海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

チームを作り、ビジョンを語り、コモディティ化せずに生き残れ―『君に友だちはいらない』著:瀧本哲史


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著者について

 元京都大学客員准教授。投資家。麻布高校東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー、その後日本交通へ。2007年より京都大学産官学連携センター客員准教授。2019年死去。(以上殆どがWikipediaの受け売りです)

 

 感想

 かつて「君たちに武器を配りたい」という不思議なスパイシーな本を読みました。経歴や本の語り口が非常に印象的な方でした。2020年のNHKクローズアップ現代「2020年の世界を生きる君たちへ ~投資家 瀧本哲史さんが残した“宿題”~」に関する記事をネットで見て、実は彼がすでに亡くなっていた事を知り、余計にどんな人なのか興味が湧き、本書を手に取りました。

 

世の中は厳しい競争社会。この荒波の乗り切り方を伝授

 本書の内容は、私の理解するところでは、厳しい資本社会での生き残りの方法についての指南であると思います。またこの厳しさの中で成功をつかむためのチーム作りを語っています。

 

 筆者の基本的スタンスとしては、現実の競争社会が非常に厳しい、いわゆるレッドオーシャン的な理解でいるのだと思います。あらゆる既存の資格や地位はグローバルな競争の中でコモディティ化し、価格競争の渦に飲み込まれる。その中で値崩れをしない価値を生み出す方法が彼の言う「チーム」作りという事だと思います。

 

 極々簡単にまとめるならば、要点は三つ

  1. 「秘密結社」の結成。バックグラウンドや個性の異なるチーム作り(『7人の侍』)
  2. ネットワークの見直し及び構築。
  3. チーム作りにあたって、ビジョンを持つこと・語ることの大切さ。

 

 こうやって合目的的なチームを結成し、コモディティに陥らず、世の中で事をを成し遂げよう、というとてもアツい内容の本です。読んでいただればわかりますが、こうするべきという命題を語る一方、その言説の背景に併せて過去の事例や物語・映画・現実の事象等々を使い説明しており、非常に分かりやすい構成となっております。

 

あなたのネットワークはあなたの鏡

 作品の本筋からはすこし逸れますが、筆者のものの見方で2点印象的だったことがあります。

 一点目はネットワークの「棚卸」についてです。自分のネットワークは自分のstatus quo

の反映といえる、と捉えています。

 

 ネットワークを構築する前には、まず今の自分が持っているネットワークの「棚卸し」をする必要があるだろう。

・自分が頻繁に会っているのはどういう人か。

・たまにしか合わないけれど、自分にとって重要な人はだれか。

・どれほど多様なコミュニティに属しているか。

・自分の近くにいる人で、別のコミュニティのハブとなてくれそうな人はいるか。

この4点を確認することで、今の自分のネットワークがどういう状態にあるか、理解することができる。その結果が望ましいものであれば、さらに良い方向に伸ばしていけばいいし、「変えなければならない」と思うのであれば一刻も早く適正化するべきだ。先述したように、ネットワークは「自分がどういう人間か」できまる。頻繁にあっている人が客観的に見てロクでもない人間であるとするならば、自分自身がロクでもない人間になっている可能性が高いのだ。(P.170-P.171)

 

 最後の2文は胸に突き刺さります。自分の周囲の環境は自分で作っているということですので、自分の周囲から自分を理解することができます。それを彼はネットワークという人間関係で説明しているわけです。このネットワークが充実していないとすれば、その人自身の活動が充実していない証左だとも思えます。私も会社や妻の文句を言う前に自分が変わらねばなりません笑

 

右翼とは貧しい人の代名詞!?

