海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

挫折した本です。もう備忘のためだけに。―『子どもの本の歴史 英語圏の児童文学』著:J.R.タウンゼンド 訳:高杉一郎

 

  

 

 

 文字通りです。

 この前晴れてティーンになった中学生の娘にすすめるべき本を探すのに、足しになればとおもい手に取りました。上下巻で550ページにもわたる膨大な量に圧倒されました。

 

内容

 内容は著者が1600年ごろから児童文学の歴史と著者独自のシニカルな批評(まあこき下ろしです)を延々と、延々と、続ける体のものです。

 

 子どもの本といっても、対象は恐らくは小学生程度であるかと思います。そのあたりで私の目論見と大分ズレてしまいました。私としてはティーンに訴えかける、かつ親としても読ませてためになるようなものが見つかるのではとの目論見でした。

 本作で取り上げられていた有名どころと言いますと、クマのプーさん不思議の国のアリスアンデルセンの童話、メリーポピンズとか、そのあたりの路線。

 

 本作出来上がったのが1970年ごろと今から50年程前。そこから見て過去のことを取り扱うため、きっと時代の波に洗われてすでに残っていない著者も多く取り上げられていたのではと想像します(分かりません)。そういう点もあって読みづらかったです。

 

 その中でも、大人としてもちょっと読んでみたいなあという本は幾つかありました。

 

 

 

 

The Long Winter (English Edition)

The Long Winter (English Edition)

 

   安く売っているようなら買って読んでみたいなあ。

 

訳者が気になる

 さて、寧ろ気になったのは訳者。よくもまあこんな退屈な本を訳したなと(ごめんなさい!)。下巻はほぼ読まずに挫折しましたが、あとがきはチェック。

 するとどうでしょう。訳者はなんと、原版を読んだ後、本作で言及されている著作を可能な限り入手し読んだそうです。すげえな。きちんとしたお仕事をされています。

 Wikipediaで著者を調べたところ、戦後シベリア抑留を経験された方で、その為か帰国後はロシア文学関係のお仕事が多い方のようでした。なるほどですね。

 

おわりに

 本作、図書館で借りてきました。Amazonで調べるもISBNでないと引っ掛かりもしなかったのでほぼ間違いなく絶版でしょう。もし図書館で本作を見つけて、さらにあなたが幼稚園から小学生くらいのお子さんの読書を考える(しかも英語圏の本)ときは、ひょっとすると役立つかもしれません笑

 

評価 ☆☆

2021/03/18

 

 

自分を回復する物語―『図書館の神様.』著:瀬尾まいこ



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 今回もやられた。何しろ出だしが『清。私の名前だ。』とこう来た。

 え、誰?男、女?振り仮名はキヨって書いてあるけど、キヨシじゃないだろうなあ・・・などとページを手繰るスピードが加速します。 

 『幸福な食卓』でもそうでしたが、「つかみ」が本当にお上手です。

 

 さて今回のお話は部活一本やりの高校生の主人公が、名前の通り清廉過ぎて、とあることで級友が自殺してしまい、以降、やりたいことも見つからず、ぐだぐだな大学生活を経て、ぐだぐだな不倫生活の最中に講師として赴いた高校で不慣れな文芸部なる部の顧問としてぐだぐだと生徒と過ごしていく中で彼女自身を回復していく、といったようなお話です。

 

人の不完全への温かい眼差し

 瀬尾さんの作品は本作を含め3つ目ですが、人の弱さや不完全さに対して優しい眼差しを向けているように感じます。

 

 級友を自殺に追い込んでしまった主人公の完璧主義。その後不倫からも抜けられない。そんな主人公の状態は決して褒められたものではないし、ましては肯定できるものではないかもしれません。だけど、人間とはそんなに強いものではないし、いちいち色んなことでヘコんだり悩んだりするものだし、時に奈落の底でもがいてなかなか上がってこれないことだってあると思います。

 ひょっとして勘違いかもしれませんが、私は主人公の描写に筆者の弱さへの寛容さを感じました。

 

