海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

文章は素敵、何となく面白い。でも、哲学的にはよくわからん|『この人を見よ』ニーチェ 訳:丘沢静也

ニーチェ。皆さん読んだことありますか?

実は私は初めてででありました。

何となく中二病、のイメージがあったんです。自意識やプライドが高く、劇的で劇画的。著作のなかの「神は死んだ」「ルサンチマン」などの言い回しは、哲学に関心のない方でも耳にしたことはあるのではないでしょうか。

 

ただ、最近はどうでしょうか。ニーチェの研究者ってのはあまり聞かない気もします。どんくさいみたいな雰囲気なんでしょうか。殆どイメージで語りますが、哲学の専攻でも英米倫理学とか、経済学とのつながりでJ・S・ミルやベンサム、A・スミスなんかはまだ読まれているような感じがあります。分からんけど。

いずれにせよニーチェは、個人的には近寄らなかった著者でありました。


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ひとこと感想

そんななか、今般縁あってニーチェの作品を読む機会を得ました。で、再びですが、ニーチェってどうなのよ、と自らに問えば、こう答えたいと思います。

文章は素敵、何となく面白い。でも、哲学的にはよくわからん

はい、これであります。

 

著作の立ち位置がよかった

取り敢えずよかった点から。

本作は、著者が発狂し入院させられる前で、最後の脱稿した作品となります。あたかも自分が再び筆を執ることはないかと悟ったかのような、自らの作品や思想の振り返りをしているのが特徴になっています。

その意味で、本作はニーチェ自身による過去の著作の回想録のような構成になっています。かつてどのようなことを語り、どのようなことを考えていたのかは、本作を読むことで概ね(概ねですよ)理解することができるのではないでしょうか。ドイツ人やドイツ的考え方の否定、常識という価値の破壊・転換、等々であります。

いみじくも裏表紙に「ニーチェ自身による最高のニーチェ公式ガイドブック!」とありますが、いいえて妙ですね。表現はなんとも軽いのですが笑。次の作品を手に取るかどうかを決めるにはもってこいの、ニーチェ作品群を見下ろす恰好の展望台でありました。

 

力強い表現とアフォリズム

また、文章が非常に美しく、アフォリズムの鋭さは非常に印象的でした。批判はまさにナイフのように鋭く容赦なく周囲をこき下ろし、表現も二元論的(善と悪、死と生等々)なものが多く、このことからも力強い文章になっていたと思います。読中ふと感じたのは、哲学というよりもむしろ文学、という印象でありました。

 

哲学的には???

そして、哲学的な意味なのですが、これははよく分からなかったです。ニーチェって何が言いたかったのか。

可能性の一つは、「クレタ人は全員嘘つき」と語るクレタ人のごとく、眼前に問題を現出させ、さあ君たち自身がニーチェを判断しなさい、と言わんばかりの実存的投げかけを演出しているのか、と。分からないけど。全体を通じてなんだか禅問答のようでもありました。

あるいは、言葉を尽くしても最終的に人は分かり合えないことを、身をもって・作品をもって表そうとしているのかもしれません。きっと俺のことわかってくれる読者なんて殆どいないんだろうなー、などと思いつつ書いていたのかな、と夢想した次第です。

 

おわりに

ということでニーチェの著作でありました。

改めてですが、なかなか面白かったですよ。文章も素敵で。

そうそう、加えて一点申し添えると、訳が自然で読みやすかったです。ドイツ語をかつて勉強した身としては、関係節でだらだらと続くドイツ語の読みづらさは、翻訳でも「そのまま」残っていることが結構あるのですが、今回そのような困難はありませんでした。さすが新訳ですね。

 

評価     ☆☆☆

2022/12/27

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