 もう一つ印象的だったのはナショナリストには貧しい人が多いと喝破している箇所。

彼らはグローバル化する世界の中で、自国でしか生きることができず、自国にとどまらなければ生活できない。そのため自分たちの「取り分」が減ることを極度に恐れて、自己を守るために他者を攻撃するのである。(P.310)

 これは地縁血縁など、自然発生的にできてしまう集団ではなく、あくまで合目的的な集団=チームを作るべき、というくだりで述べられています。他者を攻撃する人の本質が非常に簡潔に表れており、なるほどと思いました。

 右翼の方は一定程度常に存在するのでしょうが、これがマジョリティになるとすればこれは国そのものが貧困に陥っていると言えるのかもしれません。本作中でもワイマール帝国の例示がありました。日本の右傾化をつとに感じますが、これが日本の貧困を表しているのではないかと怖くなりました。

 

おわりに

 リキャップしておきます。

 この本は、若手にかかわらず、中年以降の方にも生き方の参考になる本だと思います。もちろん、本作はは基本的には若い方向けに書かれた作品です。しかしながら、コモディティ化しつつあるのは若手にかかわらず、すべての社会人・学生が同じ状況にあります。ヴィジョンをもって仲間を巻き込み物事をやり遂げるという図式は、中年以降の方にも参考になると思いました。

 なお、こうしたチーム作りも、論理的には、皆がやれば陳腐化するわけですが、これを成し遂げるのはそこそこ難しいので陳腐化するまでに相応時間がかかると思います。従い、チャレンジする価値はある方法だと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/01/13

読んでも王様の名前は覚えられないけど、本の内容は面白い!―『カペー朝 フランス王朝史1』著:佐藤賢一

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 世界史を勉強しています。私の先生は、古代ギリシア・ローマが終わると、ゲルマン大移動や十字軍、そして神聖ローマ帝国へとすすみ、あれよあれよとという間に中世ヨーロッパへと進んでしまいました。カロリング朝カペー朝はノルマン公国はじめイギリス史と併せて流れを理解するうえでは結構重要そうなのに、さらっと触れるだけでした。もう少し知りたいなあと思い購入。

 

 驚きましたが(失礼!)、非常に面白かったです。

 自分が歴史好きというのはあるかもしれませんが、やはり筆者の腕によるところが大きいと思います。と調べてみると、なんと直木賞作家でもあったのですね。

 

カペー朝は戦国時代?

 さて、私の印象ではカペー朝時代は、日本の戦国時代に似ています。つまり休まることのない戦乱。一方、王朝そのものは約350年に渡り続き、そのすべてが直系男子が戴冠するという奇跡的かつ印象的な王朝であります(徳川と比較するとそのレア度が実感できます)。そんなフランス王について、それぞれの人となりやエピソードを史実と絡めて丹念に描写しています。

 

男はだいたい女で人生が狂う!?

 やはり面白かったのは王の女性問題です笑 奥さんが居るのに他の女性を好きになっちゃう(フィリップ1世)とか、奥さんの浮気を疑って夫婦仲が悪くなる(ルイ7世紀とアリエノール)とか、奥さんとデキない(フィリップ2世とインゲボルグ)とか、はたまた奥さんが強すぎる(ルイ8世とブランシュ・ドゥ・カスティーユ)とか、そういう話です笑。

 王様といってもやはり人間ですし、その奥さんも同様。だから、悩むことと言えば今私たちが考えること大方違いはないはずで、お金とか名誉とかはたまた家族とか、あるいは想いを寄せる人とか笑。こういう話が、バックグラウンド含め説明してもらえるのでとても面白く感じます。

 

 また当時は極々当たり前ではありましたが、フランスを含め、イギリスやスペイン、はたまたドイツの領邦の領主らが、互いの勢力や保身を考慮して婚姻関係を行っていたわけですが、夫々の王家同士のつながりについては、もう少し勉強していきたいと思います。もう、親戚関係の理解がスパゲティ状態になりました笑

 

フリーメーソンの原型!?テンプル騎士団

 もう一つ、注意を引いたもの。テンプル騎士団の話です。フィリップ4世がテンプル騎士団を殲滅しましたが、その呪いにより、その後4代の王が短命に終わったとか何とか。このテンプル騎士団フリーメーソンの原型という話もあるようです。十字軍や騎士団の歴史と併せて、キリスト教の亜流の集団についても勉強してみたいと思います。

