小川糸さんの作品はこれで二作品目。以前読んだのは「ツバキ文具店」という、手紙の代書屋を営む女性が主人公のとても可愛らしい作品でした。
その時の印象をもって本作を手に取りました。
で本作。感想は、曇りのち晴れ、いまいちだったかなあ。
料理・調理の描写が素敵
先ず、好きなところから。
料理の話がいい。本作、自然に囲まれた田舎で、素朴で丁寧なレストランを開いた女性の話ですが、食べ物の話は基本好きです。
食材や調理法の描写がとても繊細で細かいんです。季節の野菜やその取り合わせ、煮込み具合とか。また、豚を一頭丸ごと解体するのですが、部位の名前をこまごま挙げて解体していくんです。ほら、焼肉屋さんとかに牛とか豚とかの姿に部位の名前が書きこんである絵とか、よくありますよね。一向に覚えませんが、どこの肉かを絵で確認しながら食べると(個人的には)おいしさもひとしおですが、そんな感じ。
調理の細かさって、本当に素敵だなあと感じます。
私はせかせかしていて料理はスーパー大雑把。先日コロナで家内が寝込んだときに、私が17年ぶりくらいに鍋を振るいましたが、娘からは大不評でした泣 逆に調理師資格をもつ家内の調理の様子を見ているといちいち細かい!切り方とか煮方とか(当たり前!?)。そのおかげで毎日おいしいご飯が食べられるのですが。
だから本作の主人公の丁寧な仕事ぶりとその描写は、きっとおいしい料理に仕上がるのだろうなあと想像しながら楽しめました。
あと、ほっこりさ加減は半端ないですね。本作が小川さんのデビュー作だったことは後に知りましたが、「ツバキ文具店」でも遺憾なく発揮されていたほっこりさは、本デビュー作では特盛くらいな盛りようであったと思います。
主人公の心情に寄り添えず泣(当初30頁)
これはなあ、という点についても。
どうしても気になったのが、主人公の切り替えの早さ。とりわけ失恋からの。
ある日家に帰ると、同棲していたインド人の彼氏が消えていた。しかも一切合切の家財道具までを持ち去っていた。・・・と、ここまでは(珍しいにせよ)あるかもしれない。で、この時点で恋人は戻らないことを確信し、即座に家を引き払い、そして即座に実家へ帰るバスに乗り込むという展開。
どうでもいいことかもしれないけれど、私はここに強烈に引っかかりました。
女性って男性よりさばけているっていうけど、恋人にトンづら持ち逃げされて、落ち込まないのかなあって思ってしまいました。勿論主人公の倫子もショックで声が出なくなってしまうし、実家に帰っても鬱々としているシーンも描かれています。でも私なら、がらんどうの部屋で、膝でも抱えて2日くらい、泣きながら過ごしそうな気がします。セルフネグレクト的に断食とか、逆に暴飲暴食とかもやりそう。
ましてや家で同然で出てきた実家にのこのこ帰るという選択肢はちょっと考えづらいかなと。二人でのレストラン開業を夢見て、現金で家にお金をためておき、それらも丸ごと持ち逃げされたのだから、実家に帰る以外に道がないのは仕方ないかもだけど。住み込みで配膳のバイトとかすればいいじゃん、とか思っちゃうんですよね・・・。
こうした冒頭30ページ程度の一連の展開に、違和感を感じてしまい、後々まで感情移入を妨げた感がありました。
あと、全般的に性善説に基づく展開が、読者をやや食傷気味にさせた気もします。
主人公倫子が懸命にパンを焼けば、気難しいグルメな豚も喜んでそれを食べる。拒食症のウサギも、倫子の想像力、エサやり、そして一晩中の抱擁で回復する。不仲だった母娘の仲も、母の死後、置手紙を発見して、誤解が解ける。そして涙。
ここまでうまく展開すると、もうメルヘンな感じかなと。
おわりに
ということで小川糸さんのデビュー作でした。
小説に対して、現実とは違う(かけ離れた)世界を求めているのならばこれは素晴らしい素敵な世界を提供してくれると思います。ほっこり。
現実の厳しさやリアリティも小説に欲しい場合は、うーんちょっと、となるかもしれません。
でも、食べ物、調理、食材などが好きな人、そんな方々はそれでも楽しめると思います。
評価 ☆☆
2023/02/11