海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

バンコクの歴史と下町の記憶 |『読むバンコク』下川裕治

皆さんこんにちは。

バンコクに来ました。LCCを利用したらヘトヘトになりました。子どもは泣き叫び、隣の夫婦は咳と鼻水と痰。咳する人、多くないか?・・・そう、人間力を鍛えるにはもってこいです。

そしてドンムアン空港から何とかアソーク近くのホテルに投宿すると、「すんまへん、宿いっぱいでして」みたいな話で。なぬ!?予約してたじゃん? まあ一日だけ他のホテルを用意してもらい、翌日から予約したホテルとのこと。そんなこんなで疲れました。

ちなみに代替ホテルが予約したところよりめちゃくちゃゴージャス、ということはなく、まあ分相応でした笑 ただ、予約していなかった朝食ビュッフェだけは代替ホテルでいただけるという事でちょっと得した!?のかもしれません笑

 

ひとこと

バンコクにコミットしている(していた)方向けかなあ。

旅行者には。。。。ちょっと厳しいかな。

 

旅行用に読んでみたのですが・・・

12月にバンコクに旅行に行くことなり、そのために事前学習を幾つかの本でしておりました。東南アジアの歴史の本や、タイの蘊蓄の本なども読んでみて、もうちょっとバンコク、できれば歩き回る近所で面白いものがないかなあ、と本作をピックアップしました。

 

バンコクの歴史とソイ、その後電車ぶらり旅的な

1章から3章はかつてのバンコクの古刹というか、由緒ある場所がもともとどうだったこうだったという話。このソイは昔は云云かんぬん、と。

 

そして四章はバンコクの鉄道網、とりわけBTSやMRTの駅周辺、駅名の由来、昔どうだったか、またローカルタイ人の駅に対する印象、さらには幾人か筆者がいるようですが、その執筆者の駅に対する個人的な思い出が書かれておりました。

場所のイメージはあまり湧きませんが、近所の屋台のおじさんとの阿吽の呼吸の形成、緩めなセキュリティと人との繋がり等、四章はとりわけストーリーとしては面白かったです。

 

旅行者には厳しいか

ただ、外部の人間、とりわけ旅行者にはやっぱり厳しいかと思います。特に行く前の人。何しろ場所名くらいしか分からない。

とすると、今住んでいる方が、ひもといてみてみて、「へぇーそうなんだ、行ってみようかな」という使い方か、旅行者がいった後に「なんと!こんなところだったのかー、行かなかった!悔しい!次回は必ず」みたいな使い方の方がまだ現実的かもしれません。

 

おわりに

ということで下川氏のバンコク蘊蓄記でした。

より堪能するにはバンコク滞在経験者、現在住者にはよろしいと思います。これから行く方は今読んでも良く分からないかなあと思います。ほら、予習より復習の方が大事っていいますしね。

 

評価 ☆☆☆

2023/12/09

バンコクを中心にタイの蘊蓄を知る |『タイ 謎解き散歩』柿崎一郎

みなさんこんにちは。

この前当地の眼科病院に行ってきました。若いころに網膜剥離をやっているので毎年検診がてら見てもらっています。まあちょっとヤバいかもなのですが。。。

 

それにしても英語で医療用語を喋るのは難しいですよね。網膜剥離retina detachmentって言いますが、バカの一つおぼえみたいに繰り返していたら使えるようになりました。

 

で、そろそろ必要なのが、老眼ですよ。これが英語で使いたい。どうやらpresbyopiaというらしいですね。今までは”my eyes are aging so that…”とか随分回りくどい言い方していました。改めます笑

 

 

実は今度タイに旅行に行くので、ぼんやりとしか知らないタイですが、もう少し深く知っておこうと思い手に取った一冊。

 

著者と構成

現在(2023年)NNAという東南アジア専門のメディアで各地の鉄道について筆を振るっていらっしゃる柿崎先生の著作。NNAでしか存じ上げなかったのですが、もともとタイの専門であったかたなのですね。

 

