海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

人生の可能性は一つではない―『ブロードキャスト』著:湊かなえ


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 部活。青春の象徴ですね。私もバスケットボールをやったりバンドを組んだり、高校生の時は自分の忙しさに酔いつつ人生を謳歌していました。もう学校に行く意味の8割は部活などの課外活動であったと思います。

 けがや事故がおき、やりたかった部活を断念せざるを得ないなんてのは想像すらできませんでした。もしそんなことが起きたら、、、しばらく立ちなおれなかったと思います。

 

あらすじ

 この主人公は中学時に陸上部で長距離走に打ち込み、あと一歩のところで全国大会出場を逃す。チームのエースが推薦を受けた陸上強豪校である高校に一般入試で合格するも、合格発表の帰りに交通事故に遭い、陸上部は無理であると自認する。

 そんな時に同じ中学の知人が放送部に誘う事から彼の人生が動き出す。

 

明日から仕事がんばろっと

 読後は非常に爽やかな気分になりました。

 ふと思い出したのは、中条あやみさんが以前テレビ番組で『死ぬこと以外はかすり傷』と事あるごとに父親から言われていたという話です。生きてりゃなんとかなる、自分が思っていなかった道もまんざらでもないよ。乱暴に言うと本作のメッセージはそんなポジティブ思考ではないかと思いました。

 

 おっさん臭い野暮なこと言って恐縮ですが、物事が常にうまくいくとは限らないし、その場の空気に流されることで道が開けることや、友人の助けや存在が本当に助けになること、また友人の真剣さや将来への気持ちに学べることだってあるのですな。

 コロナ禍でオンライン学習がノーマルになった感もありますが、学校が『場』として貴重であるのはこうした友人の存在にあるのではないかなあと感じた次第です。

 

 加えて思うのは、上記に挙げたことは、何も学生に限らないなあと。社会人であれ自営業であれ、大人になってもうまくいかないことはある。周囲の助けに救われることもあるし、友人の強い気持ちに俺も頑張らねばと、やる気を巻き直せねばと感じることもあります。

 周りに助けられるという幸運が常に続くとも限りませんが、心の持ちようによって世界の見え方が変わることも確かにあるし、それは人間の強みだと思いました。またそういう強さを子供たちにも持ってほしいなあと感じた次第です。

 

おわりに

 ということで、纏めますと、なかなか良い作品でした。

 この春より高校に進学する息子に合うかなと思って読んでみましたが、大人も読んで前向きになれる作品でした。

 中学生以上のティーン以上を始め、思春期の子供を持つ親、教員関係の方、スポーツ好きの方、文科系の部活に入っていた人等々は読んで面白いと思います。痛快というより爽やかな作品でした。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/04/03

相思相愛が結ばれない悲恋を美しく重厚に描く―『マチネのおわりに』著:平野啓一郎


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 ふぅー。読後感が重たい。でも面白かった。

 

 平野氏の作品は初めてである。芥川賞受賞当時、会見で自分と同い年(当時23歳)ということが分かり、しかも京大卒。何となく自分との彼我の差を感じ、勝手に嫌な奴っぽいと決めつけて食わず嫌いを通してきました。

 

 しかし、見回る書評ブログの方で存外に褒めているものを見て、そうなのか、考えを改めるかと思った矢先にまたもやAmazonのKindle50%オフのセール。そこで本作を見つけて購入に至りました。

 

 内容は、天才ギタリストとハーフの映画監督の娘との運命的な結ばれない悲恋、と言ったところです。

 

 印象は、まるで濃厚なチーズのような印象。

 丁寧に美しく織り込まれた文章は、なめらかながら男性的な力強さを感じました。クラシックギターの奏でを実直かつきらやかに描くさまは圧巻という他ありませんでした(因みに読後に聞いた『幸福の効果』は優しい音色の素敵な楽曲でした)。また結ばれない二人のすれ違いやそのすれ違いの原因を作った早苗の罪の意識など、人間の感情に寄って描くさまは映画を見るかのような迫力。

 

