海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

話すこと・吐き出すこと・受け止めること。終末に救い。 |『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁

皆さん、こんにちは。

この前あっという間に二月が終わったとか言っていました。舌の根が乾く間もなく、日本へ帰国致しました。

これから両親の確定申告を代行します。溜息が出ますが、引退世代の年金額が凄まじい・・・。私は逆立ちしてもこんな額はむりぽ。私が両親から受けた恩恵を同じ形で(つまり金銭的に)子どもたちに与えてあげることはもはや不可能。

となれば切り口を変えて子どもたちを育てなければなりません。なんて言いつつ、子育ては終盤戦。高校生・大学生とここからお金が必要になるんですけどねえ。。。奥さん、働いてくれないかな??

 

はじめに

冲方氏の作品は実は初めて。

映画化されている模様で、ローティーンからヤングアダルト向け小説の印象でした。途中までやや単調な印象も、最後のツイストはなかなか良かった。そのツイスト含め、ティーンに向けたメッセージ色の濃ゆい作品か。

 

12人を個別化しづらい・・・

済みません。結構批判じみた物言いになりそうです・・・。

実は個人的にあまり読み口が良いとは感じませんでした。というのも、やはり12人をそれぞれ特定するのがなかなか簡単ではありませんでした。

 

解説によると12という数字が過去の映画作品へのオマージュになっているようではありますが、文章でありありと12人個々の性格を理解するのは私には少し難しかったです。結構イけた(理解した)と思いますが、最後2人くらい、印象が今一つ(混合して)でありました。

 

その点では、映画化してヴィジュアルで印象付けを行うという戦略は、よりよく作品を理解してもらう上では良かったのではと思います。

 

おじさんが読んだらダメだった。若者よ、どう?

そしてもう一つ。リアリティが個人的に感じられず、ちょっと没入しづらい感じでした(自殺話にリアリティがあったらそれこそ怖い、というのもありますが)。

12人の自殺したい子たちがローティーン(一番若い子が14歳)というのは、可能性としてはあるかもしれませんね。ただし、彼らが廃病院に一堂に会し、これから自殺するべく準備し、そのさなかで起きる議論、というのはこれまた現実感が少し感じられなかったです。

 

私のようなくたびれたおじさんが、仮にも消えたいとき。それは「もうやだなあ、疲れたなあ」と思い、自分で苦境を改善する余地がないとき、そのような状況が永遠に続く(かのように思える)とき、とか、そういうときです。

若者ならば、その時辛いのは分かるのですが、「あと数年たち、親元を離れれば、自由に生きられる」と思ってしまうのです(不治の病の場合は除きますよ)。だって、ほら、君たち、議論する気マンマンじゃないですか。そのエネルギーがあれば、世界は変わるかも、とかおじさんは少し感じます。。

 

もちろん、中学生・高校生の時は、ちょっとしたことで傷つき、恥ずかしさのあまり死んで消えたくなることもあるとは思います。そうしたことも十分斟酌しなくてはいけません。その点ではおっさんがとやかく言う話ではなく、ターゲットと思われる中高生あたりの若者が読むべき本なのだと思います。

 

結末に救い

ただ、最後の終わり方は、(多少陳腐?な風合いもありつつも)良かったと思います。

細々と内容は述べませんが、そこに私はコニュニケーションの偉大さを見ました。個人の考えは意外に偏狭で、喋ってみると実は(他人からして)全く問題でないことも多いですね。言った本人も他人に話してみたら「あれ?ほんとだわ。全然大したことないね」と当の本人がすっきりしてしまうこともあるわけです。

そのような解決法を提示するかのような結末・コニュニケーションの力を、大人も子どもも再認識してもらえると、将来はちょっと明るくなるかもしれません。

 

おわりに

ということで初めての冲方作品でした。

結末のツイストが良かったので、本嫌いな新大学生の息子にまずは押し付けて反応を見てみたいと思います。その後高校生の娘にも押し付けてみたく。ああ、でもちょっと厚めなんですよね。本嫌いには微妙な厚さ。やっぱ映画を先に見せた方がいいかな??

