海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年もセカンドライフ等について思索したく。

徒花と消えた民主化の夢。巻き込まれた元学生らの行く末は |『時が滲む朝』楊逸

皆さんこんにちは。

 

外国語で文章を書く、なんて想像できますか?

 

私、海外に住んでいるということで、同僚とのteam連絡やメールは当然の事ながら英語がメインです。スピーチクラブにかれこれ7年程所属しているので(発音はともかく)、多少はサマになる文章を作れるようになったかなという自信はあります。アジア英語ですが。

しかしながら、人に読ませるような文章を書けるか(ましてや書いていて楽しいか)と言われれば、答えは絶対にノー。

だけど、そういうことが出来る方がいらっしゃるんですね。日本の方が海外でやっている例としては多和田葉子さんとかが代表になりましょう。反対のパターン、母語が日本語ではない方が日本語で文学作品を創作されている方だと、この方も一つ代表となりましょう。芥川賞も受賞されています。すごいですよね。

内容も実際、面白かった。

 

ということで本題に参ります。

あらすじ(裏表紙より)

中国の小さな村に生まれた梁浩遠と謝志強。大志を抱いて大学に進学した2人を天安門事件が待ち受けるーー。”我愛中国”を合言葉に中国の民主化を志す学生たちの苦悩と挫折の日々。北京五輪前夜までの等身大の中国人を描ききった、芥川賞受賞作の白眉。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の代表作!

 

理想に燃え、挫折。浩遠だけが取り残されていた

なんとも言えない甘酸っぱい読後感の作品でした。

 

当初、ライバルであり幼馴染である貧農の子どもたち二人が、苦学の末狭き門をくぐりなんとか憧れの大学生となるシーンで始まった本書、おおこれは立身出世物語かも、とワクワクして読んでおりました。

 

ところが、喜びも束の間、学生運動にかかわってしまい、せっかく入学できた大学から二人とも放校処分となり、エリート候補生が日雇いに身を落とすことに。

理想(国の民主化!)は高いが、現実の食い扶持を得るためにはとにかく働かねばならない。そのギャップが若い二人につきつけられます。

 

とりわけ、在留日本人とみられる女性と結婚し日本へ渡った浩遠。彼は民主化の理想を捨てきれず、日本でも同胞の民主化の集まりに顔を出すも、周囲の不真面目な態度が面白くない。会社の上司や妻も表立って反対はしないものの、次第にはれものに触るかのような態度を彼にとる。

 

最終的に浩遠は、民主化を先導した甘元教授と、憧れだった英露とに再会し、自分だけがクソ真面目に民主化活動していたことに気付く。ここは悲しかった。いったい何年彼は独りで夢を見ていたのか。

 

理想を持つことは素敵だし大切でしょう。他方で現実に生き生活を送ることは喫緊の課題となります。普通の人は意識的・無意識的にバランスを取り、ある意味で平凡な人生に落ち着くわけです。理想を固持したことで浮いてしまった浩遠に一抹の悲しみを感じるのは、わたしなぞは浩遠に自分の分身を見ることができるからでしょうか。

 

民主化という理想でなくても、理想(夢)は、お金持ちになる、都心に住宅を持つ、素敵な配偶者を得る、子どもを有名私立(国立)に入れる、出世して部長や役員になる等々にも置換できましょう。

私の場合は、優しくも厳しい妻との衝突を経て、自分は平凡に生きるべきだとやっと頭で理解してきました(心ではやっぱり破天荒なことをやったり成功したいという野望がまだ消えません泣)。

 

個人主義・多様性とは言うものの、干渉しない(で暴走?するのを許す)のを優しさと言うのか、干渉しまくって目を覚まさせるのが優しかというのか、意見は分かれましょう。そんな人間関係の在り方をも考えさせる作品でありました。

 

おわりに

ということで、楊逸氏の作品は初めて読みました。

やさしく、そして熱情と冷静さの表現の切り替えが上手な作家さんだと感じました。舞台が日本ではなく、異国情緒(というか異国ですが)が漂うテーマも好みです。

別作品も読んでみたいと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2026/04/07

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