海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

読んでみて!としか言えない、傑作ミステリ ― 『THE MURDER OF ROGER ACKROYD』著:AGATHA CHRISTIE

いやあ結局驚いた。ああ、そういう事か!と最後に膝を打つ。

 

多作のアガサ・クリスティーの作品群の中でも代表作として挙がることが多い本作。確かに面白かった。

 


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(因みに今回もインド亜大陸版につき表紙はAmazon版と異なります)

 

あらすじ

とあるイギリスの町で、金満家ロジャー・アクロイドが自分の屋敷の書斎で殺害される。容疑者は継息子、同居する妹(姉?)、その娘、ロジャーの友人、秘書(執事?)、そしてかかりつけ医。一体誰の仕業か。

難事件を解決するのは、引退したはずのエルキュール・ポワロ!

 

上流階級の様式美の雰囲気がよい

今からもう100年程前に出版された作品(1926年)なのに全く古びてない。

もちろんお屋敷とか、執事とか上流階級の生活は古色蒼然とした風であるが、ある意味そこに味がある。日本で言えば明治時代・鹿鳴館のイメージでしょうか。気取った上流階級とそこに潜む嘘が少しずつポアロによって暴かれていきます。こういうのは実写や舞台にするときっと映えるのだと思いました。

 

そして本作、ネタバレしないでこれ以上の感想を伝えるのは実に難しい。その構造を話してしまうと即ネタバレになってしまうのです。だから読んでみて!としか言えない笑 私の読んだ英語版ではLaura Thompsonという方が後書きで「二度読みすべき」と述べられていましたが、激しく同意です。1度目でスルーしてしまったアガサの仕組んだ伏線を、2度目では改めて味わうことができるというものです。

 

英語

私、これまで『オリエント~』『ABC~』と読んできましたが、英語は本作が一番読みづらい?と感じました。上流階級の言い回しだったからなのか?よくわかりません。或いは中盤までは叙述や独白が多く、そこが読みづらさの原因の一つかもしれません。そして半ばから会話が増えてきてリズムにのり、そして残り1/3はもう駆け足。ここまでくると言語関係なくハマって読めます。

また本作ではポアロのフランス語のセリフがそれほど多くなく、そこは助かりました。

 

余分なことですが

あとどうでもよいことですが、今回冒頭部分でFlora嬢の美しさをNorwegian pale fairnessと譬えていました。英国人にとって北欧系の方は美しいというイメージなのでしょうか。グーグルで「北欧 美人」で検索してみましたが、確かに白いし美しいのですが冷たい感じ?のモデルの方が多い印象です。

www.google.com

まあ少なくとも私とアガサの感覚は大分違うようでした笑

 

評価 ☆☆☆☆

2021/12/08

 

 

閑話休題

ということで、度々お邪魔しているhonzaru氏の読書評をリファー。氏はネタバレなく上手に本作を紹介。流石ですねー。でもたしかに表紙や帯で内容が類推できてしまう事ってありますよね。

honzaru.hatenablog.com

 

ついでに過去に読んだものも以下に紹介

lifewithbooks.hateblo.jp

lifewithbooks.hateblo.jp

救いのない今を生きるポーランド女性たちの物語 - 『カティンの森』著:アンジェイ・ムラルチク 訳:工藤幸雄、久山宏一

カティンの森事件という事件をご存じでしょうか。

第二次世界大戦中、約1万人のポーランド人将校がソ連公安当局によって虐殺されたといわれている事件です。

 

ja.wikipedia.org

 

事件発覚以降戦後も引き続き、ソ連に進攻したドイツ軍の仕業であると言われていました。しかしゴルバチョフペレストロイカにより、ソ連軍の仕業であることが50年の時を経て明らかになったものです。

 

こちらも世界史の講義で知り、より内容を知ってみたいと思い購入に至りました。

 


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いわゆるカティンの森事件を題材にしたフィクション。全編通じて美しくも陰鬱な雰囲気に満たされた内容でした。