 

評価 ☆☆☆

2024/03/03

ノワール系エンタメ小説。最後のツイストにガクブル |『去年の冬、きみと別れ』中村文則

皆さん、こんにちは。

あっという間に2月が終わってしまいましたね。早いもので2/12が消化されてしまいました。

仕事でもプライベートでも「これやりたい」の年間計画を立てたものの、早速遅延気味です。

 

PDCA的にはCAをいかに上手にやるかが個人的な課題です。Cでの振り返りが弱いのです。

そもそものPがおかしかったのか、予期しないタスクに予定が押してしまったのか、等を振り返るのが結構苦手。原因をよくよく考えることが課題です。

いつもそのあたりを勢いにかまけて「来月は頑張ろう」と根性論で見ないふりをするんです。そう、自分の駄目な部分は見たくないんですよ・・・とほほ。

 

 

中村さんの作品はこれで三作目。

ノワールな印象の方なのですが、今回もかなりダークな作品でした。

 

籠絡されてゆくライター

連続殺人犯のルポを書くことになったライターと拘置所で死を待つ殺人犯。彼らの関係を断続的なスナップショットで綴るかのような描写。

 

その中で、奇妙(奇怪)な殺人者の姉がライターにとってターニングポイントになります。殺人犯の狂気と共に、その姉の狂気にもあてられ、ライターはこの姉の性に籠絡されてゆきます。

 

予想だにしないツイスト

さて、私は次第に流れが良く分からなくなってきました。誰の視点でこの物語は書かれているのか?

実はこの視点の変化こそがこの作品のキーとなります。そして徐々に明らかになる、本作品の全体の構造。このあたりはじわじわ来ます。久方ぶりに感じた読書によるゾクゾクでありました。

 

何を書いているんだって? いやあ、ぜひとも読んでみて味わってください!

 

おわりに

ということで中村作品を読了いたしました。

一見、狂人の独白かのような作風でありましたが、そんなところに留まらない大いなる?狂人が意図したスキームがありました。その構造が見えたとき、「なるほど」となる作品です。

 

ダークな作品が好きな方、ミステリ好きな方には楽しんで頂ける作品だと思います。おすすめ。

 

評価 ☆☆☆☆

2024/03/01

ユーモアと不穏さの通底する音楽短編 |『夜想曲集』カズオ・イシグロ、訳:土屋政雄

皆さん、こんにちは。

 

高3ボーイズが日本へ帰っていきました。うちのムスコはもう少しこちらにいる予定です。

そして程なく私もまた日本へ一時帰国。ムスコ君の高校卒業式、大学入学式、そして脳のパイパス手術とイベントが続きます。

 

仕事や生活にリズムがうまく刻めず、自己啓発系の読書は進まず。ということで小説で自らを慰撫。本日はカズオ先生に慰めてもらいました笑

 

音楽にまつわる短編集

カズオ・イシグロの作品を読むのはこれで三作目。

これまで読んだ二作の長編(「私を離さないで」と「遠い山なみの光」)と異なり、今回は短編集でした。これまた全く作風が異なり、エンタメ寄りの味わいのある作品集でした。器用な方なのですね。

 

不穏さとユーモアの両立

そんな短編集の中で私が一番気に入ったのは「降っても晴れても」ですかね。

英語教師としてフラフラしつつ?今はスペインで教えている主人公(50ちょいのおっさん)が、大学時代の仲間の元へ遊びに行く話。この二人(夫婦)とも世間でしかるべく出世を果たした模様。ただし来てみると人柄も何となく変わり、どうにも不穏な空気。諸々聞くと、主人公氏は二人のこじれた仲を取り持つべく呼ばれた模様。彼は孤軍奮闘するさなかで、物事がうまく運ばないという不穏さを引きずりつつ、徐々にユーモラスなテイストが混じりつつ進行してゆく模様は技ありでありました。

 

それ以外も乙な感じ

なお、それ以外の短編もなかなか良かったです。

因みに解説によると、夫婦仲というテーマが一つ。もう一つは音楽とのこと。特に前者では明言されない不穏な夫婦仲を描く様子がどれにも挿入されており良かったですね。お尻がむずむずしてくる感じ。

一応以下、簡単に。

 

「老歌手」・・・一発飛ばした歌手が、再ヒットを目指し愛する妻と別れるために用意した儀式とは。行き過ぎた資本主義ショービズ界と純朴な共産圏出身の若者とのギャップがスパイスに。