自分ならどうフォローするかな

 主人公は、弟や文芸部唯一の部員の垣内君との何気ない日々から恢復の兆しを得ました。でも現実に何となく問題抱えていそうな人がいたら、自分は大人な対応できるのかな、とちょっと不安になりました。

 評論家のように人を責めるのは簡単ですしそんなのは嫌ですが、かといって内情を知りもしないのに安易に価値判断はしづらい。かといって、遠巻きに見ているだけというのでは爪弾きにしているのと大して変わらない。「なんかあったら話聞くよ」って言って、結果話されないでおしまいって感じなのかな。

 

まとめ

 題名から本とかの話が沢山出てくるのかなと手に取りましたが予想以上に重たい作品でした。しかし、文章の端々にユーモアを交えて語る瀬尾さんのスタイルは、読んでいて楽しい。人の弱さとか寛容とかについて考えさせる良い作品だと思います。希望の見える終わり方も好きです。ただ、主人公の、おとぼけな不倫相手の発言に対する心理描写は滅茶苦茶リアルです。そういう意味では中高生にはちょっと薦めづらいなあ。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/03/12

ローマ史大家の名著で修行のような読書を楽しむ―『新訳 ローマ帝国衰亡史』著:エドワード・ギボン 訳:中倉玄喜


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 まさに修行のような読書でした笑

 500ページに迫る大著。洞察にあふれる記述に驚きの声をあげることもある一方、ややもすればダラダラと続く人物描写が眠気を大いに誘う事もありました。毎日70ページとして1週間でスケジューリングするも果たせず、途中でリスケを敢行、結局読了まで12日程かかりました笑。

 

一番の売りは、その生き生きとした描写

 本作の一番の特徴は何といっても人物描写のビビッドさだと思います。各皇帝の描写も良かったです。コンスタンティヌス帝とか。ただ、いかんせん人数が多く印象に残りづらい。そのなかで一番瞠目したのはユスティニアヌス帝の妃となったテオドラ。若くして父母を亡くし、体を売らされ人々に供され、アレクサンドリア(エジプト)まで流れ着くも再び美貌と知性を駆使しコンスタンティノープルまで舞い戻り、皇帝の妃に座り、政治までしてしまう。すごい。

 以前佐藤賢一氏のフランス史の本を読んだら非常に面白かったのですが、その本もまた、筆者があたかも宮殿の柱の陰からのぞき見しているかのような臨場感を持っていました。

読んでも王様の名前は覚えられないけど、本の内容は面白い!―『カペー朝 フランス王朝史1』著:佐藤賢一 - 海外オヤジの読書ノート

アンリ、シャルル、アンリ、シャルル、たまにルイ。。。名前が混乱する! 英国との百年戦争がメインのヴァロア朝を描く―『ヴァロア朝 フランス王朝史2』著:佐藤賢一 - 海外オヤジの読書ノート

ブルボン王朝は性欲ダダ漏れ?の印象(歴史のほんの一側面だけど)―『ブルボン朝 フランス王朝史3』著:佐藤賢一 - 海外オヤジの読書ノート

 作者ギボンが今から200年以上前の人間であることを考えるとちょっと驚きました。昔の文章というと辛気臭いイメージがありましたが、全くそんなことはありません。恐らく訳者の力も大きいのでしょう。

 

ローマ衰退の理由

 衰亡史というタイトルであるので、衰退に至る道についての記述も多い。いわゆる「パンとサーカス」(享楽化)や国境線が膨張しすぎた点とか(現代中国を彷彿とさせます)。個人的に発見だったのは、当時は蛮族と呼ばれたゲルマン人。ゲルマン大移動などは習いましたが、ローマ人は、傭兵として使っていた彼らを最後まで異物化・差別化したことで彼らの逆上を促してしまったそうです(P.371)。なんか、外国人労働者を毛嫌いする日本人とすこしダブります。

 その他色々書いてありますが、論文のように因果を明示するスタイルではないので、ローマ衰亡の理由は端的には複合的理由と纏めておきます笑。個人的には衰亡なんて諸行無常・栄枯盛衰だろうと仏教的無常観が一番しっくりきますが。

