海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

教育論から組織論、新自由主義批判まで。世の中に流されないものの見方を養う―『最終講義 生き延びるための七講』著:内田樹


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筆者と作品について

 内田氏は神戸女学院大学の元教授であり、その最終講義を軸として幾つかの講演をまとめて本作ができている。思想系界隈ではレヴィナスの翻訳で有名だが、政治論などの著作も多い。

 

感想

 いや驚いた。

 本作はKindleセールで50%オフであったために、時間の慰み程度に購入しただけであった。しかしながら、読んでみるとこれまた自分が日頃疑問に思っていたことや考えているような内容について書かれており、非常に参考になった。

 

 どう生きるか、自分も子供もどう教育するか、サラリーマンとして自分のコンディションをどうやって維持するか、自分の仕事と自分の組織をどう動かしていくか、等々です。

 

あなたのやりたいことは何ですか

 どう生きるかという点で響いたのは、小賢しい研究者批判をしていた箇所です。

 筆者は研究者の功利的な研究態度(評価されやすい論文の作成、就職のための得点稼ぎとしての論文)を大いに批判しています。曰く全く心を動かされないと。そんな学会は面白くもなんともないので筆者はほとんどの学会をやめてしまったそうです。

 

 これはあるよなあ、と思いました。自分も宙ぶらりんな大学院生活(興味があることを言語化できないまま卒業から就職へ)を送りましたが、なにもアカデミズムに限らない、あらゆる人にとって切実な問題だと思いました。つまり、どうしたいか・何をしたいか

 

 私もかつてそうでした。ただ組織に居るだけ。会社に居るだけ(仕事はするけど)。年が一回り下のメンターにもかつて言われました。「で、オヤジさんはこの業務、どうしたいんですか?」・・・全く答えられませんでした。まあミスなくこなしたいとか、しょうもない当たり障りのない意見しかありませんでした。でもそれではきっと伸びないのです。想いがないから。

 今は違います。今いる拠点の収益額も収益性も伸ばしたいと思っているし、自分の業務をもっともっと効率化したいと思っている。制約沢山あるけど。そう思うと、日々の時間の使い方や計画も変わってきます。

 もちろんそんなのしょっちゅう考えるのはシンドイのですが、上の方々や経営陣がこういうマインドを持ってなければ決して物事は進まないと思います。

 

 まあ会社はまだそれでも組織が整っていて運営されていきますが、研究者はほぼ自営業者ですから、そうした想い・興味・好奇心は絶対条件だと思います。それをきちんと自己認知した上で生きるのならば、研究者でも社会人でもそこそこ納得のいく・そして評価される人間になれると思いました。少なくともその想いを見てくれている人や、手を差し伸べてくれる人が出てきます。だからやりたいことや好きな事・したい事を振り返ったりする作業は私は結構大事だ思います。就活の時の面接の準備の時だけ片手間で考えるのではなく、継続的に振り返っていいと思います。

 

教育の結果ってとは。教育の成果を測ることについて

 氏の、教育を自由主義的・成果主義的にとらえるべきではないという意見がありました。これは主に教育を授ける側の評価についての話です。

 教育の成果は5年や10年で分かるでしょうか? 否、時にはそれ以上時間がかかるのです。だから即時の評価はし辛いし評価に時間がとられることの方が非生産的です。

 

 私も高校生のときはそれはもう先生や学校のことをクソミソに批判していました。でも卒業して20年以上あって、あの場であったからこそ学べたことがあると理解できますし、感謝もしています。それを例えば顧客満足度と言わんばかりに在校生からの評価で学校方針や教員の評価をつけたらどうなるのでしょうか。つまり必ずしもマーケットが正しいわけではない分野や評価が出るのに時間がでる分野があるのでは、と私も思うのです。或いはステークスホルダーをより広くとらえなければならない場合があるということですね。

 

 もちろん高校であれば有名大学への進学率とか、大学ならば就職率とか短期的にとらえられる要素もあります。ただ、いい大学とかいい就職ができたのを学校のおかげだと思う人っていますかね。いないと思います。多くの人が自分の努力で成し遂げたと考えると思います。

 教育の成果とはやはり学んだ人自身が、この学校でよかった、ここで学んだおかげで自分の人生は豊かになった、等と評価することにあると思います。

 

 もちろん組織である以上、一定の評価体系が必要ですが、社会一般に普通に行われている評価だからと全ての業界に当てはめるのはおかしいと思いました。公共政策(年金設計、都市計画、その他もろもろの射程の長い政策)も一緒だと思います。

 そしてこうしたことに関心を持たないと、塾のような味気の無い学校しかなくなってしまったり、無駄を許さないギスギスした学校しか存在しなくなってしまいそうです。

  

おわりに

 作品中で「人はテクストを自分が読みたいように読む」という意味の話がありました。その点で言うと、きっと私も自分の問題意識に応じて読んでしまっただけかもしれません。筆者はもっと広く(あるいは私が思う事とは違う意味で)大学や教育や社会について語っていたのかもしれません。

 

 ほかにも沢山のためになる、そして面白い論点を含む本でした。組織の多様性の話とか、昼はレヴィナス夜は道場で稽古という生活を10年間ほど過ごした話もコンディショニング的には淡々と繰り返して成果を出すという点でためになりました。

 

 誰が読めばためになるかと考えましたが、40代のおっさんは夢中になって読みました笑 学生や教師の方や公務員の方には手に取って読んでみてほしいと思いました。またお子さんのいる親御さんにも子育て・教育という観点からためになる本かと思います。社会人の方にも組織論として読むと、日常の風景も少し異なった見え方になるのではと思います。講演集なので筋を見えない時もありますが、きっと参考になる考え方がみつかると思います。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2021/02/04

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