作りとしましては五部構成。バンコク旧市街、バンコク新市街、北部、東北部、南部の五つ。

それぞれの蘊蓄について語ります。

 

交通を絡めた記事が多いかな

一つ特徴を言えばやはり交通の専門家ですので、それに類する蘊蓄が多いでしょうか。

例えばバンコク旧市街ですが、通り名の解説とかありました。あの有名なカオサンロードってのは米問屋だったとか、そういうやつ。

 

また、どの章のどのトピックもそうですが、必ずバンコクから何分って最後に書いてあるんです。電車で何分、バスで何分、それ以外に飛行機で何分とか。こういう細かい配慮は、次の旅行につながるかもしれません。

 

次の行き先につながる?

トピック自体はそうですね、そこまであまり興味を引きませんでした笑(ごめんなさい)。

 

水かけ祭りは行ってみたいですが、宿泊料がバカ高くなるという話を噂で聞きました。行けないじゃん。あと、ロケット祭りってのはちょっと面白そうでしたね。雨降らしの儀式に由来するっていうのも趣があります。泰緬鉄道は興味がありますが結構遠いですね。これはオプショナルツアーで行くか、自力で行くか。何しろ嫁の興味が湧かなそうだし。。。あ、でも東北部のアンコール朝の遺跡はちょっと面白そう。ずーとアンコールワットまで道がつづいていた(過去形!)んですって。そうした遺跡群につきカンボジアと取り合い・紛争になったそうですが。。。

 

ってまあ、トピック的には若者受けはあまりしないかもしれません。

飽くまで過去の歴史に基づいた古今の意味意義の変遷が中心なので、ピンクガネーシャがどうたら、とか、パンガン島のパーリーナイトとかの話は出てきませんのであしからず。

 

おわりに

ということで、柿崎氏によるタイ案内でした。

私は旅行の準備がてら、右手にKindle、左手にスマホ(GoogleMap)を操作して、本の通りや寺が自分のホテルからどんだけ離れているのかを忙しく動かしながら読みました。結果、どこも遠くてすべて今回の計画からは外れた次第です。。。

 

でもタイにお住まいの方や駐在されるかたが、街歩きなどに確認がてら使われると結構よいのではないでしょうか。そうして知識をつけるとしたらなかなか良い本ではないかと思いました。

 

旅行本以上、歴史本以下、というライトさでありました。

 

評価 ☆☆☆

2023/12/02

中級者以上向け。歴史の流れとともに隣国同士の関係も詳述。 |『東南アジア史10講』古田元夫

先日、標準月一回のZoomミーティングを子どもたちとしました。

その中で兄(長男)から出た不満。妹(長女)が家事をしないとのことでした。

彼ら、祖父母と同居しており、二階部分を子どもたちが使っています。うち、二階のトイレの掃除、そして洗濯は子どもたちにやらせています。洗濯と物干しは兄、乾いた洗濯ものの取り込みと畳むの、そしてトイレ掃除は妹、という風に決めました。

兄は生活中心ですが、妹は家事の優先順位が低い。結果、兄ばかりが家事をし、妹は家事をすっぽかす。

兄は受験勉強があっても自分の家事タスクをこなして勉強をしていたのに、妹は附属校にいるくせに『洗濯物を畳みもせず、トイレを汚すのは大抵妹(毎朝う〇こして、しかもこびりつくやつを出す)。言ったら大学入学にリスクなんてないんだから期末試験に力を入れるなんておかしい』とおかんむり。受験勉強が終わったいま、結局いつも俺ばかりじゃないかと激怒。

 

兄は家内に似て、妹は私に似ました。親が傍にいれば家事は親の仕事ですが、離れて住まう場合、ある程度子供がやらざるをえません。妹にどう家事をやらせ、兄をどうなだめるか、思案しております。。。

 

ひとこと

面白いけど、ちょっと難しい。中上級者向けでしょうか。

 