 

「モールバンヒルズ」・・・アーティストを目指す若者が田舎でカフェを営む姉夫婦の居所で過ごす日々。そこで出会うプロの演奏家夫婦とのふれあいを描く。

 

夜想曲」・・・これも良かった。才能は十分、ルックスだけ欠けた男。妻に出ていかれ、その代わりに整形費用を出すという元妻。とうとう離婚も整形手術も承諾した男は、術後に一流ホテルで日々を過ごす。隣室にはご意見番的芸能人が手術後の安静のため過ごしており、彼女の勢いに次第に翻弄されてゆく。ドタバタ系。

 

チェリスト」・・・決してチェロを弾かない「大家」が指導する、才能ある若手チェリストの話。若手チェリストの、師匠を見る目と揺れる心の具合。これもまたなかなか良かった。

 

おわりに

ということで、イシグロ作品、三作目を読了しました。

三作品読んで感じたのは、氏の「不穏」の表現の秀逸さです。Uneasinessとでも言いましょうか。嫁が普通のふりして怒っている時に似ています(似ていません)。

明示的ではなく、説明的でもなく、人物はしっかり描かれているのに、何だか尻が落ち着かんのです。

 

こういう「味の効かせ方」もあるのか、と感心した読書体験でした。他の作品も続けて読んでみたくなりました。

 

評価 ☆☆☆

2024/02/28

新たな作風の模索!? 伊坂作品に珍しい短編集 |『ジャイロスコープ』伊坂幸太郎

皆さん、こんにちは。

息子を含めた高校三年生4人組。せっかく東南アジアの端っこまで来てくれたのだからと、やれ世界遺産の街へだとか、やれこれがおいしいから食ってみろとかで、有給をとってあっちこっちへ連れまわしています。

 

4人もいると性格も行動もそれぞれ違っていて、なかなか見ていて面白いですね。

かばんのパッキングから、服装へのこだわり、大人や友人にもストレートに意見する子。逆に、服装とか髪型とか、あんまりこだわりもなく、へらへらしつつ「僕そういうタイプなんです」と分かっているのか分かっていないのか、のらりくらりな子。周囲の空気を適切によみ、適度な突込みできつめな子も緩めな子も一丸にしてしまうまとめ役の子。皆それぞれ。

 

それでも集まれば、夜は遅くまでギャハハと馬鹿笑いをして夜更かししています。いいねえ、若いって。

どんな大人になるのかねえと、寝室にこもった私と家内は、彼らに期待しつつ眠りにつくのでした。

 

そんなさなかに読んだのが本作であります。伊坂作品は一か月ぶりです。着々とコンプリートに近づきつつあります。

 

はじめに

伊坂氏の作品が好きで、この一年、過去作から振り返るかのように、既読未読ともにいちから読んできました。

本作は短編集ですが、伊坂色がありつつもこれまでと趣を異にする作品でありました。

 

異色のディストピア短編

その中でもSF色が強くこれまでと趣向が異なるのが「ギア」であったと思います。近未来のディストピア的世界では「セミンゴ」に地表という地表が食い荒らされているのです。バスに乗り込んだ数名の老若男女と運転手との会話から徐々に様子が浮かび上がるものです。

 

安定の伊坂風エンタメも

それ以外で私のお気に入りは、「一人では無理がある」と「彗星さんたち」。

 

一人では無理がある」は、言わば「本当の」サンタクロースを営むNGOの話。それぞれの家庭の事情からプレゼントなど望むべくもない子供にプレゼントを届ける団体の話。ここの人事がこれまた適材適所としか言えない個性的な人物をリクルーティングし、多少のトラブルがあっても、適切なプレゼントが子どもたちに配られるというもの。思いこの団体側の内情・視点から物語が描かれます。

 

彗星さんたち」は、新幹線の清掃係の方々の話。これまた当該業務に就く方々が個性的で、かつ遭遇するお客様が非常にユニーク。やや業界よりな所が気にかかるものの、倒れて意識の戻らないリーダー「鶴田さん」を思うそれぞれの視点がやがて新幹線で出会うお客様の様子と重なる様は秀逸。

 