 

おわりに

 そういうわけで総括します。

 この本、かなりお勧めできます。カペー朝というごく限られた範囲を対象にした本ですので大分対象が狭そうに見えます。しかし世界史について詳しくない人でも、本作は人物にフォーカスを当てて書いてあるので興味をもって読めると思います。受験生などテストのために勉強している方にもきっと楽しく読んでもらえると思います。

 もちろん楽しく読めるだけで、人物名や年号は本を読んだだけでは覚えられません(私も速攻名前とか忘れています)。しかし、現在あるフランスの成立要素(民族、イギリスとの関係、ローマ教会との関連)などの大枠の理解を促すのには非常によい読み物だと思いました。歴史に興味がある方にはだいぶお勧めしたいところです。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/01/05

大阪下町のちょっとほっこりする兄弟の話―『戸村飯店 青春100連発』著:瀬尾まいこ


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 若い時、本当に家族が苦手でした。

 心配されるのが鬱陶しいし、早く家から出たいと願っていたし(まあ家出もやらかしましたが)、必要なこと以外殆どしゃべらないという親不孝な子供でした。

 

 社会に出て、親になり、自らの愚行を機会あるごとに両親に詫びますが、それでもなお、家族っていうのはなかなか難しいものです。最も近い間柄の人なのに、何故か素直になれなかったり、つっけんどんになったりしまったり。

 

 そんな、家族のお話が得意な瀬尾さん。彼女の描く家族の話はとてもほっこりします。

 今回の舞台は大阪の下町。実家が中華料理屋のヘイスケとコウスケ。この兄弟の成長物語です。

 

気に入っているのは、大阪が舞台という点、そして兄弟の成長

 さて、本作の特徴は何といっても関西、ということでしょうか。

 舞台設定は大阪の下町、しかも中華料理屋の息子たちということなので、会話も関西弁ですし、お客さんとの距離も近い近い。一緒に阪神タイガースの応援をしたり、お客だてらに店の息子たちにちょっかいを出す様子は、関西人の距離の近さを感じさせます。

 若い頃西宮に住んでおり、まだ幼稚園生だった息子を連れて春の甲子園を見に行った時のことを思い出します。電車で隣のおばちゃんに「あんた、どっち応援するん?」と聞かれ飴ちゃんをもらったことを思い出します笑 他愛ない会話が自然にできるので大阪は好きです。

 

 もう一つ、主人公たる男兄弟の精神的な成長がいい。

 男というのはなべて口下手だったり、羞恥心が強くて自分の気持ちを喋るということをあまりしないものです。ただ、物語とはいえ主人公の兄弟を見ていると、やはり、表現する、しゃべる、気持ちを表すということは大事だなあと思いました。彼らのような素直さが若い頃の私にあれば、もう少しマシな人間になっていたかもしれません笑

 

おわりに

 安心して読める家族の話です。前回読んだ『幸福な食卓』がハッピーエンドでなかったのでこの作品はどうかと思いましたが、アンハッピーな形ではありませんでした笑

 中学生くらいから大人まで広い層の方に楽しんでいただける小説だと思います。 

 

評価 ☆☆☆

2021/01/06

新しい友人が出来ました。賢そうなんですが、まだよく分かりません(笑)―『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質』著:ナシーム・ニコラス・タレブ 訳:望月衛


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著者について

レバノンアメリカ人。ニューヨーク大学教授。元トレーダーでもあり、現在Universa Investmentsで数理顧問を務める。ペンシルバニア大ウォートンスクールでMBAパリ大学でPhDも取得。因みに、祖父(Fouad Nicolas Ghosn)・曾祖父(Nicolas Ghosn)ともにレバノンの副大統領を務めた。なお、祖父の名前がゴーンですが、カルロス・ゴーンレバノンへ逃亡!)とは関係ないとツィートしていました!