つくり

新書というと、入門編・ビギナー向けのきらいがあるかと思います。とはいえ、例外だって往々にしてあります。

そして本作はその例外にあたるかと思います。

古代から現代に至るまで、歴史の縦糸を10の講(章)で区分します。そして同時代の東南アジア諸国の出来事や歴史を横糸でつなぎます。

 

はじめに

ということで、まずもって中上級者向け、と書いたのですが、その理由は、非常に情報が細かいからです。

ですので、よほど東南アジア史に興味のある方、あるいは基礎的な流れが頭に入っている方は楽しいのだと思います。事前にあるベースで、本書のトリビア的な蘊蓄を知ることができて。しかし、東南アジア史初心者にとっては、古代・中世のカタカナ王朝の袋小路に迷い込み、何だか良く分からん=東南アジア史詰まらん、となりかねません。

私も先日読んだばかりですが、超初心者は池上彰氏による『池上彰の世界の見方 東南アジア』で、東南アジアがフィットするかどうか確認いただくのが良いかと思います。

 

面白いところ

で、ある程度世界史も分かる方にとっては、以下のようなトリビア的な知識は、さらにあなたの東南アジアライフ(なんだそりゃ)を豊かにしてくれるかもしれません。

 

・18世紀、交易の中心は稀少性を武器にした商品(スパイスとか)から、中国や欧州での大量消費作物(米・コーヒー・紅茶)へと変化してゆく。『海の時代』から『陸の時代』へ(第四講)。

 

・そのようなオランダ東インド会社の『陸上がり』により、スパイス栽培からコーヒー栽培へとインドネシアの重点作物が変化。ジャワコーヒー(第四講)。

 

・マレーシアの現在のペルリス、ケダ、クランタン、トレンガヌの諸州は1909年まではタイ(旧シャム)であった(第五講)。

 

・タイのビーチリゾートのパタヤは、ベトナム戦争の前線ウータパオに近いことから開発された(第五講)。

 

そのほかにも、インドネシアの暴れ者っぷりや、ASEANのまとまりのなさの歴史等々についても良く書かれており、へー、の連続でした。

 

おわりに

ということで、新書ながらまったく侮れない東南アジア史の書籍でした。

個人的にはある程度東南アジア史をご存じのかたにお勧めします。そのような方は、色彩豊かな東南アジアが本書で味わえると思います。

世にEUというクリスチャン世界の統一性と比較すると、東南アジアは多様だ、なんていたりします。そんな多様性という単語では表現できない色彩豊かな東南アジアが本作にはあります。是非お楽しみください。

 

評価 ☆☆☆

2023/11/26

旧約聖書に歴史的考証を加えた良書 |『聖書時代史 旧約篇』山我哲雄

ガザ地域のハマスイスラエルの衝突・内戦、誠に痛ましい限りです。

私の今年のテーマの一つはキリスト教の勉強でしたが(過去形!?)、その先には、いつかイスラエル近辺を聖書を片手に歩いてみたいという仄かな夢がありました。そんな矢先の紛争ぼっ発でありました。

 

本件、目先の「どっちが先に手を出した?」という問いは無意味で、第二次大戦時の英国の密約やその後のイスラエルの独立、さらに遡り旧約聖書やそれらを巡る解釈にまで事は及ぶと言っても過言ではないかと思います。結局歴史を遡らないと包括的な理解に至らないのかな、と考えています。

 

で、本書です。

本書は、旧約聖書の内容について、歴史的な解釈や聖典外資料からの裏付けを通じて、より深く理解しよう、というものであります。時事的な問題が記憶に新しい昨今、民族の起源やその仮説などは心に沁みるものがあります。

 

 

概要

欧米の一部では聖書の内容は一字一句事実であり、それを信じるべきというキリスト教宗派があると聞いたことがあります。

もちろん、一般的な現代社会に生きる、普通の方々はそうでは無いかと思います。

 

とは言え、疑問は残ります。なぜそのように聖書は書かれたのか。なぜそのような荒唐無稽な描写がされたのか。あるいは荒唐無稽さは2000年前だったら「普通」に見えたのか否か。