 相思相愛のまま、キスすらすることもなく、結ばれることなく別の人生を歩むようになった二人。しかしその悲恋も、最後にお互いが結ばれなかった理由を理解することで、一読者たる私は一種カタルシスを得た気がしました。カタルシスというか、まあ悲しい話だけどすれ違いのままで終わりじゃないのならよかったじゃん、いや良くはないけど理由が分かるから消化できるかな、というような。自分の実らなかった恋なども重ね合わせ、あの人はいまどうしているのか等と過去の出来事へ想いが飛びます。

 

 付随的に少し考えました。

 お互い所帯を持った後に、相手と相思相愛だったとわかったらどうするか、とか、その相思相愛を妨げたのは今の妻だったとわかったらどうするか、とか、なぜ妻は嘘をつき続けるという優しさを示さなかったのか等々、意見が割れそうなポイントが多く見いだせるのですが、まあ酔っ払いの与太話にしかならなそうなネタですのでここらへんで。

 

 一つ残念だと感じたのは後書き。

 甘酸っぱいまま、あとがきもなくそのまま終わりにして余韻を味わいたかった。だけど実際にはクラシックギターの大家、福田進一氏へのお礼の言葉などが連なり、私はこれがただの作り話であったことを強烈に思い知らされました。現実に引き戻されました。

 

 ついでに言えば、たまたま私は学生時代にフラメンコギターをやっていた。そしてそういうことがフラッシュバックのごとくよみがえりました。
 当時、三澤勝弘さんという方に師事しており、この師匠はレッスンが更けてくるとウイスキーとピーナッツをもってきて、ささ、と酒をすすめてくれ、お互い飲みながらレッスンをつけてくださるのでした。折に触れて、『いやー、村治さんとこの娘さん。上手になったねえ』と当時はデビュー初々しい村治佳織のことを誰に問われるまでもなくしゃべっていらっしゃたことまで思い出してしまった。三澤さん元気かな。

 ということで余韻どころでなくなったと笑。

 

 でも総じて楽しむことができました。平野氏の作品は重厚感があります。美しい文章で大好きなギターや音楽が語られており満足しました。また、結ばれない愛の行方にも勝手に感情移入して楽しみました笑。ギター好き、パリ好き、結ばれなかったけど未だに気になる人がいる方、そんな方々には一層おすすめできる作品だと思います。

  

評価 ☆☆☆☆

2021/04/01

史実と回顧の違いは大きい。内容は月並みも是非解説を読んでほしい。―『マッカーサー大戦回顧録』著:ダグラス・マッカーサー 訳:津島一夫


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 本書は第二次世界大戦後、GHQトップとなったマッカーサー回顧録

95%以上は気持ちよく、へーなるほど、とか、敵ながらあっぱれとか、つらつらと読んでいました。しかし最後の解説を読んで、本書の出色の出来は寧ろ解説にある気がしました。同時に本の怖さを想いました。

 

概要

 基本的にはマッカーサー回顧録。それだけ。第二次世界大戦で日本軍に攻撃され、フィリピンを退却、オーストラリアに移り、オーストラリア防衛、反撃はパプアニューギニアから始まり、再度フィリピンで日本軍を叩き、そして降伏した日本に降り立つという彼の第二次世界大戦とその後についての10年の歴史の抄訳です。正確に言うと、大部にわたる日本語訳の内、太平洋戦争の部分と日本占領の部分だけを切り取って文庫化となったようです。

 

特徴

 その特徴と言えば臨場感・生々しさだと思います。

 日本軍の攻め入るフィリピンから逃れるのに、ギリギリまで戦い、時間を稼ぎ、本土や後方で支援が整うために尽くす。軍人としての自分の進言とワシントンとの意見の違い、政治家との確執。巧みな戦略により日本軍の補給線を遮断し、米軍側の無駄な落命と消費を防ぐ様子。降伏後の日本での困難(単なる軍人から全権を預かる政治家・指導者へ)。

 作戦の成功を他人からの電報や日本軍の将校の手記で敢えて補足する自画自賛のきらいはありますが、筆者の歩んだ道がありありと伝わってきます。

 