 

 日本が今後どうなるのかという観点から読書をしたとき、衰退は避けられると猛々しく叫ぶ著作(『なぜ国家は衰退するのか』)や、覇権と取らずに細々とやっていく(『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』)など積極的消極策ともいうべき案も見ました。国のかじ取りをする政治家や官僚はどのように考えているか気になります。

 

編訳よしあし

 もう一つ加えておきますと、本作品は抄訳(編訳)でして、完全版ではありません。500頁弱の大著ですが。

 世界史業界ではギボンは超有名人だと思いますので、完全版を制覇したいというMっ気の強い御仁もいらっしゃるかと思います。Amazon調べたら、ちくま文庫で完訳が10巻セットで 15,290円! なかなかのお値段とボリュームです。

 時間の限られたサラリーマンには本作(編訳版)で十分と私は思います。読んでみて思いましたが、抄訳でも本当に長くて、それなりに辛いのです。他方、訳者による解説・補足が章毎についており、これがローマ史の理解を大いに促します。これは良い点。

 一点ちょっと残念だったのは五賢帝。世界史ではさも重要かのごとく教わりますが相当さらっと終わってしまった。これが編訳の為なのか、原作がこうなのかは不明です。

 

おわりに

 改めて本作を振り返りますと、歴史好きとしては非常に楽しめました。いわゆる政治史を追うだけだと歴史は大抵つまらないのですが、著者の力量でしょうか、皇帝や取り巻きが実に生き生きと描かれておりました。

 私のような歴史好きにはもちろんのこと、旅行好きの方も勉強してから言ったらゼッタイもっと旅行が楽しくなると思います。いまコロナですが、旅行ができるようになったらローマやイスタンブールにに絶対行きたいです笑。それと、本作は歴史業界のビッグネーム、そして大著ですので、読後に相応の達成感も味わえます。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/03/18

英国児童文学作家の自伝。古き英国の学生生活や悲惨な第二次世界大戦の様子を描く―『BOY AND GOING SOLO』著:ROALD DAHL


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作品について

 イギリスの児童文学作家ロアルド・ダール氏の自伝。

 幅3cm程度の分厚い洋書で二部構成。前編『BOY』では祖父や父らの思い出から始まり学生時代の懐古、高校卒業後Shell石油へ入社しアフリカへ赴任する辺りまでが語られます。後編『GOING SOLO』では、アフリカへ赴任後の生活とその後第二次世界大戦に際し航空隊への入隊、従軍活動の様子を中心に描かれます。因みに筆者の父母はノルウェー出身。

 

感想

 先日MATILDAという作品を読んで以来、この作者の作品を読みすすめていますが、自伝も面白かった。彼の作品の主人公は小学生くらい子である場合が多いのですが、生い立ちを知るにつけ、どうやって彼の作品が生み出されたのかが分かった気がします。また、戦争の最中でも、良くも悪くも彼の子供っぽい純粋さが見て取れ、こういう人がやはり児童作家となるのだなあと感じました。

 

英国寄宿学校での生活

 筆者は非常に裕福な幼少時代を過ごしており、1923年(7才)より就学、Llandaff Cathedral School, St Peter’s, Reptonと転校をしながら修学しています。St Peter’s からはいわゆるボーディングスクール(寄宿学校)となりますが、大分小さい頃から親元を離れるのだなと感慨深く読みました。結構ハードないたずらが好きな男の子だったようです(ネズミの死骸でいたずらを仕掛けたり。ここ読んでほしいなあ)。また寄宿学校ならではの理不尽さ(先生や上級生との上下関係)に、随分窮屈な思いをしたようでした。もちろん、これは大分昔の話で、100年もたてば様子も様変わるのでしょうが、日本の芸能人が子どもを英国のパブリックスクールにやるなんて話を思い出すにつけ、今の寄宿学校はどんな様子なのかなあと思いました。

 

チャーリーとチョコレート工場

 そういえばRepton在学中はCadburyのチョコが無料で食べられる機会があったそうです。その代わりにチョコの味の感想をまとめてCadburyに送ったそうです。そしてこの体験が『チャーリーとチョコレート工場』へとつながったとのこと。

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 ちなみにこのキャドバリーというチョコ会社は旧英連邦を中心に代表的なチョコ会社で、現在でもオーストラリア、ニュージーランドシンガポール、マレーシアなどでは販売されていますね。

 

大人になってからも、ナイーブ!?