そうした聖書(旧約)の内容に配慮しつつ、パレスチナイスラエル近辺の地域の歴史を、古代から共和制ローマ末期程度のジャスト紀元0年(なんていうんだ?)近辺まで辿るものです。

 

出エジプトにまつわるエトセトラ

例えば。

出エジプト記旧約聖書の中でも有名なもののひとつでしょう。

本作では民族の出自としてモーセの存在の真偽については不問に付しています(いたかもしれんし、いなかったかもしれん)が、イスラエルという民族はこのモーセからの万世一系かのごとく続いてたことは否定(つまり普通に混血)。さらに出エジプトというイベント自体も疑わしい旨を述べています。

むしろこうした「奇跡」は民族の政治的結束のための共通の物語であると解釈しています(主に第三章)。

 

エジプトや「海の民」からの攻撃により、追い詰められた民族。その民族結束のために作られたストーリである可能性は高い。そんな背景を説明してもらうと、「確かに」ってなりますね。

 

王制、バビロン捕囚など

もう一つ。唯一神を崇めるのに、(リーダーとかではなくて)王様を担ぐって、変ですよね。旧約聖書でも、つと疑問に思うところです。だからこそ、痛い目(神の罰)にあうってのはありますが。

これを歴史的にみると・・・。

一神教的文化背景と王制はなじまないため、国内からの反発があったものの、外的要因(外国から攻められる等)により王制が導入されたようです。強力なリーダーが不在なため、戦争で連戦連敗と。その点で致し方なく的な様子であった模様。このあたりはサムエル記の内容と同時代の話です。

 

それでも結局、アッシリア(紀元前8世紀ごろ)にはメタメタにされ、混血を余儀なくされたそう。

しかし、それ以降も割と連戦連敗だったよう。でも、エジプトの支配にせよ、バビロン捕囚(紀元前6世紀ごろ)にせよ、宗教的自由は比較的考慮して貰えた模様。捕囚で連れてこられたバビロンでは、当然神殿などもないので、みんなで集まって教えを勉強するなど、ある意味宗教的含蓄が高まったそうな。

またバビロンで商業等で財をなしたユダヤ人は一部、ネブカドネザル2世亡き後もバビロンにとどまるものも多かったそう。

・・・なんて内容を読むと、あたかも奴隷として連れてこられ悲惨な目にあったなんていう都市伝説的マンデラ・エフェクトをよくもまあ受け入れていたなあと感じます。

 

ヘレニズム以降

その後はヘレニズムからローマまで、細かい記述が多いので割愛。

ただ、頻出する「古代誌」というユダヤの歴史書。これは旧約を学ぶ人にとっては重要なものなのでしょう。しょっちゅう引用・比較されています。

 

おわりに

ということで、宗教書を歴史的に読むという、非常に知的に刺激的なエクササイズでありました。

 

こういうやり方は不敬なのではとも思えたのですが、意外に一般的な様子でもありました。ドイツでこの手の研究が盛んな模様。

 

旧約を読んだらもう一度戻って来たい作品です。

 

 

評価 ☆☆☆

2023/11/19

東南アジア現代史をちょいかじり。興味の火付け役になれるか |『池上彰の世界の見方 東南アジア』池上彰

うちの上の子は高校3年なのですが、不精癖が抜けないのか、高校、大学と、所謂「帰国」試験でパスしてしました。

さなかで、某大学の志望動機では「東南アジアでの生活の経験を生かして」云々書いていました。が、その実、基本やりたいことも分からないし、モラトリアムの先延ばしを狙っている節も強く、その大学はサクっと落とされましたが。

で、おそらくそのネタ本の一つがこれ。もう手を付けることなどないだろう思われますが、父親の私が改めて味見・事後検証してみる次第であります。

 

ひとこと

振りとつかみ、説明の分かりやすさは絶品。

もとキャスターという履歴もあり、かつての要人との対談の逸話も多くあり、また語り・つかみが上手なので、そうしたところから東南アジアに興味を持ちやすい本だなあと感じました。

