はじめに
村上春樹氏2005年の作品。5篇からなる短篇集。
シュールで微熱的な、得も言われぬ魅力のある作品集だと思います。
「偶然の旅人」が一番良かったかな
一番のお気に入りはやはり、巻頭を飾る「偶然の旅人」。
ゲイの調律師が、オフの日に郊外のショッピングモールにある喫茶店で読書をしていて、とある主婦と出逢い、すんでのところで一線を越えそうに。勢いを殺すべく、その時点でゲイをカミングアウト。そこでより一層深く互いのことを話し、その女性にも不安や悩みがあることを知る。それをきっかけに、ふと、かつて仲がよかった姉を思い出す。
20歳そこそこでゲイのカミングアウトを切っ掛けに、結婚直前であった姉とは疎遠になってしまった。その虫の知らせのような思い付きから彼は十数年ぶりに姉に電話をかけ、その日に会うことに。
かつて語りきれなかったわだかまりや想い、すれ違いや若気の至りを吐き出し、再び関係性を築く姉弟。姉の夫や彼らの子どもたちとも仲良くできるようになった、という話。
私がいいなあと思ったのは、あたかもこれが「日常の奇蹟」みたいに見えたから。
単なる偶然かもしれない、たまにあることかもしれない、でもやっぱりなかなかあることではない素敵な偶然。そういうのが奇麗に、そして淡く描かれている点が良かったと思います。
それ以外の短篇は以下の通り。
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
「品川猿」
私がこれまで読んだ村上作品(長編)よりも、タッチも分量もライトで読みやすいかと思います。
おわりに
ということで村上氏の短篇でした。
「だから何?」「どういう意味があるの?」と問い詰めると楽しめません。そういう世界、そういう瞬間があったら面白いね、と、あるそうでない話・信じられないけどあるかもしれない話を楽しんでいただければと思います。
ポール・オースターの『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』が好みの方は楽しんでいただけるかもしれません。テイストがちょっと似ていると感じました。
評価 ☆☆☆
2025/01/15