 

感想

 この哲学と経済学のミクスチャ―のような作品を読んで、内容を日記に書き留めようと思いましたが、なかなかうまく言葉にできませんでした。著者の持つ哲学的バックグラウンドも数理ファイナンスの知識も、私には到底及ばないほど広範なものだったからです。

 

 そのため、感想を一言で言うと、表題の一文のようなおよそ本の感想にもならないような感想になってしましました。

 くしくも後書きで筆者はこのように語っています。

「この本を書くのは、思ってもみないぐらい楽しかった。実際、この本は自分で自分を書き上げてしまったようなものだ。」(単行本 下巻 P.223)

 

 筆者のいうことを信じれば、彼の人となりの凝縮された本作をたかだか一読で理解するなんて、勉強も教養も足りない私には到底不可能です。ですから、もう少し哲学も経済学も勉強してから将来再読したいなあと思っています。

 

 

 さて内容ですが、不確実性という構造、そしてその認識(人側の問題)について、の二点を主題として書かれていると思いました。

 

想定できない不確実性、ブラックスワン

 不確実性については、所謂リスク管理は結局は意味がないと言っているように感じました。後半で多く語られますが、ベル型カーブと呼ばれる(なだらかな富士山みたいな形)、いわゆる標準偏差のグラフ。あのカーブの山すその端に行けば行くほど、発生確率は低いものですが、筆者のいう黒い白鳥(つまりありえないような想定)が往々にして起こることから、不確実性とはその字義からして、定式化の外に発生すると言っているように思います。

 2000年当初のITバブル崩壊リーマンショック、そして2020年に起こったコロナも、すべて100年に一回とか、数百年に一回とか、極めて稀な事象に思えますが、黒い白鳥という概念からすると、皆が想定しないから存在してしまう危機、ということができるかもしれません。そもそも過去のデータに依拠しつつそれがすべてとみなすようなやり方に疑問の目を向けています。

 

見たことがないものは、存在しない?人間の認識の妙と論理のあや

 筆者はまた、こうした不確実性に対する人間の認識の特性についても思考しています。さいころの目や大数の法則から帰結する死亡率などは、将来の事と言ってもある程度の角度をもって想定できることです。でもレバノンの内戦がいつ終わるかとか、トランプが大統領になるとかは、事前にはわからず起こった後に大変なことが起こったと驚くものです。筆者はこのような態度から、不可知論的なタクシー運転手を学のある統計学者よりも称賛しているきらいもあります。

 黒い白鳥は見たことがないから存在しない、という見方にも批判を加えています。不確実が不確実である所以は、まさに想定しないからなのであり、今ないことがこれからないことの証明にはなりませんね。

 また起こった後に原因を求めて理解した風にする特性もありますが、これも黒い白鳥の考えを直視していません。理解の外にあるからこその概念です。加えて、人間は常に事象に意味を求めてしまうところもあるので、余計に想定外の意味を見づらくしてしまいます。

 

 ほかに成功者のバイアスの話もありました。よく投資信託で長年パフォーマンスを保持してきた成績を見ます。というかパンフレットなんか見るとそんな良好なファンドばっかりです。そこで一つ投資でもしてみるか、と思うわけですが、実際にはうまくいかなかったファンドなど腐るほどもあり、続いたファンドはあくまで多くの死んでいったファンドの一部なのです。そして今あるファンドもいつ死ぬかはわかりません。バイアスですね。

 

不確実性からランダム性へ。世の中を変化させる大きな要素?運?

 不確実性に続き、ランダム性についても語られていました。こちらも面白い。

 曰く、因果を保留することを容認することが必要だとか。原因と結果、で捉えるのではなく、偶然、とするのでしょうかね笑 ある意味で不確実性(ブラックスワン)をポジティブにとらえた表現としてランダム性を導入しているように思えます。一例としては、インドに行こうとして発見した米国大陸、高血圧に使おうとして副作用が売れてしまったバイアグラとか。

 ベル型カーブと関連付けて、ロングテールの可能性にも言及しています。ロングテールの多様性は、ゲームチェンジャーになりうるということです。逆に寡占によって集中した多様性のないものは(要は銀行業界とかです笑)、危機が起こった時にいっぺんに破壊されるリスクが高いという。ある意味で、ブラックスワンの出現に対応するためにはロングテール戦略が有効ということに思えます。

 

結局どうするのか?

