はじめに
湊かなえ氏の2010年の作品。『告白』での小説デビューが2008年であることを考えると、初期の作品に該当するでしょうか。
多くの人物が語り、真実がどこにあるか分からない、心理スリラー的作品。ただ読み方によっては恋愛小説?
結局どれが本当の発言?
まずザックリ言うと、ちょっと良く分からなかった、というのが正直なところ。
本作、とある超高層ビルで若夫婦が殺害される。そこに居合わせた四人の大学生の口述・供述が連なったものです。
大学生とは、杉下希美、成瀬慎司、安藤望(正しくは社会人)、西崎真人の四人がそれ。
杉下と安藤、西崎が同じボロアパートに住む学生(安藤は元学生)。そして、成瀬は杉下と同郷、という設定。
それぞれがイニシャルNを持っており、物語中も片思いだったり、両想いだったり、微妙な感情の機微が描かれます。
そして殺害された夫妻、野口貴弘と妻の奈央子もイニシャルにNを持ち、思いを持っていたり思われていたりする、という事になります。
じゃあ、一体なぜその夫婦は殺害されたのか、そしてそこに至る経緯は!?というのが作品の妙なるところです。もちろん真実は読んでからのお楽しみであります。
作りについて
一つの事件について、複数の人物が語るというスタイルは、もはやスリラーの定石の一つといってもいいかもしれません。
同じ事件なのに、見る人によって少しずつ見え方が異なるというものです。
本作でもその多角的視点は際立っているのですが、むしろ出色であったのは、それぞれの語り手の「想い」みたいなところでしょうか。
若いし距離が近いので、お互い澄ましている割に淡い恋心を抱いており、それが伝わらなかったりすれ違いがあったりするのが、ちょっとムズムズしますね笑
おわりに
ということで湊氏の初期作品でした。
冒頭で書いた通り、結果としてはよく分からない作品でありました。解説で千街晶之氏が「一度読んだらもう一度第一章を読んだ方がよい」云々おっしゃられていました。
そうした方が良かったのかもしれません。が、ちょっとバタついて再読はしませんでした。
大学生が多く出るという点では学生ドラマとしてとらえることもできましょう。そういう意味では大学生にもおすすめ。スリラー系が好きな方にもおすすめできる作品かもしれません。
評価 ☆☆☆
2024/09/10