 さて、そもそも筆者がShellに入ったのも、今でいうところの駐在員になれる可能性が高いから、とのこと。現在のタンザニアダルエスサラームという所へ20才そこそこで赴任しますが、南国だしコックもお手伝いさんもおり、ラッキーだわーみたいな楽しさ・嬉しさが文章から伝わってきます。素直です笑。また英国帝国主義のに関する考察が殆どなく『当時は本国で許されないような乱痴気が、アフリカ・インド・マレー連邦などの他の英領ではやりたい放題で見られたものだ』(P.235)などと書かれていると、戦勝国と戦敗国との彼我の違いを見た気分でした。

 若干場違いなナイーブさは更にに続き、戦闘機で移動中に動物や自然の景色の美しさに見とれたり、パレスチナに逃げ込んていたドイツ系ユダヤ人との会話でユダヤ民族の国なき状況(ディアスポラ)を当時全く知らなかった等を告白しています。

 

英語

 英語はこれまでのDahl作品の中では一番難しかった。前編「BOY」はまだ字が大きめですが、後編の「GOING SOLO」では字が一回り小さくなり、情報量が増えます。航空隊RAFに後編で入隊しますが、戦争用語には当然のことながら若干苦戦しました。asphyxiate (v)窒息させる, ammunition(n) 弾薬, berth(n)投錨, periscope(n)潜望鏡, 等々。

 

おわりに

 やや長めで若干辟易しましたが、航空訓練から戦中の知人が殆ど生きて帰ってこなかったなど、凄惨な戦争を幸運にも生き抜いた彼が最後に英国で母親と再会するシーンはなかなか感動しました(親目線で読んでいますよ)。

 単なる伝記というよりも、戦争の悲惨さや世界の広さ(アフリカや中東、ギリシアの様子が描かれています)を知るという点でも、小学校高学年から中学生程度の子ども以上に薦められる内容の作品だと思いました。勿論大人が読んでも味わい深い作品です。クウェンティン・ブレイクの挿絵も相変わらず可愛い。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2021/03/14

 

Boy and Going Solo

Boy and Going Solo

  • 作者:Dahl, Roald
  • 発売日: 2012/07/17
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

絶品エンターテイメント小説!―『ドミノ』著:恩田陸


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 面白かったです。ふつうに

 この前まで恩田氏は青春系のティーンズ小説の作家と勘違いしていましたが、昨年あたりから、色々な作風を出せる作家であると改めて実感していました。そして本作は、絶品のエンターテイメント作品。登場人物が28人(匹?)も出てくるのですが、混乱せずに面白く読めました。まるで三谷幸喜氏の映画を見ているようなコメディタッチな作品でした。

 

人物の書き分けが秀逸

 物語の舞台は東京駅。駅は人々が行き交う場所ですが、色々な背景を持つ登場人物が絡み合い、ドミノのように連鎖していく様は流石でした。

 保険会社での月末の数字を追う人たち、子役のオーディションで散る火花、彼女との別れ話に従姉妹を引き込む面倒くさい青年事業家、大学ミステリー研究会の次期代表決定戦、オンライン句会のオフ会の待ち合わせ、過激派によるテロ準備、こうした個々別々の背景が偶然にも同じ日に同じ時間に起こってしまうというものです。

 これ以上の詳しい内容は、是非読んで確かめてみて頂ければと思います。

 