 さて、結局、不確実な世の中に住む我々はどうすればよいのか?タレブ先生?

 筆者はたちのわるいリスクには心配すると言っています。皆が安全だと思っているものをリスクと呼んでいます。株で言うと、大型株のほうが危険だとか。なぜならベンチャー株などリスクが自明で、捨てた気分で投資できます。他方、大型株は年金基金が投資していたり、あるは自分の勤め先がそういう会社であったとき、仮にブラックスワン的危機がおこったら、人生詰んじゃいます。

 でも最後の最後に筆者はいうのです。自分自身が生まれる、そして今まで生きているということが黒い白鳥なのだと。故に今生きている幸せをかみしめようという、ちょっと道徳めいたくだりで本作は幕を閉じます。

 

おわりに

 冒頭に書きましたが、非常に内容の詰まった難しい本です。読み口は一見易しそうですが、内容はどうして、かなり難解です。でも、とても魅力的な本です。経済、金融、確率、リスク、認識論など、こうした切り口に興味がある方は面白く読めると思います。いずれにしても、またいつか再読したいなあと思いました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/01/02

 

 

古代ギリシア・古代ローマの大著。興味があれば眠気を克服できる!?―『ギリシア・ローマの盛衰 古典古代の市民たち』著:村川堅太郎、長谷川博隆、高橋秀


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概要

 故村川堅太郎(東京大名誉教授)、故長谷川博隆(名古屋大名誉教授)、高橋秀(立教大名誉教授)の三氏による古代ギリシアから帝政ローマ終焉頃までの歴史を描く大著。

 

感想

 私、より効率的に短時間で大学受験に合格するため、世界史を勉強しませんでした。

 学部卒業から20年以上たち、コンプレックス?であった世界史を今更ながらに勉強しております。

 

アツい人間への興味!でも、眠くなる、そして、長い

 そのなかで本書を購入しました。古代ローマギリシアは細切れに勉強すると流れがつかめないので本で流れをつかもうという魂胆です。

 結論を言います。おっさんがやる気を出して読んだのですが、すみません、眠くなります

 

 何だろう、良くも悪くもきっと描写が細かいのです泣。

 ただ、古代ギリシア・ローマをしっかり勉強したい方にはきっとその行間から滲み出るエッセンスに狂喜するのではないかとおもいます。というのも、本書は歴史の本ではありますが、誤解を恐れずに言えば、ヘレニズムとはなにか、あるいはローマ人気質とは何かということへの答えなのです。そうした人間への興味という点では、共感するところ大でした。

 

現代と大きくかけ離れたギリシア風俗

 さて、そんな中でも、私が面白いと思ったのは第5章”古典古代の市民たち”です。印象的な話として生児遺棄の話があります。曰く、五体満足ではない子、育てるに値しない子は捨てられる、と。こうして死んだ者を回収して片づけるのは奴隷の仕事であり、また、死せずとも拾われて奴隷として育てられることもあったそうです。女性も男性の下位に置かれ、少年愛も盛んだったようです。

 

 古代ギリシアと言えば、人間賛美的なイメージがありました(もう素人の完全なるイメージ先行ですが)。しかし、古代ギリシアで賛美されたのは、純粋なもの、美しいもの、完全なもので、その範疇からはみ出るものは、意外と重きを置かれなかったのかもしれません。このような印象は、プラトンイデア論を想起させますね。現代はむしろこれとは対極で、あらゆる価値を相対的に認めるような世の中かと思います。もし現代に、プラトン相田みつを(「にんげんだもの」)が生きていたら、きっと大ゲンカするのでは、とくだらない夢想をしました。

 