増田弘氏の解説が出色

 ところが増田弘氏の解説を見ると見方が全く変わります。

 マッカーサーは非常にプライドの高い男で、フィリピン陥落は相当彼のプライドを傷つけた事。マニラを落とされる前に台湾を叩くべきとの進言について、本文では『新聞で知った』として自分のところへ上がってこなかったとしているが、周辺状況から見ると彼はその意見を握りつぶした(つまり嘘つき。そしてそのせいでマニラは落ちた可能性が高い)。マニラからの脱出も中央の進める潜水艦ではなくてPTボートで敢えて危険を冒したのは閉所恐怖症だったから、等々。まあとにかく史実ではなさそうなことが(或いは裏事情がこれでもかと出てくる)。

 

おわりに

 つまり、これは単なる回想。回想とは歴史書でもなく記録でもなく、言わば思い出です。つまりそこには思い違いもあり得る。むしろ積極的に思い違いをしている可能性も否定できない。

 解説付きで読まなければ読んだものはすべて正しいものと思い込むに違いありません。地位ある人の作品であれば、猶の事ハロー効果もあり信頼してしまいがちです。

 しかし、そうした著作は決して史実を表しているわけではないし、寧ろ自己正当化のために使われている事さえあるという事を本作で学びました。

 

 真実はその場にしかありません。しかし記録されたとたんに文字は事実とみなされる。でも記録された文字が虚偽であったらどうするか?周辺情報を調べ確認するしかありませんね。

 今回の読書でバカみたいに本を読んでもただのバカであるということを深く実感しました。とりわけノンフィクション系・歴史系の本の読み方については考えねばならないと思った次第です。

 

評価 ☆☆☆

2021/03/30

家族を想うことばに温かい気持ちになる―『強運の持ち主』著:瀬尾まい子


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 占いって、好きですか?

 神仏を信じないなんて言う人は多いけど、占いの内容がいいと気持ちも心持ち明るくなる。悪い気はしない。電車で座ってて、前のおじさんの読んでるスポーツ紙に、おうし座の金運は最高!なんて出ているとちょっと期待しちゃったりもする。

 そう、入れ込んで信じるほどでもないけど、やっぱり気になる。それが占い。

 

あらすじ

『お父さんとお母さん、どっちにすればいいと思う?』意味深な相談を投げかける小学生。

『このおしまいが見えることを、どうすればいいのか教えてほしいねん』とブースに押し掛けた自称終わりが見える関西人。

『どうしましょう、先生』と助手のくせに手を焼かせる、人のいい竹子さん。

 

 元OLのルイーズ吉田には霊感はない。ただ相談者の背中を押すべく、気持ちよく「占い」の結果を言い渡す。そしてときどき外す。しかし、そんなルイーズ吉田のもとに持ち込まれる風変わりな相談の数々。そんな相談を放っておけず、相談ブースを飛び出すルイーズ吉田。

 

 本作はそんな占い師に転職した元OLのハートフルでユーモラスなお話。

 

家族というテーマが通底しています

 4つの短編が一部緩い関連を持ちながら一つの作品となっています。

 瀬尾作品らしくコミカルなタッチもあり、肩ひじ張らず楽に読めます。また、今回も家族というテーマが見え隠れしており、父子家庭、母子家庭、継父を持つ娘など、それぞれの家庭で相手を想う心がそれぞれの物語のハイライトで明らかなります。

 

 ただ、主人公のルイーズ吉田を含め、登場人物はみな結局根がとてもイイ人であり、そのあたりは振り返ると、ちょっと出来すぎかなあと感じました笑。

 

まとめ

 相変わらずユーモアと温かさで包まれた瀬尾作品でした。今回の作品を一言で言うと『人を想う』という事でしょうか。人の事を考えるから、ちょっと立ち止まってどうしようかと悩む。そんな優しさが上手に表現されている作品であったと思います。

 痛快エンターテイメントというより、ほんわか系の作品ですので、ちょっと疲れたな―という人にはいいかもしれません。私は早速中高生の子供たちに読ませてみようと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/03/20

個別事象の上達本ではないのでやや難あり。中級以上のかたは参考になるかも―『上達の法則』著:岡本浩一


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 皆さんは上達したいものありますか。

 運動、趣味に、英語。どれも上達したいですね。

 

 でも私の場合、一番上達したいものは仕事です。

 少しでも効率的に仕事をしてとっとと家に帰りたい。少しでも今の業界や業務の流れを理解し、くそ偉そうで人の話を聞かない一回りも下の本部の奴にさらっと正論を叩きつけたい。

 ・・・失礼しました笑 予算交渉の時期になり、今年こそは上手に交渉できないものか、何か役に立つことはないかと、本棚の中からピックアップして再読しました。

 

半分以上は上達の仕組みと上級者の直観について

 さて再読しましたが、参考になったのかならないのかよく分からない味わいでした笑

 いや、端的に言いましょう。これを読んでも俺の仕事の上達は難しい!

