皆さん、こんにちは。
私はそもそも本好きではありましたが、社会人になってからはそれ程本は読んでいませんでした。きっと読んでも10冊あったかどうか。
思い返せば、本をゴリゴリ読むようになった切っ掛けは2つほど。
10年前、日本から逃げるように海外に出た真正ダメリーマンとして、厳しくも慈愛に満ちた年下のメンターと出会い、呻吟しつつビジネス書やノウハウ本に救いを求めたのが一つ。
4-5年程前、インター校に通う子どもたちの国語力が壊滅的であることから、「日本語の本を読ませなければ」と本探しを始めたのがもう一つ。
小説を今も読むようになったのは後者が理由。
今では二人の子どもたちは生活の拠点として日本を選び、それまで以上に本には触れなくなった模様ですが、まあ日本語の環境という意味では、もう親の手助けは不要でしょう。
従い、下の子が高校に進学し日本に戻った昨年を機に、小説関連も自分の関心に沿ったもののみ読む路線へ変更となりました。
今のところコンプリート欲をもって取り組んでいるのが、恩田陸、湊かなえ、伊坂幸太郎、そして村上春樹諸氏の作品です。
そのなかでも今回は恩田氏の作品をチョイス。氏には珍しい短編集を読んでみた次第です。
ひとこと
恩田氏のファンタジー熱がさく裂。好き嫌いが分かれそうな「奇想短編」集とでも言ったところ。
恩田陸という万華鏡
ちょっと面倒くさい話を。
人ってラベルを張りたがりますよね。〇〇って細かい人、私は文系、彼女は理系、とか。
もちろん、それは個々人の目立つ・印象的な部分を取り出して言っているわけで、それがすべてではない筈です。文系男にもロジカルな部分はあろうし、冷徹で詰めてくる上司にも詩的で感情的な心の動きがあるかもしれません。
何を言いたいかというと恩田陸氏です。一つの色に染まらない、実に多様な作品をかける方だなと。
私にとって当初恩田氏はヤングアダルト・青春系のラベルの方でした。氏の作品で一番初めに読んだ「夜のピクニック」の印象が強かった。作品も好きなのです。
ところが爾後色々読んでいくと、モダンホラー系の作品や舞台を想起させるドラマ等、当初の印象は徐々に書き換えなくてはならないと思うようになりました。
そして本作に至っては、「奇想短編」集です。
私の当初の印象からは、かなり遠いところに来てしまいました。そして、改めてその幅の広い作風に驚いた次第です。
「奇想」の形容にふさわしい、予想外の設定。バラエティに富む作風
で本題。
短編はどれも作風が異なるのですが、どれもが明かに現実世界を描いたのではないので、読んでいて違和感を感じながら読み進めた次第です。
そのあたりの「引っかかり」「没中できなさ」が私にとっては星新一を想起させました。教科書の「おすすめ図書」みたいなのに名前を見つけて読んでみるも、どうにもしっくりこず、何だよ「おすすめ」のわりにいまいちじゃねえかよ、と。
今は長じて、この「没入できなさ」は自分の趣向と距離があるという解釈ができます。そして、別につまらないわけではないのです。このあたりは表現が難しいのですが・・・。なんというか、よくもまあこんな作品がかけるなあという驚き?
で、その中でも印象的だったものを幾つか。
小学生と思しき三兄妹がことばの印象から幻影を具象化する「夕飯は七時」。擬態語など「ことば」の心象ってありますよね。そのような心象が形になるという着想がすごい。そしてこの子どもたちをこれを必死に防ごうとする姿が可愛らしい。
リアル野球版よろしく、リアルに双六が展開される王国を描く「SUGOROKU」はホラーチックな作風。王国を支配する三姉妹は、王国から女子を集め、リアル双六を行わせるのが慣例。「上がり」となると豪華な褒美を取らせて出身の村に返すという話だが、実際には・・・。
「エンドマークまでご一緒に」はミュージカルの主人公の独白の話。現実の生活をミュージカルで行うという奇想天外のストーリ。主人公は自己省察的に「寝起きに歌うなんて辛いけど、ミュージカルだから仕方ない」とか「僕を追いかけるオーケストラ連中も汗だく」など、この奇妙な設定をユーモラスかつ冷静に評価。タイトルも、仕掛けまで理解している読者を想定したネーミングであり、一層味わい深いものとなっていると思います。
これ以外にもホラー系・スリラー系は読みごたえのあるものが多かったと思います。
おわりに
ということで恩田氏の短編集でした。
解説で杉村松恋氏が海外の奇想作家と並べてアツく激賞していましたが、素人の私はそうした海外勢は全く知らない方々でした。
風変りな話、ホラー系、SFが好きな人にはお勧めできる作品だと思います。
評価 ☆☆☆
2024/02/15