とはいえ、カティンの森事件の内容を説明するものではありません。当事件に巻きこまれた男性の家族の、彼を「待つ」その心情のコントラストを描く作品です。

 

あらすじ

物語のあらすじをざっと言えば、カティンの森事件で家族を亡くした3世代の女の話です。出征した息子の帰りを信じている母ブシャ、夫の死をほぼ確信するも貞節を守りながら未亡人として生きる妻アンナ、父の死を受け止めつつも寧ろあらたな人生を切り開きたい娘ヴェロニカ。彼らに訪れる戦後の動乱と人々の心象を描くもの。

 

一生喪に服するべきか。故人の為にも幸せを求めるべきか

やはりやるせないのは、解消されざる母娘の「今」に対する感情。母アンナからすれば残りの人生はまさに「敗戦処理」に過ぎない。一方娘にとっては、白紙のノートブックのような人生が開こうとしている。その考えの違いが家庭内でも不協和音を奏でます。

 

「母は、苦しみを独占する権利があるという想いなしではいられないのだ、そうすることによって、喪失の痛みを人生のたった一つの意義に変えているのだと。彼女のただ一つの愛の対象が帰ってくるという望みを絶たれ、最後までその愛に忠実になろうとしながら、母の選んだのは、犠牲とならずに済んだものへの憎しみと遺恨だった」(P.243)

 

 

 

自分が幸せでない時、他人の幸せを祝福することは難しいことが多いわけですが、この違いが母娘に起こるところに、運命的ともいえる悲劇性を見て取れます。娘ヴェロニカは自身の恋愛をせめて家族に祝福してもらいたい一方、母アンナは厭世的な発言が多い。

 

やや作りすぎの嫌いはあるものの、娘ヴェロニカの恋人が更なる犠牲者を生み出し、また彼自身体制の犠牲となることで最終的にヴェロニカも母の立場を理解するようになります。つまり、悲劇は繰り返されることになります。

 

ポーランドという国の歴史的な悲劇

また読中、ポーランドという国の経緯についても、つくづく何とも言えない思いになりました。

ロシア、プロイセン、オーストラリアの3列強による3度の国土分割を経て、第2次世界大戦ではドイツとソ連により通算4度目の分割を経験することになります。加えて、アウシュヴィッツユダヤ人虐殺の現場となり、ポーランド人将校はロジアのカティンへ連行され虐殺される。戦後はソ連の影響を受けた共産体制の下、真実を探ることも許されない。

 

また物語では妻アンナは、夫の名前がカティンでの死亡者リストに名前が誤って掲載されていたことから、夫の死亡も認定されず、恩給の代替受給も許されず、厳しい立場に追い込まれました(この誤報に一縷の望みを託す点がまたなんとも・・・)。

 

おわりに

実に重苦しい作品でした。

この家族の救いの無さは、胸にどんよりとした嫌味を残す一方、なぜポーランドはこのような他国の蹂躙を受けることになったのか、なぜロシアは虐殺の事実を隠したのか等の歴史的事実とその背景も知りたく思いました。

 

ヨーロッパ史、東欧史、近現代史に興味がある方にはおすすめできる作品だと思います。

 

評価 ☆☆☆

2021/12/03

超常現象を小気味良く解決。ガリレオシリーズ第二弾- 『予知夢』著:東野圭吾

もうこれ虐待に近いのかもわかりませんが、中2の娘に毎月1冊本を読ませています。ページ数を日数で割って、1日どのくらいまで読めば終わるかとかカレンダーに書き込ませます(こんなんしたら面白いものもつまらなくなるかもしれませんが。。。)。まあ3か月やってギリギリ2か月はきちんと読んでくれるくらいですが。

 

東野圭吾氏。

彼の本は、本嫌いの長男が本を読むきっかけになったものなので、二匹目のどじょうをという事で娘にも薦め始めました。次回娘が「次はミステリーを読んでみたい」と希望が来たら渡せるように、下読みをしてみました(自分から作家を探すつもりは全くないようです)。

 


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物理学准教授のガリレオ先生こと湯川が活躍するシリーズ第2弾。