 というのは上達という全般的な仕組みについて語られているからで、個々人の英語が上手になりたいとか、バスケが上手になりたいとか、そうした具体的ニーズにドンピシャに合わせて書いたわけではないからです。

 

 でも使い道がないわけでもない。本作は認知心理学という学問からのアプローチから構造的に上達の仕組みを明らかにしています。また上級者の特徴について色々と述べています(勘が働く、飽きづらい等々)。こうした内容から上級者の特徴と自分を比較すれば自分がどんな程度かを再帰的に確認できると思います(私は仕事上級者ではないです笑 定期的に仕事に飽き飽きしますので笑)

 

 第四章では上達の方法論ということでどうすれば上達者になれるかについても書いています。ただ、何というか、常識的なことが多く、モノによってはうまくできないものもある(精密に学ぶ、深く模倣する、理論を再学する、名人につく等々)。ただ、それも使い方次第だと思いました。なかなか難しいけど。

 

おわりに

 面白く読めましたが、文字通り「上達」がメインなので、そんなことより俺の仕事はどうすれば良くなるんだよ、とちょっと消化不良気味になりました(すぐに答えを欲しがるのも幼稚ですがね)。ブルーバックスのノリでなぜ人は上達するのか的な科学的な雰囲気ならば納得したような気もします。

 初版が2002年とちょっと古いので、今現在何かを学ぶために読むとするともっといい本が沢山ありそうな気がします。ただ、「上級」「上達」がテーマであり、中級と上級の間にいると自認するかたには目指すものと自分の今を比較するという点で参考になると思いました。

 

評価 ☆☆

2021/03/26

支配者の巧妙な欺瞞を寓話で描く―『ANIAML FARM』著:GEORGE ORWELL


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 本作、言わずと知れたディストピアもの。作者の代表作『1984』と共に20世紀を代表する小説であると言っても過言ではないと思います。

 

 人間の横暴を止め、動物の世界を立ち上げるべく反旗を翻した農場の動物。農場での獣による支配を確立し、人間を忌み嫌い、平等を謳うも、次第に豚だけが支配者層へとのし上がり、労働や支給品に格差がつき、さらにはかつて自ら禁じた人間の習慣(ベッドでの睡眠、飲酒、二足歩行)を徐々に取り入れ、巧妙に大衆をコントロールし行為を正当化する様がまざまざと描かれています。最終的には他の動物を殺戮し、あれほど嫌った人間たちと取引すら行うようになります。気付けば大方の動物たちにとっては以前の人間支配時よりも苛烈な生活になってしまいます。

 

過去を証明しないと、被支配者層は追い込まれる

 こういう作品を読むと、記録が大事だとつくづく感じます。

 動物農場では7戒が制定され納屋の壁に刻まれますが、支配者層である豚が自らの慣習の変化に併せてこれを改ざんしていきます。”No animal shall drink alcohol to excess ”, “No animal shall kill any other animal without cause”(後ろの2語が改ざんにより追加)。大分意味合いが変わります。

 被支配者層の動物たちは自分の記憶をたどるも、確信が持てず、結局直近の目の前の7戒を受け入れざるを得ない。そうした中で被支配者層の労働はどんどん理由をつけて重たくなっていきます。

 

 改ざんというのはデジタルの社会では一層簡単になりました。その点では一層、記録の保持というのは重要ではないかと思ってしまいます。海外に行ってしまった私ですが、20年程払った年金掛け金の記録が年金機構側に残っていなかったらどうしよう、などとちょっと心配になりました。証明できないとないものになりますねえ。。。

 

英語

 英語は特に単語が難しかったです。動物の種類や体の部位に関する名称、動物の動きにまつわる動詞は頑張って調べました。Boar(n)雄豚、Sow(n)メス豚, foul(n)仔馬、hoof(n)ひづめ、muzzle(n)豚の鼻などなど。