欲をいえば・・・

 ちなみに、米原万里さんのあとがきによると、単行本には登場人物のイラストが挿入されていたとのこと。これは文庫本でも欲しかったなあ。まあ逆に想像力がかきたてられるというのはありますが。米原さんの文章もこれまた小気味良くてよかったです。我慢できずに途中に読んでしまいましたが笑

 

おわりに

 もう一点の曇りのないエンターテイメント小説だと思います。早速、本の苦手な子供達の次なる候補としてストックしました。中学生くらいから大人まできっと楽しんでいただけると思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/03/10

死の色が濃い。小学生向けではないかも!?―『銀河鉄道の夜』著:宮沢賢治


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 日本語の拙い中学生の娘用に購入しました。以前、『注文の多い料理店』を読み、所収されている作品には自然との一体感が描かれており感銘を受け、面白かったからです。

 本作『銀河鉄道の夜』は寧ろファンタジー系中心の作品で、個人的にはとっつきづらかったです。なお娘の感想は、一言『つまらない』でした笑

 

所収作品寸評

 以下、所収されている順に作品について寸評させて頂きます。

 

『おきなぐさ』・・・おきなぐさという植物について、『私』が周りの植物や昆虫、鳥たちに好きか嫌いかを聞いていくという話。絵本の内容を文字に起こした感の文章。宮沢賢治らしい自然の観察が描かれています。

 

『めくらぶどうと虹』・・・めくらぶどうと虹とのダイアログ。二つの自然物が死について語り叫ぶ様子は、自然の循環や輪廻を予感させる。二度読みしたがやや意味不明。

 

『双子の星』・・・天の川に住む星の住人?の双子のポンセ童子とチュンセ童子が天の悪者に騙されて海中へ落ちていく様子を描く。物語の筋がきちんと通っているため読みやすい。なかなか面白い。

 

ひかりの素足』・・・雪深い山を行く幼い二人の兄弟の物語。弟は死の予感を得て恐怖し、兄は弟を励まし道を行く。気づくと死後の世界を二人でさまようが、すんでのところで兄だけがこの世へと戻る。これを小学生が読んでどのように反応するのか気になりました。

 

銀河鉄道の夜』・・・名前は有名ですが初めて読みました。なかなか難しい作品だと思います。貧乏なジョバンニは次第に学校で友人とも遠ざかり仲良しだったカムパネルラとも疎遠に。あるお祭りの日、気づくとジョバンニは銀河鉄道に乗っています。しかもふと見るとカムパネルラも車中に。最終的には少年の死を描く作品で、滅法暗いです。

 

まとめ

 曰く言い難いのですが、本当に子供向けなのか、と思いました。

 死というテーマを子どもから遠ざける理由も特にはありませんが、兎に角死を暗示する内容が節々で現れます。子どもが死というテーマに疑問を持った時に、それにきちんと答えられる大人がきちんと傍に居れば良いのですが・・・。ちょっと頭のいい子がこれを読んだら、めちゃくちゃシニカルでニヒルな感じになりそうですが(ちなみにうちの娘のように、つまらない、で流してくれれば問題ないですが)。

 帯には『先生がすすめる名作 6年生』とありますが、もろもろそんなに簡単な本ではないなあと感じました。

 

評価 ☆☆☆

2021/03/09

 

がん患者が自己決定権を失わないための啓蒙書―『抗がん剤だけはやめなさい』著:近藤誠


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 プライベートな話ですみません。祖母は乳がん、祖父は皮膚がんの末に亡くなりました。母も乳がんを経験し、父は胃がんで胃の2/3を切除。自分は左の耳下腺(耳の下に位置する唾を出す器官)に腫瘤ができて耳下腺ごと切除しました(30歳ちょいすぎで)。

 国立がん研究センターによると2019年時点で、生涯でがんで死亡するのは男性で26.7%, 女性で17.8%だそうです。つまり国民病といって過言ではありません。

 

 本書は、そのようながん治療で使用されることが多い抗がん剤、逆に使用することで死を早めるというショッキングな内容。私個人としては非常にためになる内容でした。

 

なぜ抗がん剤が悪いのか

 抗がん剤の欠点は端的に言えば、抗がん剤は腫瘍だけではなく正常細胞をも叩くからよくない、ということのようです。がんは正常細胞のDNAの一部が変異したものだということですが、誤解を恐れずに言えば「一部だけ異常な正常細胞」。ですから抗がん剤はほぼ確実に素の正常細胞をも殺すわけです。加えてがん細胞の方が増殖力が高く、抗がん剤の使用は当然のことながら正常に機能する身体臓器を壊滅的に叩き潰すことになります。

 

抗がん剤は効果がない?