キリスト教の歴史をささっと学びたい方は第10章を

 もう一つ、個人的に気に入ったのは第10章”新約聖書の世界”です。キリスト教の歴史や世界史の中での位置についてはこうして一章割いて書いてくれているので、よく理解できます。属州ユダヤがローマからの圧政であえぐ中で次のメシアを求めていたとか、使途パウロの伝道の旅が図解で載っていたりとか、そういう箇所は面白かったです。

 

おわりに

 初版1991年と書かれたのも古く、扱う内容はもっと古い。そうした中で、書き方を含めややとっつきづらさはあります。ただ、紀元前の古代ギリシア古代ローマに興味がある方には読んでおいて損はないと思います。なかなかの情報量です。他方、高校生や浪人生が理解の足しに読むとすると余計に混乱するかもなあと思いました(効率的な知識の吸収という意味で)。ですので、お時間に余裕のあるかた、あるいは興味のあるかたにお勧めしたいところです。

 

評価 ☆☆☆

2020/12/28

2020年の読書を振り返ります。印象に残った10作品。

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 おかげ様で、当方のブログが2019年12月から始めまして一年が経過しました。名も知らぬ皆さまに見てもらえて、有難い限りです。ここに御礼申し上げます。

 

本以外に少し2020年を振り返り

 さてコロナ一色であった2020年ももう終わりですね。

 私にとってはコロナによって在宅勤務?ステイケイション?よくわからない中途半端な生活が(今も)続き、自らのアジャストについて試行錯誤をする一年でした。

 

 2020年の読書は大体120冊

 さて、読書です2020年の読書は約140冊という事になります。

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 実際には2019年12月からの13か月なので、年間ベースで多分120冊強です。しかも、かなりの本は再読ですので沢山読めたわけです。実際に読書が早いわけではありません。

 

 この数年、私にとっての読書とは、仕事や健康で行き詰まってしまった自分の「再建」のためでした。しかし今年は文芸関連をはじめ、歴史や思想など自分の娯楽のための読書がかなり多かったと思います。文芸は中学生の子供たちに読ませるべき本の確認という面もありましたが、今年は仕事も健康も落ち着いてきたということであります。

 

 そんな私の読書ですが、印象に残った作品を10ほど列挙したいと思います。

 

1. 「脳を鍛えるには運動しかない」ジョン・レイティ

脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方

 本年は当方の仕事は比較的落ち着いておりました。しかしコロナ禍で仕事もプライベートも欝々として手につかない時、バイブルである「脳を鍛えるには運動しかない」にある教え、すなわち「運動する」という教えに立ち返り、リズムを作りました。更年期や閉経後のホルモンバランスにも効果があるらしいので、今後は妻も運動教に巻き込もうと思います笑

 

  

2. 「世界一やさしい問題解決の授業」渡辺健介

3. 「究極の鍛錬」ジョフ・コルヴァン

 

世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく

究極の鍛錬

 中三の息子がこの12月に単身日本での受験の為帰国しました。夫婦そろって息子ロス状態に陥っていますが、同時に老後に向けた準備を意識し始めました。何をするか、どうやってするかとか、つかみどころのない問いに答えをつけるのは「世界一やさしい問題解決の授業」のやり方が参考になります。

 また老後とは言え、単なる手慰み以上のそこそこイケてるレベルになることも夢想しています(何をやるかはわかりませんが)。そんな夢の実現ためには「究極の鍛錬」の「天才は作れる」というメッセージを改めてかみしめたいと思います。どの道でも、達人とは、真剣な鍛錬の累計時間でつくられる、とするものです。出世は諦めている私ですが、実力はまだ伸ばせると希望を失っていない根拠となる考えです。

 

 

 

4.「失敗の本質」戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝雄・野中郁次郎

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

 日本に往々に見られる無責任な組織の典型といえば、旧日本帝国軍ではないでしょうか。空気を読みまくって、忖度しまくって、必要なことを必要なタイミングでしゃべらない。データを正視せず、ご都合主義で、実力より縁故。とんでもない組織の話です。