そのほか、「浜田青年ホントスカ」「二月下旬から三月上旬」「if」「後ろの声がうるさい」を収録。どれも伊坂色が大なり小なり混じっているものの、どこか新たなエッセンスが感じられました。

 

おわりに

ということで伊坂氏の短編集でした。

あとがきとして対談が掲載されていました。15年を振り返ってと銘打って、デビューから15年間の作品を振り返るものです。そこに、作風の変化への意欲等も書かれていました。

まあ確かに、おんなじやり方を一定年限続けていると、少しやり方を変えてみようと思うものですよね。私も今の業務、10年続いてしまいました。そして少し飽きがあります笑。

 

当初はいつもの伊坂氏とちょっと違う、と少し違和感(不満?)がありました。とはいえ、ここから更に進化するのかもと思えば、この試みもまた将来の傑作への布石となるはず。今後の作品についてもまた期待しております。

 

評価 ☆☆☆

2024/02/24

読み口良すぎ。宝石をタイトルにした多様なストーリー。 |『サファイア』湊かなえ

皆さん、こんにちは。

 

高校卒業前の今、ムスコがこちらに友人3人を引き連れて帰ってきました。で、なんというか実に面子が多様。

うちの子が一応アジアハーフ。連れてきたのは、ドイツ在住15年の子(英語の方が得意)、カナダと日本のハーフ、そしてこの前初めてパスポートを作ったという子。これだけ異なるバックグラウンドの子たちが作りあげる学生生活というのはどういうものなのでしょうかね。

私なぞは純ジャパとして「いつか海外に行きたい」と思っていましたが、子どもたちは平気で海外を味わうような世代になっているのかもしれません。否、海外も普通で日本の生活を「異文化」として見ている可能性もあります。

ひっそりと日本も変わりつつあるかも、です。

 

はじめに

久しぶりに湊さんの作品を読みました(7カ月ぶり)。

これがまた、するすると読める、非常に読み口の良い短編集。楽しいのでサクっと一日で読了でありました。

この人もやっぱり、すごいストーリーテラーですよ。

全てすごい。面白さと読みやすさのベストミックス

イヤミスだ何だ言いますが、兎に角面白い。話の構成やツイスト、はたまた連作となっていたり、話の筋も豊富で、そのどれもがすごい。

その中でデフォルト設定となっているのが、「女性」でしょうか。湊さんの作品では母と子の関係を軸に話が展開することが多いのですが、本作は宝石の名前に模して、その名にふさわしい女性とストーリーが展開されるものです。

以下、タイトルと共に概要もお知らせします。

 

真珠・・・自称「昔は結構モテた」というおばさんの独白。それを聞く男性。次第に全貌が浮かび上がるおばさんの狂気。果たしてこのおばさんと聞き手の男性との関係とは。

ルビー・・・特殊な老人ホームに滞在する「おいちゃん」とその裏の畑で作物を育てる家族とのほっこりする物語。老人ホームの性格や「おいちゃん」の正体やいかに。都心から実家に戻った長女が気づくその実態とは。歴史テイストあふれる物語。

ダイヤモンド・・・とある初老の男性がプロポーズに送るダイヤモンド。当の男性、道端でうずくまる雀を助けたことから、「雀の恩返し」を受けることに。「恩返し」が暴く「ダイヤモンド」の醜さとは。幻想系。

猫目石・・・3人家族の家庭に迷い込む隣家の猫。これをきっかけに隣家の奥さんはこの家族への干渉を始める。3人家族は崩壊するのか? ツイストが効いたホラー系。

ムーンストーン・・・議員の夫を殺め留置される女性。彼女の回想をベース物語は展開。そして別の筋ではとあるいじめられっ子の話。二つの筋が交わる結末には一抹の希望が。

サファイア・・・引っ込み思案の女性が出会った初めての彼氏。ものを欲しがらないように自制していた彼女が初めて出会った彼氏に言った欲しいもの。そのために彼氏はこの世を去ることになる。悲恋系。

ガーネット・・・サファイアからの連作。彼氏亡き後、その真相を小説として発表した元彼女。その過程で見えてきた彼のアクションや心根、そして彼女の怨恨や悲しみのほぐれが描かれる。

 