 抗がん剤は欠点があるというばかりではなく、抗がん剤には効果がないとまで言います(延命効果・腫瘍の縮小効果ともになし)。筆者はこれを数多くのグラフとその形の歪さからデータの不正を指摘していますが、正直素人である私はイマイチわかりませんでした。ただ、リードタイム・バイアスなる統計上のからくりがグラフに仕組まれているというのは建付としては理解出来ました。

 さらにさらに、抗がん剤がそもそも発がん性物質を含むらしいです。だとすると、なおのこと毒ですね。

 

きっと医師は自己否定できない

 こんな端々の情報だけですと、きっと眉唾と思う方も多いと思います。ただ、背景を考えると病巣は深刻で、また合点もいきます。

 まずもって金の力。始めに製薬会社の社員が論文の執筆者になる。大学教授が研究補助費を貰う。そして共同執筆者になる。この時点で医学会も企業側にポジションを取っていることは否めません。ここから不正な論文が書かれる下地ができあがります。

 次に腫瘍内科医の自己保存。仮に研究費をせしめる医師はほんの一部だとしても、その他多くの現場の医師に選択肢は少ない。例えば腫瘍内科医が40代50代になって、自分の治療は間違っていたと否定できるでしょうか(抗がん剤が本当に効かなくっても信じられないのでは?)。仮に自己否定できてそこから新たな専門を持とうとするでしょうか。また家庭を持ち相応の生活をしているなかでそのレベルを落とすかもしれない選択をやすやすと出来るでしょうか。加えて言えば、それまでのエリート然として扱われてきて自分もそう信じてきた中で、自分の信じてきたことが間違いだったと自己否定できるのでしょうか。どれも難しいのではないでしょうか。

 しかしその妙なプライドのためにがん患者が殺され、製薬会社だけが儲かっているとしたら恐ろしい話ではないでしょうか。

 

対処法はあるのか

 頼るべき医師が信じられない中でどうするか。筆者は超弩級のストレートを投げ込んできました。それは、諦観です。そう、いずれ死ぬんですよ、だったら苦しまずに静かに死んだ方が得じゃないですか(意訳)と言っているようです。

 「結局、よき人生を全うするためには、ある種の諦観が必要だとつくづく思います。がんにかかったというだけであきらめる必要はないけれど、子検眼の臓器転移であれば、腹をくくらなければならない。難しいことではありますが、それができないと、人生の最後に肉体的・精神的に苦しむことは確実ですし、命も恐らく縮みます」(位置NO.1955)

 いちいちご尤もではあるものの、素直に受け入れがたいのも真実。でもどうせ死ぬなら静かに死にたいし、そういう死をきちんと迎えるために、やるべきこと・やりたいことを今からそこそここなして、なるべく悔いなく死にたいものです。

 

おわりに

 最後に申し添えたいのですが、本書は抗がん剤を全否定しているわけではありません。一部には有効とのことです。ただ、医師のいう事を鵜呑みにせず、がんになった時の対処法に至るまで事細かく描かれている点についても、諸々と非常に啓蒙的であると感じました。

 改めて申し上げますが、信じるかどうかは読者次第です。ただ医師と製薬業界とが癒着しかねない状況であれば、私は街中の医師よりも筆者のほうを信じたいと思います。

 ご家族やお近くの方をがんで亡くされた方、がんになるかもと心配された方は読んでみて悪くないと思います。病気の為と言うより死の間際まで自己決定権を失わないために読んで損はないと思います。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2021/03/06

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