大阪、ミナミのパワー。
グリコと道頓堀がお出迎え。
20を越して初めて踏んだ大阪の地は、東京生まれ・東京育ちの私にとってはおよそ「異世界」という言葉では尽くしきれない、尋常ならざる世界でした。
天王寺公園の青空カラオケ。週末に行くたびにお祭りが多い町なのかと勘違いしました。その先の露天では靴片方とかが売っており、売り子のおっちゃんに理由を聞くのすら怖い笑 そのそばには朝っぱらから男性が倒れている。酔っ払っているのかか死んでいるのか・・・
そんな場景を見下ろすのが、我らが通天閣。
本作は、そんな通天閣の横にすむうらぶれた40代の男性と、そんな通天閣付近の場末のスナックの黒服を勤める女性の話であります。
ひとこと
巻末の津村記久子さんが、絶妙で的を得た解説をしているのですが、本作結局なんなのかといえば、世の厳しさを描写をしつつ、ほんのわずかな希望も描く、という文学作品です。
男性フリーター、女性黒服、静かにミナミを生きる
男性主人公、彼の行き先は暗い。
フリータとして40を過ぎ、バツイチ。この先人生は変わらない。それでもいいと思っている。
とんがっていたのに何となく新人バイトに優しくし、新人が盗んだ蕎麦屋の自転車を代わりに乗って危うく罪を着せられそうになる。通天閣で自殺未遂をおこした赤の他人の隣人に偶然遭遇し、自分がピエロになり全力のアピールで自殺を食い止める。
どうにも締まらず、空回りする。なんだかなあ、という人生
かたや主人公女性。
同棲していた男性は米国に留学し、彼を待ちつつ黒服として働く。彼とつながる国際電話の頻度は次第に少なくなり、自分の心が徐々に不安定になる。
最後の電話は別れの電話。
わたしの何がダメなのか、惚れた女のどこがいいのか。なんでアメリカくんだりまでいって日本人の女なのか。
自分の恋愛もうまくいかず、男にだらしなかった母親を思う。
ユーモアと関西テイストが紡ぐリズム
でそんな文学文学した作品、じめじめしてばかりかというと、軽妙な関西弁に乗せられ、いかにも大阪的なユーモアがちりばめられています。
主人公男性が勤務する工場で作られている懐中電灯の「ライト兄弟」。そのネーミング! またこの男性が可愛がってしまった新人。ドモりなのだが、どもるのが「ア行」だけ。試しに「アイアイ」と言わせてみる。サルやんけ!
女性主人公の勤めるスナックのママ。
スナックという喧騒に包まれた勤務地にもかかわらず、致命的に声量が小さい。語尾が聞き取れない。それを生かしてスナックのオーナーがぼったくると決めたら、会計で矢面に立つのはママ。何しろ色々応えている(無視はしていない)のに声が聞こえない。
そう、つっこみ所満載なのです。
きっと関西圏出身の方だと突っ込みながら読むんではないかと思います。ある意味親切設計、でありました。
おわりに
ということで西作品でした。本作は彼女のキャリア三作目、割と初期のものですが、(普段印象的な)言葉のたおやかさより、ストーリ展開がスムーズであったという点が印象的でした。
関西を感じたい方、大阪にゆかりのある方にはお勧めできるかもしれません。
評価 ☆☆☆
2024/07/27