 時代が違うとはいえ、自分の中のメンタリティーにも上記のようなファクターは散見されます。反面教師として自戒の意味も込めて来年以降再読したい。 

 

 

 

5.「伊勢物語

伊勢物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫)

「むかし男ありけり」で始まる、かの有名な「伊勢物語」。古典がからっきしな息子に音読させました。内容がアダルト!?なものも多いのですが、この本は解説が読みやすいし、模試や過去問にもたびたび引用されていたので、ほら出てんじゃんと度々指摘しました。在原業平のストライクゾーンの広さに脱帽です。

 

 

 

6.「幸福な食卓」瀬尾まい子

7.「弱いつながり」東浩紀

幸福な食卓 (講談社文庫)

弱いつながり 検索ワードを探す旅 (幻冬舎文庫)

幸福な食卓」「弱いつながり」はどちらも息子がやった高校の過去問に出ていました。前者はユーモラスな作風に通底している一抹の寂しさが秀逸でした。後者は哲学者の東浩紀氏の小品。インターネットという道具は世界はどんどん狭く均質的にしてゆきます。ある意味でコントロールされた、予期された世界へと人を追い込んでいっているのではないでしょうか。筆者の言う「ノイズ」や「旅」によって未知なる何かと出会い、私も子供たちも新たな地平と出会いたいと思います。「旅」がキーワードなので、旅好き(いまなかなか難しいけど)にもお勧め。 

 

 

 

8.「オリバー・ストーンの「アメリカ史」講義」オリバー・ストーン

9.「砂糖の世界史」川北稔

〔ダイジェスト版〕オリバー・ストーンの「アメリカ史」講義 (早川書房)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 海外在住の私ですが、日本人ですのでやっぱり日本の将来が心配です。年金とか医療制度とか。日中関係も日米関係も心配です。で、そもそも現代日本(あるいは現在の世界)がなぜ今のようなのかと言えば、覇権をもつ米国の歴史を知る必要があります。「オリバー・ストーン~」は抄録ではありますが、学校では教えてくれない米国の本音を手っ取り早く知ることができます。「砂糖の世界史」は主にイギリスの覇権時代の話ですが、世界史の事実を列強の欲望や意図をベースに理解しなおすのに有効な作品です。

 

 

 

10. 「新聞が消える」アレックス・S・ジョーンズ

新聞が消える ジャーナリズムは生き残れるか

 こちらは歴史書ではないのですが、陰謀・密約などが明るみに出るためにはジャーナリズムが必要だとする筆者の主張に強く共感するところがあり、挙げました。資本主義の果てでは、こうしたジャーナリズムの独立性をどう保つかは悩ましいところではあります。ちなみに、皮肉にも本作ではオリバー・ストーンの「プラトーン」を例に、虚構はあくまで虚構であり、ジャーナリズムとコマーシャリズムとの峻別の対象となっていました笑。

 

 

 

終わりに

 この一年ブログを通じて感じることがありました。

 当たり前ですが、色々な人が色々な本を読んでいました笑。書評の内容もさることながら、私とは異なる観点でのラインナップなどが非常に参考になりました。ありがとうございます。私の読書方針は引き続き、世界の辺境で自分と自分の家族が生き残るための読書、です。原則備忘のためではありますので、たまに生意気なことを書くかもしれませんが、出来るだけ書くことそのものについても精進して参るつもりです。何卒ご容赦頂ければと思います。

 

 改めてですが、一年間お世話になりました。

 それでは皆様、良いお正月をお過ごしください。

MoMAが織りなす人間模様。芸術好き・ウンチク好きにはたまらない!―『モダン』著:原田マハ


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 芸術とは何ぞや?