本作も前作に続き5編の短編からなる作品。

 

 

lifewithbooks.hateblo.jp

(こちらでも小気味良いって表現しています。ボキャ貧申し訳ありません。余程スムーズに読めたのでしょう)

 

怪奇現象、超常現象ともつかぬ不思議を冷静に解いていく様は相変わらず気持ち良くサクサク読めます。

 

20年程前の作品なのでちょっと古いのですが、内容は全く色褪せず。普通に面白い。
ただ、5編のタイトルが当て字になっており、そこが少し時代?というか今はこういうネーミングはやらないなあと思いました。因みにこんな感じ。

 

第1章 夢想る(ゆめみる)、第2章 霊視る(みえる)、第3章 騒霊ぐ(さわぐ)、第4章 絞殺る(しめる)、第5章 予知る(しる)

 

どうでしょう、少し時代を感じませんか。

こういうの見ると、おっさんも悪乗りして何か作ってみたくなります。「バズる」って漢字で当て字にしたら「目散る」(注目+拡散?)かな、とか、「炎上る」って書いてどう読ませようかとか、しばしつらつら考えて時間無駄にしました笑。

 

ということで、超常現象系ミステリでした。
ちょっと疲れた時に息抜きにピッタリ。楽しく読ませて頂きました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/11/26

十字軍行軍の徒花と消えた特殊法人 ― 『テンプル騎士団』著:佐藤賢一

 

世界史の講義で、講師が「テンプル騎士団フリーメイソンの源流であるという噂も」と聞き、その神秘性に惹かれ、何か新たな事実が分かるかも?と本書を購入。

 

学生時代は中世というのは一番つまらないし中世を研究する人たちの気が知れない(ごめんなさい!)と考えていましたが、50近くになって私、最近中世がブームっぽいです。

 



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世界史を勉強していると、宗教騎士団というのが出てきます。主に三つ取り上げられることが多いのですが、ヨハネ騎士団(十字軍+病院系)、テンプル騎士団(十字軍+護衛系)、ドイツ騎士団(十字軍+護衛系、のちに開拓系)というイメージでしょうか。

 

中世において、王家、教会という二大勢力がある中、特殊な立ち位置が興味深い団体です。本書はこうした騎士団のうちテンプル騎士団の歴史・概要をまとめたものです。

 

テンプル騎士団のすごいとこ

中世ヨーロッパの封建制の下では戦争も契約に縛られ、領地を守る戦争でさえ兵隊(農民ですが)の参加は日限が限られる、場合によっては二者にまみえることも可ということが言われます。つまり領主は自前の勢力すらあてにすることができませんでした。そこにあって、テンプル騎士団という言わば武闘専門職・常備軍であるところに、この団体の画期があります。

 

十字軍での戦闘やその後の巡礼の護衛・防衛を生業とするのですが、驚くべきはその特権。寄付を受け入れ、領地を運営する。さらには効率化のために既存領地の周辺を買い増したり、遠隔地と交換したりしたそうです。もう商人やな。
しかも所得は免税らしいです。まんま宗教法人やな。

 

さらに欧州各地に寄付地の拡大と共に管理する支部が増え、支部をつなぐ道も整理されていく。となるとイカツイ彼らは運送業としても頼もしい。

 

さらにさらに、十字軍というスケールの大きい活動となるとお金のやり取りが必要。かといって兵隊の給与として重たい硬貨をいちいち持ち運ぶことが難しい。するとテンプル騎士団のネットワークは今度は銀行として機能する。パリで預けたお金をアッコンで引き出すといった芸当も可能だったらしい。更には足元を見つつも金も貸していたそう。あの失地王ジョンもテンプル騎士団から借金したそうな。

 

エクセルの無い時代、多国間に渡る資産の管理を表計算ソフトなしにしていたとなるとどれだけ重労働だったのかと空恐ろしくなりまが。

 

おわりに

最終的には、この独自の勢力を誇った騎士団も14世紀にフランスの王朝に潰されてしまいました。やはり王家からみて、そしてローマ・カトリック教皇から見ても、このような超国家的存在は目障りだったことは難くありません。

