説|『DIVE!!』森絵都

本が好きな方だと、積読が先行しているうちに同じ本を二冊買ったりとか、売った本をまた買ったりとかってありませんか? 私はたまにやらかします。

本作「DIVE!!」は上の息子が高校受験に挑んている最中に上下巻そろえて買ったものです。下の娘(現在高校受験の真っ最中)にも読ませてみようと本棚を見るとなんでか下巻しかない。きっとせっせと売ってしまったんです。で先日の一時帰国の際にブックオフにて上巻も再購入したものです。

ちなみに、娘の中学には始業前(いわゆる0時間目)に読書の時間があるんです。とてもいい習慣だなあと感じております。


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ひとこと

スポ根でちょっと暑苦しいかもしれないし、ヤングアダルト向けで大人に敬遠されがちかもしれない。けど、実に面白い作品。スポーツ系、青春系にアレルギーがなければぜひ読んで欲しい作品です。読むと明るくなり元気が出る作品だと思います。

内容

MDC(ミヅキダイビングクラブ)に通う知季はいたって普通な平凡な中学2年。彼の通う赤字の弱小クラブに、親会社が存続の条件として突き付けたのは、なんとオリンピック出場。クラブの中心プレイヤーである要一、青森からスカウトされてきた網元の血を引く飛沫、米国帰りの女コーチ夏陽子、彼らとともに知季は熱い戦いを繰り広げてゆく。

優れた心情描写

本作、何がいいかというと、やはり心情描写が素晴らしい。恋愛(失恋)、友情、嫉妬、競争、才能の有無、等々。昭和の日本の教育というのは「みんな同じ・(悪)平等」というのが一般論としてあると思いますが、そんな幻想がほろほろと崩れるのが中学生くらいではないかと思います。才能を持つやつとの彼我の差・選ばれないこと・自分の限界、そんな現実にナイーブに対応してしまう描写は、過去の自分を振り返れば思春期あるあるです。親目線で読むと、応援したい気持ちにもなります。その精神的稚拙さはむしろいとおしい限り。

また、一歩引いて考えれば同様の事象には大人になっても日々対峙しているんだと思います。好きな相手に選ばれたり選ばれなかったり。昇進できたり出来なかったり。周囲の成功が羨ましかったり悔しかったり。ただ、大人だと感情のもっていき先は自分以外にはなかったりするものです。

作品では友人や周囲が受け止めたりフォローしたりするところに、大人になる過程で失ってしまった紐帯を見出すことができます。いいよねえ、仲間って、という羨望の気持ちで読んでしまいます。

個性豊かなキャラ

さらに、登場人物が実に豊かで魅力的。中心的登場人物として3人のダイバーが挙げられます。要一の完璧主義、知季の素直さや幼さ・ナイーブさ、飛沫の豪胆さや孤高のポジション。同じクラブの仲間でありながらプレーヤとしてはライバルであり、ある時は反目し、ある時はアドバイスを送る。またそれ以外にも、クラブ創設者の孫であり米国育ちの夏陽子(コーチ)(冷静で大胆・ドラスティック)、主人公知季の同学年の弟の弘也(お調子者)、飛沫の彼女の恭子(エロいけど一途)など、個性豊かなキャラが物語に花を添えます。

スポーツ物の奥深さ

あともう一つ。飛び込みって、小説になるんかいな、って思いませんか? 私はちょっと疑っていたのですが、普通になります。予想以上に体が冷えるため、温水プールで演技後に体を温めるとか、感覚と体重を保つために食餌制限をしっかりするとか、大会での採点方法とか、技の難易度の評価のしかたとか。私には縁遠い競技ですが、どの世界もふたを開ければ奥深いですね。そして筆者はストーリー展開に合わせて上手に競技の内容を読者に教えてくれます。

おわりに

ということでスポ根系YA小説でした。上には書きませんでしたが、ラストがこれまた私の好きな終わり方です。オリンピックには行けたのかどうか。行けるならだれが行くのか!?クラブや仲間はどうなってしまうのか? ・・・とにかく、ほっこりする終わり方です。

中学生の娘に読ませる前に再読したのですが、非常に面白かったです。本が苦手なお子さんも興味を持ってくれるんじゃないかと思います。

 

評価   ☆☆☆☆

2022/09/08

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