はじめに
樋口氏の作品はこれで三作品目。
これまで読んできたところですと、彼の特徴といえば、どぎつ目なエログロといったところ。
「日本のセックス」ではスワッピング狂の旦那に嫌々連れていかれるうちに欲情してくるその妻の心情を描いていました。性描写がどぎつ目。
「民宿雪国」ではその民宿のおやじの実相を複数の取り巻きの視点から描写し、善人の顔から残酷な人殺しまで、ピンキリの描き方といった様子。殺人がどぎつ目。
作為的な安っぽさとネタばらし
そして今回のさらば雑司ヶ谷。
今回も性描写も暴力もどぎつ目だったかもしれません。ただし今回は男と男の方。
というより、まあ設定がぶっ飛んでいてですね・・・。生まれも育ちも雑司ヶ谷。そこを根城にする強力な新興宗教の跡取りが主人公です。カラーギャングよろしく街を牛耳り、悪事を行い(教祖の力でもみ消し)、そしてちょっとした義憤が原因で中国へ人探しに。その後セックスとシャブ漬けになるも命からがら帰ってきて・・・なんて話でして。
でも、そんな話ですが、意外と(失礼)面白いのですよ。
パルプフィクション的な安っぽさ・ばかばかしさ、でしょうか。主人公が拷問シーンを「Qタランティーノというよりたけし軍団」と場景を自らネタばらしして語るあたりは技ありでしょう。
この作為的安っぽさは、舞城王太郎氏の「土か煙か食い物」を想起させます。
ああいうのが好きな方は、本作も楽しめると思います。
平成初期を生きた人には刺さるアイテムの数々
他にも、巻末に水道橋博士や町山智浩氏がことばを寄せているのですが、時代のアイテムへのオマージュ的伏線に富んでおり、お笑いやテレビ(たけし軍団)、映画作品(タランティーノ)、音楽(小沢健二)等、刺さる人には刺さるような伏線がちりばめられています。
因みに私は、雑司ヶ谷、にぐっときました。
近くに住んでいました。というか池袋ですが。
今から二十年前ほど、雑司ヶ谷といえば、池袋からほど近い都心のど真ん中にあって、取り残されたようにたたずむ下町という雰囲気でした。居所の最寄り駅の池袋は、駅から降りると風俗の呼び込みがあったり、夜勤で深夜に帰ると馬乗りで喧嘩とかしている風景を目撃してしまったりするバイオレンスな町。ところがその池袋から15分も歩くと、駄菓子屋や木造家屋がたくさん残っているような街が雑司ヶ谷でした。雑司ヶ谷(鬼子母神)の助産院で初めての子どもを授かりました。
おわりに
ということで、樋口氏のバイオレンスあふれる作品でした。
エログロ系が大丈夫な方、下品なユーモアを許容できる方にはお勧めできると思います。
評価 ☆☆☆
2024/04/05