 

本作を読んでいて、テンプル騎士団は超国家的という面で多国籍企業と似ているかな、とちょっと思いました。ただ、現代の企業(特に米国)はロビー活動等で政治権力を抱きかかえながら膨張しているので、ちょっと性格が違うかもしれません。

 

やはり十字軍の徒花として散った存在だったと言えるかもしれません。ちなみに筆者によるとフリーメイソンのもととなったというのは事実ではないようです。

ということで、ちょっとしたウンチクがたまる歴史読み物でした。

 

評価 ☆☆☆

2021/11/25

 

シンプルな例文に微妙なニュアンスをのせる例文。上級者向き英語本― 『ロジカルイングリッシュ 英語力は文法より「話す順番」で決まる!』著:有元美津世

 

アジアに渡ってきて早8年目。業務の連絡は英語を使いますし、厳しいインドなまりや華僑のなまりにも大分慣れました。アジアでは何とか英語で意思を伝えることができると感じますが、いかんせんストリートファイト仕込みという引け目が未だにあります。

今年の目標に英語を勉強すると宣言するも、今年も残すところあとわずか一か月強。英語の本はけっこう沢山読んだのですが上達した気がしない今日この頃、本棚の本書を再読してみたものです。

 


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侮れない本。これが印象です。

例文がシンプルで優しいのですが、その実伝えるニュアンスは時に繊細。なんというか、ネイティブっぽい英語のニュアンスを表現している例文や解説が多い。

一例を申し上げます。例えば、idea, plan, solutionの強度。あるいはpropose(強め)とsuggest(弱め)の違いとか。

私なぞ万年平社員の権威なしですが「こうしたほうがいいんじゃね?」というニュアンスで”I would like to propose”とか平気で使っていました。でもproposeとはどちらかというと命令に近いニュアンスらしいです。ですので、この場合は”I would like to suggest”である方がhumbleというか状況にあっていたはずです。

 

あと、依頼・命令表現を読んでいて、自らの覚え違い?も発覚。
過去学校では”you’d better 原型” は ~した方が良い、と習った記憶があります。で、またまた、この表現を、ほんと軽めの感じで「~した方がいいんじゃね?」的なニュアンスで使っていたのですが、本書によると”You must ~”よりも強い、命令・依頼の最上級の強度らしいです。
いままで私のメールを受け取っていた皆さん、ほんとごめんなさい。

 

初心者は敢えて無視する場合もアリか

他方、会話力をあげたい初心者には本書はやや不向きかなと思いました。

というのは、日本人一般の傾向としてミスすることを恐れて会話が冗長になる場合があります。全部を漏れなく喋ろうとするやつ。あれは分かりづらい。また正しく喋ろうと考えながら話をするとアー、とか、エーとかが多くなりますが、あのSpeech Cruchesのために余計に会話が聞きづらくなることも多いと思います。
本書を読むと余計に色々分かり、間違えるのが怖くて喋れなくなってしまうのではと老婆心。

アジアでの場合に限って言えば、大体が非ネイティブとして英語を喋りますので、文法的な間違いやニュアンスの違い等は概して寛容に受け止めてもらえます(もちろん正しい方がいいのは当然ですが)。誤ったニュアンスで喋ることを恐れて分かりづらい会話をするよりも、多少文意がおかしくても短くシンプルに話す方が伝わると個人的には思います。

 

おわりに

本作、本棚整理を兼ねて再読したものです。やっぱり読み返すと、なかなか良い事が書いてあります。まだ処分できない。

自分の英語運用能力をワンランク上げたい方、英語はまあまあできると思っているという方には、より詳細な英語表現のため、ないしは英語力のチェックとして使えるのではないかと思います。

 

評価 ☆☆☆

2021/11/24

没落する日本で生き抜く宣誓 ― 『日本の没落』著:中野剛志

本作は、官僚・評論家である中野剛志氏による、ドイツの歴史家シュペングラー『西洋の没落』の解釈本というのが端的な説明になると思います。

 

