海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ハードコアエロ、転じて公権力の恐怖、そして思うのは近しい人をどう理解するかという事 |『日本のセックス』樋口毅宏

こんにちは。いやあ、あっという間に今年も終わりですね。

ここでは殆ど読書にまつわることしか書かないのですが、年末は少し趣向を変えようかな、と。読書をして血肉となった知識から立てたYear Resolutionですが、その結果について記事を書きたいと思います。要は振り返りですね。言っておきながら本当にするか分かりませんが。

 

さて今回のポストは、何度か触れている10年ほど前の『ブルータス』の文芸特集に掲載されていた作品。

名前で損している?かもって思うくらい期待を越えてきた作品です。あるいはこれ、敢えて下品なタイトルにしておいて、読者の期待を下方にアンカリングしているのだとすると、この著者、かなりの策士です。

 

 

ひとこと

いやあ、すごい小説でした。驚きました。

冒頭のハードコアエロに若干興奮してしまいました。この勢いが続くのかと思いきや、急展開。公権力の暴走の恐怖は本作に新たな魅力を与えます。そして最後に問われる、人。結局、人、って何なのか。人と分かり合えるのか、どのように理解するのか。そんなほんのりした展開で終わりました。

タイトルに違わず、エロいところもあります。しかし、タイトルに留まらない深さも包含した佳作ではないかと感じました。

 

パート1:エロの部

冒頭の40%はハードコア・エロ描写。

主人公容子は、才色兼備も人とは距離を置くタイプ。夫の佐藤(なぜか苗字呼ばわり)は妻を他人に抱かせることで興奮するタチ。

冒頭にどこぞの作家の引用があり、『自分のものであるからこそ他人に与えることが出来る』云々の記載がありました。澁澤龍彦氏の翻訳とあるので方向性は推して図るべし。

 

ということで、このパートは、すごい。乱交だったり、スワッピングだったり、本の世界です。本といってもエロ本だけど。

かつての同期もこういうのが好きで、いわゆるフーゾク?としてスポーツ新聞の三行広告にすごいのがあるんだと色々と教えてくれましたが、まあそういう世界が現実にもあるにはあるそう。

 

そして、容子が佐藤に連れられて行ったスワッピングパーティーで事件は起こります。そこで容子は心身共に傷を負います。

 

パート2:中盤からが本作の秀逸なところ。

そんな失意の中、ほとぼりの醒めてきた佐藤のハードコア欲がむくむくともたげる中、なんと容子と佐藤はひき逃げ事故を起こします。ここから二人の人生は、坂道を転がるかのように状況が悪化します。佐藤の逮捕、佐藤の解雇や容子の退職、加えてマスコミに面白おかしく取り上げられアブノーマル嗜好を暴露され、挙句過失致死ではなく殺人として起訴されることに。

公権力たる警察もマスコミとタッグを組んで佐藤と容子を貶めにかかります。同時に、佐藤についても、容子の知らない犯罪などがホイホイと知らされ、容子の心理的ショックも読んでいて伝わってきます。

最終的に、佐藤は当初見込まれていた以上の量刑をくらい、失意のうちに拘置所で自殺をしてしまいます。

 

こうした急展開が実に秀逸でありました。容子の心理描写、刻々と悪化する周囲の状況。当初の享楽さ加減から、ズドンと落とされたその落差と謂ったらありません。

容子は、警察の悪意に辟易とし、応援しているはずの夫すら、実はなにも知らなかった、と。そして今は亡き父、あれほど嫌っていた父を、実に今よく理解できてしまう自分。そうした自分に自己嫌悪を覚える。

 

容子さんどうなってしまうのかと、ハラハラしながら読みました。

 

パート3:最後はしんみりと

そして終盤、容子は振り返ります。

自分が夫に隠していた秘密を、夫たる佐藤は分かっていた。佐藤はそのうえで、当初容子が気づかない形でへらへらとメッセージを伝えていた。ストレートではない、死んで気づく夫のやさしさ。

 

このあたりのストレートでない表現、伝わりづらいんだよって個人的には思うし実際にされると私はいやですが、物語としてはありです。結局人ってどこまで分かり合えるのか(本当に分かり合えるのか?)みたいなことを読者にもほんのり投げかけます。

 

おわりに

ということで、樋口氏の作品でした初めてよみました。すごかったです。

 

この作品を女性がどう読むのか見当がつきません。容子が夫の『もの』のようにコントロールされている様に過剰に反応する方も出てくるように思います。

しかし、展開の急転直下ぶりやその後の公権力の怖さなど、エンターテイメントとしても十分その展開を楽しめました。要はただのエロ小説としてくくれない広さと深さ。

 

90年代の音楽シーンや諸々の引用はそこまで響きませんでしたが、かつて読んだ『ブルータス』ではこうした時代の切り取り方を高く評価していました。あ、でも、佐藤が単館映画館(渋谷のシネクイントかどこか)でモギリをやっていたのはちょっと響きました。嫁をしょっちゅうユーロスペースに連れて行き、イラン映画ロシア映画だと見に行った挙句、二人して爆睡ってのをよくやっていました。四半世紀以上前の話です。

ということで、過激な性描写含め、心の広い方にはお勧めできる作品です。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/11/30

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