ほんの初歩の初歩としては良いかもしれませんが、ただ深さとしては飽くまで高校生レベル。

 

アセアン諸国をうまーく概観

さて、本書ですが、かの池上さんが、高校生に東南アジア、わけてもいわゆるアセアン諸国について語るというもの。

日本の立ち位置で一章、アセアンという組織の由来とベトナムで一章、シンガポール・マレーシアで一章、インドネシアで一章、タイとフィリピンで一章、カンボジアミャンマーで一章、という構成。

 

「明るい北朝鮮

幾つか面白いなと思ったのは、シンガポールの「明るい北朝鮮」という形容と2018年の米・北朝鮮の首脳会談。

シンガポールをして「明るい北朝鮮」というのは、東南アジア界隈にいればまあ良く聞く話。今や国民一人当たりGDPで日本の遥か上をいくシンガポールは、他方で報道の自由度等が極めて低く、政党政治にも自由がないことを揶揄する言葉です。

そのシンガポールが米・北朝鮮の首脳会談の開催地になった理由は、トランプ大統領率いる米国から独裁北朝鮮への「シンガポールみたいなこういう統治方法もあるんだよ」というメッセージであったとかなかったとか。あるかもしれませんねー。

 

ミャンマーカンボジアも面白い

あと、最後の章だけが国名ではなく個人名なのです。「ポル・ポトとアウンサン・スーチー」。より彼らの人となりと国の状況にフォーカスしているのが印象的でした。

例えばノーベル平和賞を取ったスーチー氏ですが、ロヒンギャ問題には手つかず。政治的には隠然たる勢力を持つとか持たないとか。目下軟禁されていますが、クーデター前の軟禁状態時もかなり落ち着いた(恵まれた)環境にいたとあります。事の真偽はわかりませんが、一方的に虐げられていた印象が強かったのですが、そうでもないかもしれません。

ポル・ポトについては個人的には既知でしたが、共産主義の行き過ぎと抑止できなかった政治体制については高校生として学んで悪くない箇所ですね。分かりやすい説明でした。

 

おわりに

ということで池上氏による東南アジア入門でした。

ニュースの報道というのは本当に表面の事実だけしか伝えず、その背景は個々人は全く分かっていなかったりすることは多々あります。その背景を知るには歴史でしょうが、そうした歴史を知るきっかけ、「なぜこの国はこうなの」という疑問を持つきっかけとしては、本書は絶好のフックになり得ると思いました。

中高生のみならず学びたい大人にもお勧めです。

 

評価 ☆☆☆

2023/11/19

アイデンティティを失う大国。他方で感じる大国のダイナミズム |『分断されるアメリカ』サミュエル・ハンチントン 訳:鈴木主税

いやあ、甲子園、終わりましたねえー。

息子の部活引退をきっかけにドはまりした高校野球でしたが、非常に面白かったですね。汗、涙、信頼、結束。

なんだろ、一匹狼の私ですら刷り込まれている価値観に、涙目になりっぱなしでした。

 

普段出ないようなミスが大一番で出たり、動揺したり。でも高校生ですからね。ミスがでるという子供らしさがまた、一層選手たちを応援したい気持ちにさせます。はい、もう完全親目線です。

バーチャル高校野球には大感謝でありました。

 

ひとこと

少し時間がかかりましたが何とか読み終わりました。いやあ、面白かったです。

ひとことで言えば、アイデンティティ措定に苦しむ米国、とでも言いましょうか。米国有数の政治学者による作品。

 

 

アメリカ人というアイデンティティとその変遷の歴史

自分は一体なにものか、という問い。

若者ならずとも問うのではないでしょうか。

そうしたアイデンティティ、これが俺だ私だ、という「何か」。人はそれを名前に求めたり、国籍に求めたり、肌の色だったり、所属する会社だったり、職業だったり、色々なわけです。

 

類似の事が国にも当てはまりましょう。アメリカ人ってなに?アメリカ人らしいってどういうことか? アメリカという国の、そのエッセンスは一体何か、を問う意欲作です。

 