 文体はやや風雅?な書きぶりで倒置が多かったり、いわゆる関係代名詞が多用されており、プレーンなビジネス英語と比較するとややとっつきづらさを感じました。

 短編だし文法は難しくないので何とか読めましたが、内容を味わうだけなら日本語でも良いと思いました笑

 

おわりに

 本作は、第二次世界大戦終戦前に書き上げられ、英国とソ連との同盟関係から出版が見送られたというのは知りませんでした。そのエピソードからも分かる通り、ソ連共産主義への揶揄ともいえる寓話となっています。

 いちいち教訓を引き出して読むこともないですが、支配者層の巧妙な欺瞞を思い起こすという点で秀逸な作品だと思います。英語学習者、政治に興味がある方等々にお勧めの作品です。

 

評価 ☆☆☆

2021/03/23

 

Animal Farm (Penguin Essentials)

Animal Farm (Penguin Essentials)

  • 作者:Orwell, George
  • 発売日: 2008/07/29
  • メディア: マスマーケット
 

 

フランス近代美術の巨匠たちの姿を間接的に描く―『ジヴェルニーの食卓』著:原田マハ


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 本作で原田氏の作品は二作目。相変わらず美しく、内容も美術に関するもの。西洋近代美術に興味がある方はその背景を学ぶ上でも非常に参考になると思います。

 

概要と感想

 本作は4作の短編からなっています。それぞれが画家についての話ではあるもの、あくまで周囲の人物や事象により本人を浮かび上がらせる形をとっています。

 

うつくしい墓・・・マティス。彼のもとで家政婦を務めた老女による、巨匠の思い出。南仏の陽光の風景が目に浮かぶ素敵な作品(行ったことないけど)。ピカソなどの周辺人物との人間関係も描かれる。

 

エトワール・・・ドガ。米国人画家のメアリー・カサットからの視点による。貧しい女性、貧しい画家、それぞれが年齢や性別にかかわらず必死に生き抜くための様を描く。

 

タンギー爺さん・・・セザンヌ。画材屋兼画商のタンギー爺さんの娘から、セザンヌへ宛てた一連の書簡により作品を構成。印象派を懸命に応援したタンギー爺さんと当時の印象派の低すぎる社会的地位が印象的。

 

ジヴェルニーの食卓・・・モネ。継娘のブランシュの視点より。自然の美しさ、政治家クレマンソーとの友情、モネを巡る人間ドラマなど。オランジェリー美術館誕生の小噺も。

 

美術とかフランスとか

 突然ですが、美術の価値・存在意義って何でしょうか。

 まあ美しいものを作り出すってことでしょうか。とすると、では美の定義とは? これまた人により色々違いますね。

 とどのつまりは皆が美しいというものが美しい。これは民主主義的に首肯せざるをえない。他方で、個々人がとらえる美というのも確かにあります。

 

 作品では、このような美の新たな地平を切り開いた画家たちの人生の一部が鮮やかに描かれています。自分の信念がある一方、その信念を曲げて、あるいは折り合いをつけて、自分の美ではなく大衆の欲する美を想像し、生活の糧を得なければいけない現実もあります。そのような自他の相克が時に痛々しいほど描かれているのが心に残りました(『エトワール』)。

 これはサラリーマンにも通づるところがあると感じました。

 やりたくない仕事、だけどやらねば食えない。でも、サラリーマンはある意味楽ですね。仕事=自己実現とは決してならないのは多く初諸先輩方がおっしゃられる通りです(『おかれた場所で咲きなさい』という本が過去に流行ったのを覚えていますか)。でも、画家のように、自らの美、これこそが真実で正義であるのに、自分を曲げて社会に迎合するというのは相当度に精神に影響がありそうです。

  

まとめ

 面白かったです。フランスの風景描写も美しく、そして折に触れて出てくる美術作品をgoogleで確認しながら見るとさらに面白い。

 フランスに興味がある方、美術に興味がある方にはかなりお勧めです。またフランスへの旅行を計画されている方にも、お勧めです。行くべきところ見るべきところの予習としても使えるかもしれませんね。

 

評価 ☆☆☆

2021/03/20

 

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