曰く、100年前に書かれたシュペングラーの著作には、現代社会の諸相(経済成長の鈍化、グローバリゼーション、地方の衰退、少子化ポピュリズム、環境破壊、非西洋諸国の台頭、機械による人間の支配等々)を見事に言い当てており、その没落への過程は西洋文化ドップリの日本にとって参照に値するのではないかというもの。

 


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よくもまあそこまでドイツ語文献をしっかり読んだこと

先ずもって賞賛したい点は、ドイツ語文献をよくぞここまで読み込んだなあということ。学生時代の私の僅かな原書購読体験では、実にドイツ語の思想系文献は長ったらしく冗長、強気な書きぶりなのに意味不明瞭、イマイチ曖昧で微妙な定式化(たとえば本作でも見られる『アポロン的』と『ファウスト的』、『現存在』と『覚醒存在』などの二元論)で語る、というような場合が多かったのです。私自身は『西洋の没落』は未読ですが、文章の端々から筆者が相当丁寧にドイツ語文献と取っ組み合ったことが感じられました。日本語訳で読んでいたとしてもその難解さは消えないと思います。

 

貨幣論・金融論は面白かった

さて、内容的に私が面白いと感じたのは貨幣論の部分。

シュペングラーはゲーテファウスト』を下敷きにして貨幣による支配を予言していたそうです。中野氏はこれは金融業界の拡大であると解釈しています。確かに、GDPに占める金融業の拡大は引用しているデータの通りでしょうが、更に1980年代からのインフレ抑制方向の金融政策が「ウォール街財務省複合体」のもと実施され「アメリカも日本も、独裁的貨幣経済と化している」としています。

 

10年程前、格差拡大を背景に、支配的地位に君臨する金融家・政治家にモノ申す「ウォール街を占拠せよ」という抗議活動がありました。リーマンショック後の不景気にもかかわらず救済されたはずの金融機関の地歩がゆるぎなかったのは何故か。

私は中野氏がいう『世界中で広まったインフレ抑制政策』に、陰謀論的なにおいを嗅ぎ取ってしまいました。ウォール街や金融機関は当然のことながらインフレになるとお金の価値(つまり貸し出しているローンの価値)が減ります。だからインフレを抑えようとするのでは?逆にデフレになるとローンの借り手は負担が増えますが、銀行の保有しているお金の価値は更に増します(物の価値が落ち、お金の価値が増える)。

 

また、信用創造に関する話も興味深いものでした。一般に過度な国の借金はよろしくないものですが、国とは無制限の貨幣創造の権利があるので、貨幣を国内で循環させる限りは問題がないとするものです(大分はしょっています)。もちろんインフレが起きればお金持ち(金融機関も)は損をするのですが、ある意味不況+借金漬けからの脱出にインフレというのは手なのかもしれません(もちろんうれしくないですが)。対照的な事例はユーロです。貨幣創造に手枷をしてしまったユーロは健全化のルールのもと借金もできず貨幣も刷れない(財政出動しづらい)形でどんどんデフレになり(今やマイナス金利)まさに貨幣に縛られた状態と言えるかもしれません。

 

こういう内容を読んでいると日本の借金漬けはひょっとして大丈夫なのか?とも思ってしまいますね。。。

 

明快な結論なしは消化不良を催すか

他方、もし消化不良感を感じるとすれば、それは結論部分でしょうか。

『われわれは、この時代にうまれたのであり、そしてわれわれに定められているこの終局への道を勇敢に歩まなければならない。これ以外に道はない。希望がなくても、救いがなくても、絶望的な持ち場で頑張りとおすのが義務なのだ』(位置No.4060)

 

 

大分すっ飛ばして書きましたが、どうやらシュペングラーの主張は、文化も季節のごとく春→夏→秋→冬と栄枯盛衰的に推移するとしているようであります。しかもそれが不可避であり運命づけられているそうです(ニーチェの影響を受けただけはありますね)。ただ、これで終わると何というか、救いがないですよねえ。

