こちらも、私の母親のスーパー積ん読文庫(処分済み)から救出された一冊です。
この前『戦争が遺したもの』という日本論・戦後論の本もこの処分本から救出しましたが、母はこういうの好きだったのかな?っとふと疑問に思いました。その割に、背に付いているしおりの位置すらズレておらず、買ったまんまだった雰囲気は濃厚でしたが・・・。
ひとこと感想
テレビではニヒルな態度で存在感を放つ古市氏。
インテリ系タレントの印象が強いですね。でも本作を読むと、どうしてどうして、実にドライブ感あふれる『若者論』を展開してゆきます。
若者論の歴史
そのあらすじを述べれば、先ずそもそも若者とは何かと問い、これまでの若者論のあり方を過去にさかのぼります。端折って述べれば、そもそも日本には全体的で均質な世代としての「若者」などなかった(当然ながら農村に育つ「若者」と都市の「若者」には金銭的にも教育的にも大きな隔たりがあった)。それを、戦前・戦中の時の為政者が金太郎飴的な「若者」像を作成し、国民動員のために利用したという線が濃厚。
また戦後にも「若者」論は多く書かれたものの、今度は上位世代による『時代に追いつけません』的敗北宣言とでも言おうか、どちらかというと正しくない分析(思い込み)に基づく逆ギレ若者論であることを、過去の主張とデータとを照らし合わせて示しています。この点で、日本の若者論はこの数十年全く進歩していないと喝破。
若者論の死と最近の若者
さらに今、若者はおろか老人ですら、均質化されたイメージは持ちづらい。同時に社会では個別の生き方を認める中で、良くも悪くも紋切り型の「若者」「老人」という括りすら正しくない、とします。言ってしまえば一億総中流はもはや幻想で、同世代の格差も大きく、趣味や趣向、そしてライフスタイルについても「普通」という表現はしづらい。ここに若者論の死を見ることが出来ます。
そのなかで、20代・30代の、非正規雇用をあえて選び、親の自宅から離れず、同質の友人とSNSらを介してツルみ、やや遠めの将来をイメージせずに暮らす若者たち。彼らは特定の「島宇宙」の中に安住している限り「ほどほどに幸せ」ということになります。ただしニュースでも社会情勢の不安(日本の債務残高、年金不安)等が報道され、自分の将来には何となく不安は感じる。そしていざとなれば他人を助けるのを厭わない素直さ。結局これが『絶望の国の幸福な若者たち』の彼なりの結論、ということになるでしょうか。
おわりに
ということで古市氏の作品でした。
基本的には社会学の本でして、データに基づいて、ある論拠が正しかどうかを都度都度見極める姿勢が通底しています。また、彼一流のシニカルな物言いが随所に見られ、これがまた面白い(何の議論だっけ?と筋を失いがちにもなりますが)。裏の帯に上野千鶴子さんや小熊英二さんがコメントしていることからも、学者としても嘱望されていることが良く分かります。なお、小熊氏によれば『今後修行を怠らなければ有望株』とあります笑
若者論を超えて戦後日本論ともいえる本作、宮台真司氏の著作などがちょっと難しかったと感じる方、日本の若者論に興味がある方、日本ってなんだか息苦しいと感じる方には面白く読んでもらえると思います。なお巻末には佐藤健との対談も掲載されています。なんでも佐藤氏と古市氏は同じ高校出身だそうです。
評価 ☆☆☆☆
2023/03/20