おわりに

ということで、実にキレイに読める作品でした。

上からものを言うようであれですが、完成度の高い、美しい読み口のよい作品群であったと思います。言い方を変えれば「クセが足りない」と言えなくもありませんが。

でも、万人が楽しめる、そして多種多様な作品を収録している楽しい作品であったと思います。

 

 

 

 

評価 ☆☆☆☆

2024/02/20

お笑いなし!?大阪の夜の街を綴る純文学作品 |『地下の鳩』西加奈子

皆さん、こんにちは。

突然ですが、最近体調がよろしくありません。よく眠れないのです。

これまで食事、運動、睡眠、とコンディショニングにはそこそこ気を遣ってきました。月初に旅行から帰ってきてから、旧正月のあいさつ回りを経て、昼夜逆転・飲食過多が続き、日中はもうろうとした状況。

仕事は窓際だし、適当でいいのですが(マクロが私より正確に仕事してくれます)、プライベートの読書が進みません。読みたいノンフィクションが沢山あるのですが、体力とやる気がないと読めないのです泣

深夜の2時ごろに目が覚め、体はだるい、それでもケータイで時間つぶしはしたくない、何とか生産的に生きたい。でも小難しい本を手に取る気力がわかない。せめて有効に時間を使おう、となると優しき私の味方は小説たちなのです。

ということで、今回はお気に入りの作家さんの一人、西さんの作品を読了。

 

 

はじめに

これまで西さんの作品というと、関西弁コテコテ+純文学、という印象でした。今回も舞台は大阪ですが、より純文学へシフトした印象を強く感じました。

 

あらすじ

本作は中編ともいえる「地下の鳩」「タイムカプセル」の二編からなります。

表題作「地下の鳩」は、昔はそこそこイケてた40男の吉田が、スナックでチーママを勤めるみさをと出逢い、破滅的に共依存していく話。

続く「タイムカプセル」は、奄美大島出身のオカマのミミィ(おかまバーのオーナー)が、彼(女)の半生を振り返りつつ、自己のジェンダーについて自身は正直であったかを振り返るような作品。

 

解釈の余地が読者に与えられた作品

で、先にも書いたのですが、実に「文学だなあ」と感じたのです。ま、何を文学であるかと定義もしないでお話するのも申し訳ないのですが。

勝手な感覚でいうと、「読者に判断が任される」ような作品については、私はより一層「芸術」性、芸も術も感じます。換言すると、解釈の余地が適切に確保された作品

 

、んなことを言うと、エンタメ的作品をバカにしとるんか、と怒られそうなのですが、飽くまで私の個人的な好み、であります。

 

本作でいえば、「地下の鳩」は40にもなって未だに女性に対してはイキがった態度をとる吉田、彼を恋人未満なヒモとして住まわせるみさを。この二人が出会い、もつれてゆく情景が淡々と描かれます。今回は珍しく、オチもユーモアも殆ど見かけませんでした。

「タイムカプセル」も、オカマのリリィの回顧を経て、最後は小学卒業時のタイムカプセルを掘り起こし、自分が偽って書いた文章を確認してゆく話が淡々と描かれます。

 

どちらも結末・オチが用意されず、本当に、ふと、終わります。

とすると、読者はやはり「何なんだこれ?」って思うんじゃないでしょうかね。でも、こうやってオチの部分だけさっぱり切り落とし、そこまで上手にしっとり読ませるということでは秀逸であったと思います。

 

ちなみに、これまで西さんの作品は関西弁の多用の他、擬態語や擬音語の使い方に可憐さを感じていましたが、本作ではそうした擬態語・擬音語も見られませんでした。何かありました?西さん?