 

おわりに

ということで、私は思想好きということもあり、全体面白く読みました。

哲学的歴史書を読み解き、その論旨を日本に当てはめて考えるというのはなかなかに困難な仕事であると思いますが、面白く読ませて頂きました。

 

没落を決めつけている点が(中野氏ではなくシュペングラーに対し)納得が行かない点ではあるものの、他方で栄枯盛衰・盛者必衰は、感覚的によくわかります。

私たちはいずれ死んでしまうわけですが、どうせいつか死んでしまうからと今努力を止めてしまう事はないと思います。皆さん必死で毎日を生きていると思います。類比的に考えれば、文明・文化・あるいは国が亡ぶ運命にあったとしても、現実に対峙して出来るだけよりよい方向へ国や文化を形作るのは正しい姿なのかな、と感じました。その点では以下の文句はなかなか素敵です。

『没落の時代においては、真の哲学は、実際生活における実践経験の中にある』(位置No.3627)

 

評価 ☆☆☆☆

2021/11/20

タイトルまんまですが、基礎的銀行経理の本。 ― 『Q&A 業種別会計実務9 銀行』著:トーマツ 金融インダストリーグループ

本棚整理と復習を兼ねて再読。本サイトを見てくださっている奇特な方には申し訳ないのですが本ポストは普通に読み飛ばしてください。。。

 


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実務書であり、題名がこれ以上内容を表すこともないと思います。そのまんま。

当然のことながら経理財務の方向けの本。私は経理畑の人間ではなく、別のミドルファンクションとして本書を読みましたが。

 

さて内容ですが、銀行の経理実務について特長的な項目を絞って書いてあるものです。銀行業界の経理の特殊性は有価証券報告書などを見ればすぐに気づくことと思います。経引後利益の事を業務純益と読んだり。収益の種類もアップフロントフィーとか、デリバティブ収益とかありますし。

こうした銀行特有の経理の取扱がコンパクトにまとめられております。ローン契約、引き当て、投資有価証券、信託契約等の経理についても触れられております。

 

個人的に読んでいて学びがあったのはマスターネッティングの話。

銀行はデリバティブ契約を多く保有しています。対顧客との契約の他、当該契約が将来の市場動向によって銀行側に不利な契約にならぬよう(ほぼ)正反対の取り組みを他銀行とします。カバーとかと言ったりしますね。つまり銀行は対顧客とのリスクを相殺するためにもう一つデリバティブを組むわけですが、そのため逆に他銀行のリスクを抱えることになります。実は銀行はこうしたカバー取引のために多くの他銀行宛て債権債務を抱えるわけですが、これをネットしようという考えです。つまりバランスシートの水ぶくれを抑える経理です。

 

逆にちょっと冷たいなあと思ったのは、繰り延べヘッジと税効果会計を取り扱ったQ3-21の部分。繰り延べヘッジは分かるのですが、これが税効果会計とどう関連するかが分かりません。まあ単純に私が税効果会計のことを良く理解していないだけなのですが・・・。

 

ということで、銀行の実務本としては基本的な経費科目の内容ながら、会計の話は一定レベルの理解を前提にしていると感じました。

 

おわりに

結論からするとコンパクトにまとまった銀行経理の本です。

ただ、ターゲット読者がどのあたりの方々なのか、イマイチはっきりしないと感じました。というのは本作のコンパクトさなのですが、実際経理の実務に携わる人はこの程度の薄さの知識では足りないのだと思うのです。実際の経理の方は辞書みたいな分厚い本を机において参照するのだと思うのです。

までも、経理財務の人間でない私もこうして手に取っているわけですから、やっぱりターゲットは本業以外の方なのか。

 

これを書きつつ、ふと表紙の窓を見ると、『本書は、銀行会計に初めて携わる方でもこのような銀行業の会計の特徴的な部分が鳥瞰できるよう、会計上の論点をQ&A形式で取り上げています』とありました。私のレビュー、書くまでもなかったですね。

 

評価 ☆☆☆

2021/11/17

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