海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

大人になってからの自発的な勉強こそが勉強 | 『勉強の価値』森博嗣

 

本作ではないのですが、先日、娘がやっていた国語の問題で森博嗣氏の論説が出てきました。娘の回答は散々でしたが、筆者の作品は読んだ事がなく、氏に興味を持ちました。その結果、氏の小説と本作を購入したものです。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

ということで、本作は娘の論説文練習の本と相成ります。例によって私が先に読んでみた次第です。

 


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勉強の意義について

なんで勉強しなくてはいけないのか」という問いは中高生くらいまでは多くの学生が胸に宿す疑問だと思います。また大学生以降も「こんなの意味あんの?」「んなの将来使わないでしょー」という発言に形を変え、同質の疑問を引きずることもしばしばだと思います。

そんな、子供に問われて困ってしまうような疑問について、私の人生の中では一番しっくりくる回答を本作で頂いたと感じました。

 

子どもにとって勉強は基礎体力作り、そこからが真の勉強の始まり

その回答は本作のまえがきで早々に出てきました。ちょっと長いですが引用です。

 さて、(子供が)明確な目的を持つためには、少なからず人生経験が必要だろう。世の中には何があるのか。自分の可能性はどの範囲なのか。そういったことは、二十年くらい生きていないと理解することができない。つまり、夢を見るためには、最低限の基礎的なことを学ぶ必要がある

 そうしたうえで、自分はこれがしたい、というものを見つける。それからが、本当の勉強の始まりである。もう、そうなれば「楽しさ」というエネルギィによって、たとえ誰かに止められても前進し続けることになるだろう。

 したがって、勉強は大人のためのものである。子供が学校で習っているのは、大人になってから本当に楽しい勉強ができるための基礎体力をつけているようなものだ。

 本書は、子供向けの本ではないし、子供に勉強させたい親が読んでも、ほぼ意味がない。もし子供に勉強させたかったら、まず親が勉強すること。親が勉強に熱中している姿を見せること。そうすれば、「なにか楽しいことがあるのだな」という雰囲気が子供に伝わるはずである。教育とは、本来そういうものではないか、と僕は考えている。(P.31-P.32)(ゴシックおよび下線は森氏のものではなく当方のものです)

 

つまり子供の勉強は基礎体力作り、本当の勉強は自ら興味を持って取り組むもの。自分が好きで勝手にやることこそが勉強、とまあこういうことですね。

 

たしかにー

こうして始まった氏の勉強論には、したりしたりと膝を打つ内容が随所に見られました。

 

曰く、勉強というのは人の能力を高めるすべての行為。人それぞれにやり方があり、机の勉強だけが勉強というわけではないこと(1章)。曰く、勉強は勝つためにするのではないし、受け取り手の意欲がない限り成立しないのが教育であるということ(2章)。曰く、勉強の価値とはその内容の獲得ではなく、その過程で自己を知ることができるということ(4章)。曰く、得意不得意は問題ではなく単なる他人との差でしかないこと、また不得意・苦手の名の下で教科を排除するとその方面の可能性を失ってしまうこと(6章)、等々です。

 

ハウツー本の対極、独学大全の前段

こうした氏の意見は、近年のハウツー本にあるような嫌な勉強をなるべく効率的に・そして嫌ではないように自己暗示的に言い聞かせる?かのごときメソッドとは対極にあるかもしれません。それらで述べられる勉強の意義とは大抵は実利的・近視眼的であろうと思います。別にそれが悪いわけではありませんし、そもそも目指すところが異なるので比較すること自体間違いかもしれませんが…。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

他方、好きになってしまい自発的に学ぶ行為こそ勉強という方向であることを考えれば、本書の先には読書猿氏のごとき「どのように学ぶか」という独学の地平が開けることと思います。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

多少合わないところもあり

全体を通じて、やや理想論に寄るところもあり、時に「でも、実際にはやっぱり難しいですよ!」と反論したくなる箇所は数か所ありました。でも仰ることがいちいちごもっともで、何となく「なくやり込められた感」を感じるところも数か所ありました笑 なんか、おっしゃることが完璧で…。

 

おわりに

ということで元名大教授の勉強論でした。

語り口が平易で分かりやすく、内容も子供から成人にまで広く関わりのあるものだったと思います。その点では、筆者自身子供向けではないと言及されているものの、勉強が嫌いなお子さんから再度勉強を始めてみたいという大人の方まで、ひろく読書に値する作品であると感じました。

 

評価     ☆☆☆

2022/11/13

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