 

おわりに

ということで久しぶりに西さんの作品でした(数えてみたら五カ月ぶり!)。

関西弁のアクの強さやユーモラスさが影を潜めているのですが、文学作品としては私がこれまで読んだ作品のなかでは一番完成度が高く感じました。

 

ストーリーの展開ではなく、文章の美しさを鑑賞することが好きな方にはお勧めできる作品です。

 

はたして皆さんは本作品、どのように読みましたでしょうか? 他人の感想・評論が気になる読後でありました。

 

評価 ☆☆☆

2024/02/18

作品の書き口と大分ギャップがある!夢想家?天然? |『とにかく散歩いたしましょう』小川洋子

読了してから一週間近く経ってしまい、印象が薄れてきています。

こういうとき、電子書籍というのはちょっと面倒ですね。読中メモは残せますが、私の端末は手書きのようにササっというわけにいかない。というのは私の持っている端末がかなり古いからですが。フリック入力とかできたらいいのに。

 

で、記憶の断片と拙いメモとを寄せ集め、自分どう思ったんだっけ?と思い返す始末。

前々日の夕飯すらはっきりと思い出せない位だから、ましてや本の内容をや、ですよね。

 

はじめに

先月小川氏の作品を久方ぶりに読み、改めてその「静けさ」を堪能しました。その後Kindleでお勧めされたのが本書。

作品の印象とはまた違った、作家さんの素?が見え隠れして実に面白かったです。小川さんの日々の生活(作家の日常、取材、家族やペットの話、本の話)が描かれています。

 

ニアミスしていたかな? んなことはないか笑

で、まず感じてしまったのは親近感。

小川さん、岡山出身なんですね。しかも関西は西宮近辺にお住まいなご様子。

かなり勝手な親近感ですが、私も人生で5年くらい関西に住んでおり、その半分強が西宮近辺でした(私は尼崎でしたが)。小川さんは取材で訪れた関西学院大学のグラウンドの広さに驚いたそうです。私は引っ越してきた当時、未だに残る自然の豊かさみたいなのに驚きました。梅田から20分程度で、駅から15分も歩くと田んぼや畑が広がり、カエルや蛇が時に出現し、農業水路にはナマズや鯉が体をくねらせる。幼稚園児だった子どもたちとパンくずをナマズにあげたり、田んぼのあぜ道を歩き小枝を田んぼに差し込み蛇を探しに行ったりしたことを思い出しました。

ああ、あの近くを小川さんも歩いたのかもしれない、と勝手に夢想した次第。

 

で、ちょうど大阪在住時、岡山へは月に一回は出張していたんです。

これまた岡山というのが何というかパンチのない明るい都会(ごめんなさい)で、地味な印象なのです。確かに良く晴れているけど。

名が売れる前の高橋大輔さんへの取材の様子が書かれていましたが、岡山の朗らかな土地で小川さんの才能が育まれたのかと勝手に感動。ちなみに岡山市の中心街はえらく一方通行が多かったことを思い出します。

 

現実と本と連想力

さてさて。本の内容で言うとですとね、作家さんですし当然ですが、連想力が半端ないです。

タイトルにもありますが、散歩の話が結構多い。散歩といえば、といって、散歩シーンの出てくる小説タイトルがポンポンと出てくる。「ノルウェイの森」とか「檸檬」とか。

散歩中に近所の中学の吹奏楽部が「ふるさと」を演奏しており自然に涙ぐんできてしまい、「ふるさと」といえば、「二十四の瞳」云々、とか。

作家さんですし、エッセーだからかもしれませんが、現実世界の驚きから、それを書籍の一シーンや場面に結び付ける連想力がすごい。

 

普段の生活ではきっと、話のオチとか流れとかとは全く離れた、ふと思って気づいてそれを喋っちゃう人なのかな、とか感じました。で、周りの人は??みたいな顔をしてしまう、みたいな笑 知らんけど。

旦那さんは、そういう性格の小川さんを暖かく見守るタイプなのかな、とか、かなり妄想じみた想像をしてしまいましたよ。

 

そのほか、ハダカデバネズミに執着したり(その社会システムに驚き、気持ちを夢想したり)、過去読んだ本の思い違いに驚いたり、ペットのラブラドールのラブの話とか、ほっこりするストーリー多めです。

 

おわりに

ということで作家小川洋子さんのエッセイでありました。

作品の書き口とは一味もふた味もちがった作家本人のエッセイでした。

天然な方?なのかもしれませんね。逆に、この書きぶりを意図して書かれたとしたらかなりな悪女さんかもしれません。こういうちょっと抜けているかも?という女性のことは男性はけっこう好きなんじゃないかなあ。

 

改めてですが、小川さんの作品が好きな方にはお勧めできると思います。作品を読むのとは違った驚きが味わえると思います。

 

評価 ☆☆☆

2024/02/11

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