・・・

誤解を恐れずにまとめます。

アメリカとは、

 

a)国教会を除くプロテスタントキリスト教をベースに持った、b)自由や平等等を理念にもった、c)揺れながらもアイデンティティを流転させてゆく国

 

ということを先生おっしゃってる気がします。

 

a)の部分は本作前半程度までの大部をしめます。移民の国・人種のるつぼ等の言い方もあります。南北戦争など、カルチャーの違いもある。またユダヤ系、スラブ系キリスト教徒などサブ・アイデンティティに留まるグループもいる。結局、「米国」という一つのブレンド・まじりあいがなされない、所謂「サラダボウル」の議論。ただし、それでもやはりウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義』にあるような、宗教と勤勉=成功のフォーミュラが通底しているというものです。その理由付けは・・・すみません、忘れました。プロテスタントの人口割合だったかな。

 

b)は、911を経たアメリカが、共産主義のように理念で国家をまとめられるか、という議論がありました。対立軸に対する『正義の味方』という役割は、一種のアイデンティティであった。こうしたものはグローバリゼーション以降、そして911以降の対立軸を失ったいま、アイデンティティになりえないのではないかという疑問。ハンチントン先生は理念=アイデンティティという考えに否定的だったように思います。
とはいえ、国家アイデンティティの構成要素としては、自由の国・理念の国というのは事実成り立っているように思いますし、自他ともにそれを利用しているようなイメージに見えます。

 

そしてc)なのですが、ここは米国で激増するヒスパニック系のこと(本作では8-10章)を言っております。移民であるものの、英語が喋れない、かつアイデンティティとしてヒスパニックであることを誇る。そうした人たちが自分の言葉を喋る権利を叫び、住民から政治家が選ばれ、結果としてスペイン語教育が可能になる(ちなみに選挙討論もスペイン語でやる地域もあるそう)。また一部の移民は引き続きメキシコの選挙権を保持し、米国籍でありながら米国・メキシコ両国で投票ができる。これはアイデンティティの問題のみならず、国家や経済のボーダーが徐々に不明瞭になりつつある様を表していると思います。

私の目には教授からのソリューションは発見できず、こうした事態を憂う様子を察知しました。

 

とは言え巻末はそこまで暗くもなく、宗教への回帰のトレンド等が語られて終わってしまいました。

 

おわりに

ということで、米国政治学者による米国アイデンティティ論、アイデンティティの歴史についての本でありました。

 

教授の作品、今回はお初でした。米国史をたどりつつ、結局アメリカとは何か、ということには断言・確言はせずに終わったと思います。でもアメリカ(人・国)というアイデンティティを色々な切り口で説明してくれる知的好奇心あふれる作品でした。

 

個人的には思いますよ。アメリカはいつも不安定というわけでもなく、むしろ変動のダイナミズムこそがこの国の強さか、と。時にその変動に人生そのものを翻弄されてしまうこともあろうかとは思いますが、そうした個々の犠牲を糧として国家全体でバラバラに成長する国、それがアメリカか、とかそんなことを考えながら読了しました。

 

本作、米国政治、米国史アイデンティティ、移民、ヒスパニック文化、中南米、こうした辺りに興味がある方にはお勧めできると思います。

これはまた時間をおいて再読したい作品です。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/08/23

ジャーナリズムとは?国益とは?命とは? |『運命の人』山崎豊子

居所に戻って参りました。

まずもって感じるのはその過ごしやすさ。

熱帯ですが、熱帯夜ではありません。昼でも気温は33度程度。夜だと体感20度代後半。断然過ごしやすい。

脳梗塞再発におびえるアラフィフには有難い環境であります。季節の移り変わりが無いのは少し寂しいのですがね。

 

 

ひとこと

長編を読み終わると、大きくため息がふぅー、っとでます。満足感と、読書が投げかける問いの重みとで。

 

本作『運命の人』はそうした大作に類するものかと思います。

 