 

 大学院生の時にハイデガーの「芸術作品の起源 Der Ursprunk des Kunstwerks」を原書で読まされました。当時からアホでしたので、作者の意味することも理解できませんでした。まして芸術とは何かについても、答えは得られておりませんでした。

 

 それでもアートとか結構好きで(今思えば、アート好き風な自分が好きなだけのナルシズムですが)、関東に居れば上野へ足を伸ばし、関西に居れば京都市美術館や姫路美術館にまで美術館に出かけて絵を眺めていました。

 

 芸術の意味がわからなくても「惹かれる」ものはありました。なんだろ、これ気になるなあ、という感覚。私にとってはそれはアンリ・ルソーでした。

 

ルソー絵画集(高画質版)

ルソー絵画集(高画質版)

 

 

  彼のマンガチックなフラットな画風はどうにも私をひきつけました。あれをパリのオランジェリー美術館で見たときは、そう、ちょっと震えました笑。

 

 美しいとか好きとか、上手に言語化できない感性的な話というのは芸術にはつきものかもしれません。

 

うんちく好きにはたまらない!

 はい、前置きが長くなりました。

 こういうウンチクっぽい話は、語っている方は気持ちいいけど、聞いている方・見ている方は辟易するものですよね。ごめんなさい笑。

 

 でも、本作「モダン」は、そんなウンチクごごろをビンビン刺激してくる、わくわくする作品です!なんといっても舞台は、芸術の最前線たる現代芸術、そのメッカであるニューヨーク近代美術館(以下MoMA)です。MoMA、カッコいいですよね。行ってみたいなあ。

 

 しかし、作品で主題として描かれるのは、MoMAに収蔵される芸術作品ではありません。 むしろ、芸術にかかわる裏方スタッフ。彼らをフィルターにして、人間ドラマや人間模様、そして人々の考えが描かれます。

 

作品あらすじ

 MoMAスタッフである日系米国人の杏子と、福島の美術館。MoMAより貸し出されたワイエスの「クリスティーナの世界」とその返却を通じての不思議な交流を描く「中断された展覧会の記録」。

 警備員スコットが、名作「アヴィニヨンの娘」の前に佇む幽霊に出会う「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」。

 ベアリングなどの工業製品がアートと認知され、アップルに代表されるIndustrial Designをも巻き込み、現代芸術へと合流していくさまをMoMAを通して描く「私の好きなマシン」。

 911で同僚を亡くしたローラが、亡くなった友人と共に企画を準備したピカソマティスのグローバルな展覧会の準備風景とその心象を描く「新しい出口」。

 MoMAへ派遣された日本の私立美術館の学芸員。お客様兼見習いスタッフ的な居心地の悪いポジションでのふとした日常と同僚のコミットメントを表現した「あえてよかった」

 

 どれも芸術好きにはたまらないと思います。自分の知っている絵、好きな画家を通じて物語が展開してゆきます。巨匠の芸術作品から、人と人との物語が紡ぎだされる様子が実に素晴らしいのです。さらに、節々に埋め込まれる芸術礼賛的な科白!例えばこんなの。

「ここにあるものはね、ジュリア。僕たちが知らないところで、僕たちの生活の役に立っているものなんだ。それでいて、美しい。それって、すごいことだとおもわないかい?」

「すごい」とジュリアは、素直に答えた。アルフレッドは、少女を見つめて、言った。
「僕は、そういうものを『アート』と呼んでいるよ」
見えないところで、役に立っていて、美しい。(位置NO.1129)

  

 くーっ! 「アート」ってそういう事なんですね。私も「アート」な存在になりたい(苦笑)! 芸術って、やっぱり素敵です。

 

おわりに

 私にとっては原田氏の作品は読んだことがありませんでした。書評ブログで取り上げられているのを見て気になっていたところ、AmazonKindle版が半額であるということで、今回飛びつきました。

 私が好きな芸術がモチーフになっている点、芸術作品の背景や端緒が絶妙に織り込まれている点、芸術を肯定する人たちが醸し出すハイソ感、芸術作品にかかわる人たちの気持ちを豊かに描いている点、こうしたところがとても面白かったと思います。芸術好き、ウンチク好きにはたまらない一冊かと思います。

 

 

評価 ☆☆☆☆

2020/12/25

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