概要

戦後の沖縄返還を巡っての外務省機密漏洩事件(通称西山事件)を題材にとったフィクション、とのことですが、実際には名前を数文字変えた、ほぼ実話と言って過言ではありません。ただ、主人公は新聞社記者の弓成ですので、記者寄りの視点での構成となります。

 

手を汚しても、真実は知らされるべきか

機密漏洩という題材の下、問われていると感じたことは主に二つ。

ジャーナリズムとは何か、

国益とは何か、

ということでしょうか。

 

ジャーナリズムという観点では、国民が知るべき事実を入手するためには法を犯しても良いのか、ということが問えると思います。

記者弓成は出入りの外務省内でこともあろうか勝手に極秘プリントを持ち出してコピーする。それどころか外務省審議官の部下と肉体関係を持ち、彼女にさらに極秘文書を持ち出させるということをしました。

彼の至らぬ戦略により、ニュースソースたる外務省審議官の部下がリーク元として特定され懲戒免職となり、ニュースソースを守れないという失態も犯しました。当然ながら両方の家族は好奇の目にさらされることになります。

 

倫理に悖る取材、違法性は指弾されるものかとは思いますが、他方で政府の行った米国との密約の内容(ザックリ言えば米国が沖縄県民に払うべき補償金を日本政府が肩代わりした)は、米軍基地問題で悩まされてきた近隣住民の気持ちを逆撫でするかの事実であり、世論に問われるべき話であったとも思います。

 

作中でもある通り、クリーンハンドの法則というのでしょうか、相手の不作法を指摘する本人は、もとより襟を正すべきだというのは、理論としては分かります。このような原則は尊ばれるべきものでしょう。でも、教師や警官・公務員もそうですが、皆人間ですからね、ミスや間違いもあります。私個人は、間違いやミスは責められるべきであっても、そうした職業の方の仕事は否定されるべきではないとは思います。ただし往々にしてメディアや週刊誌は0か100の評価で話題を煽るだけであることが多いのは残念な話であります。

 

外務省職員が守ろうとしたものとは?

もう一つは国益の話。

裁判では国益や条約締結を念頭に守秘義務を固持する外交官らの頭の固さ?をネガティブに描いていました。密約はなかった・知らないという立場ですが、これは米国で極秘文書が時効を迎えて公開され、日本人研究者によって発見され、眼前に据えられても、否定する姿勢。

職務を全うするという観点では立派なのかもしれませんが、(譬えが良くありませんが)証拠が出てきてもシラを切る不倫男のような印象がありました(書き方なのでしょうが)。また、ここまでして守られるべき利益・国益とは何だったのか、気になります。

作中では沖縄返還関わる費用については時の首相佐藤栄作の功名心(引退への手土産、花道)から、金銭面で日本側が折れ、早急にまとめたがっているというような印象を受けます。

筆者の山崎さんは、外務省職員について、頑迷さ・官僚然とした態度をアピールするかの如く書いていますが、外務省側の言い分も詳しいものがあれば読んでみたいと思いました。

 

周囲の悲哀の行く末は

そのほか、ドラマを感じるのは、浮気をされた挙句に完全にないがしろにされたままだった弓成の妻由里子とその子どもたち。また弓成と交わってしまったばっかりに仕事も家庭もダメにしてしまった三木。加えて、本土で政争の道具になった当の沖縄県の方々。基地問題はこれまでも、そして今でも事件を生んでいるわけです。

本作は記者弓長が主人公ではありますが、彼の周囲の方々がその後どうなったのか、下世話な話も含めて、ちょっと気になりました。

 

おわりに

ということで山崎豊子さんの長編力作でした。

国家機密、国益、安全保障、沖縄基地問題、アメラシアン、ジャーナリズム、現代史等々に興味がある方には是非読んでいただきたい作品です。

私は現代史という観点から、別作品を読んでみたいなあと思っております。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/07/28

 

 

ジャーナリズムが政治家の悪行を暴くということでは以下の作品がお勧め。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

資本主義のなかでのジャーナリズムの困難については以下の作品がお勧め。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 

貴重なお時間を頂きまして、有難うございました。

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