海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

文芸・エッセイ・ドキュメンタリ

ちょっぴりドジな世之介が紡ぐ青春小説|『横道世之介』吉田修一

今回は一月半ばから、かなり長めに一時帰国していますが、つくづく日本の季節の移り変わりの美しさは素晴らしいと感じます。2月の初めは蕾だった川沿いの梅は今や満開。白やピンクに咲き誇り、はらはらと花びらを風に散らします。あぁ、何と可憐で、儚く、美…

突き抜けて人の良い肉子ちゃんに思う|『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

本作は私にとって再読でありました。 きっかけは近くの市民ホールでやっていた映画の再上映です(因みに700円!)。 映画があるのは知っていましたが、見たことはありませんでした。ならば見た後に再読しようと思い、手に取りました。 ひとこと そうですね。…

アホなノリが病みつきに!|『風と共にゆとりぬ』朝井リョウ

朝井氏のエッセイは2作品目です。昨年、「時をかけるゆとり」で、その真摯なアホさ加減に驚愕しました。 中学生の娘(日本語いまいちな子)が「電車で吹いちゃう」との感想を漏らしたことから、我が家での氏への評価がうなぎのぼりとなり、本作の購入に至り…

英国移民の厳しい現実をえぐる。引き込まれる佳作 |『The Year of the Runaways』Sunjeev Sahota

ランキング参加中読書 ランキング参加中書評 日本では外国人労働者の受け入れには否定的、労働力だよりの移民には断固反対。こんなニュースをしばしば耳にしてきました。 ところが、コロナ後に何度か一時帰国すると、ワクチン接種を確認するファストトラック…

青春ストーリーとして読みました|『AKIRA』大友克洋

ランキング参加中書評 やっと下の子の高校受験が終わりました。となると、上の子同様、下の子も彼らの祖父母宅(私の実家)から学校へ通うことになります。 実家を出てから、実家を倉庫代わりに使っていたことが多くあったことを今更ながらに反省しておりま…

短編でも、随所に光る谷崎的エートス|『美食倶楽部 谷崎潤一郎 大正作品集』谷崎潤一郎 編:種村季弘

本作も、我が母親のスーパー積ん読文庫処分品から救出された一作。 母親に聞いたところ、生協(食品とかの宅配の)に本のカタログがあり、そこで気になる本を買うそうな。 谷崎潤一郎のイメージというと、耽美、エログロナンセンスあたりが思い浮かびます。 …

食堂や食べ物の話はよし、ストーリー展開は入り込めなかった|『食堂かたつむり』小川糸

小川糸さんの作品はこれで二作品目。以前読んだのは「ツバキ文具店」という、手紙の代書屋を営む女性が主人公のとても可愛らしい作品でした。 その時の印象をもって本作を手に取りました。 で本作。感想は、曇りのち晴れ、いまいちだったかなあ。 料理・調理…

激動の明治大正昭和を駆け抜けた、いち翻訳家の生涯|『アンのゆりかご』村岡恵理

先日、齢80を迎えようとする母のスーパー積ん読文庫を、実家へ帰ってきた私の姉が処分するべく整理していました(一応母の希望)。その中から面白そうなものを数冊救出して、こっそり読もうと思った中の一冊が本書であります。 ちなみにこのスーパー積ん読文…

パルプフィクションぎりぎりをエンタメへ昇華!?|『土か煙か食い物か』舞城王太郎

お名前は見かけていましたが、その名前故に避けていたところがあります。だって、なんというか狙っている風のネーミングというのでしょうか、ちょっとふざけている?感を勝手に感じていたのです(作者名も作品名も)。読む前から「キャッチーな外面で内面を…

押し寄せる閉塞感。とにかく重い|『どうしても生きてる』朝井リョウ

朝井氏というと、どうしても若いなあというイメージがあります。 先般読んだエッセイ『時をかけるゆとり』も若気の至りを十全にエンジョイしている様子で、非常に瑞々しく感じました。 ならば小説はどうかと手に取った本作。前回感じた感想とは正反対の、ひ…

ジャングル版「夜のピクニック」+サバゲ-アクション?|『上と外』(上)(下) 恩田陸

気軽に手に取る本としては、ついつい選んでしまう恩田陸さんの本。『夜のピクニック』以降、どうもあの絶妙な青春描写が個人的にはまった模様であります。 今回は前回帰国した際にブックオフで仕入れておいた本作を新年一作目として読んでみた次第です。 あ…

文章は素敵、何となく面白い。でも、哲学的にはよくわからん|『この人を見よ』ニーチェ 訳:丘沢静也

ニーチェ。皆さん読んだことありますか? 実は私は初めてででありました。 何となく中二病、のイメージがあったんです。自意識やプライドが高く、劇的で劇画的。著作のなかの「神は死んだ」「ルサンチマン」などの言い回しは、哲学に関心のない方でも耳にし…

美しき組織プレーにより真正の報道を実現する物語|『大統領の陰謀』ボブ・ウッドワード、カール・バーンスタイン 訳:常盤新平

マスコミ、特にテレビについての不信感が個人的に強いです。バラエティは面白く見れるのですが、報道という観点からすると、ポジションテークを明示しない報道姿勢が私にはとても狡猾に感じるのです。とりわけ政治問題に対する報道はそうです。どういう立場…

007のボンドをホロウィッツ氏が上手に料理。面白い |『TRIGGER MORTIS』ANTHONY HOROWITZ

海外モノの小説は実は小さいときから割と好きでした。なかでもモダンホラーの先駆的な存在であるスティーブン・キングとD.R.クーンツの二人の作品は中高生の時に貪るように読んだ記憶があります。 年を経て、中高生の我が子らに本を読ませたいという意図(言…

米国の冤罪ノンフィクション|『イノセント・マン(上)(下)』ジョン・グリシャム 訳:白石明

ひとこと 終始、腹の底で不活発な疼きを感じる読書体験でした。 例えていうならば、結論の読めない単館映画(それも東欧あたりの)で、主人公とその周辺、美しい情景描写が淡々と続く感じ。 オクラホマの片田舎出身、大リーグに憧れるマイナーリーガーのロン…

二作目は肩透かしか|『獄中記(2)煉獄篇』ジェフリー・アーチャー 訳:田口俊樹

突然ですが、月曜日にコロナ陽性となり家庭内隔離をさせられています(こんなこと書くので、軽症ですが)。 先週ずーと調子が悪かった家内に代わり、掃除、洗濯、料理、子供の送り迎え、子供の教育、と仕事そっちのけで家を優先させ、「あー、たしかにワンオ…

英国ベストセラー作家の獄中記|『獄中記(1)地獄篇』ジェフリー・アーチャー 訳:田口俊樹

先日、氏の”Not A Penny More, Not A Penny Less”を読んだのですが、非常に面白く、感銘を受けました。そんな中、ブラック・フライデーセールなんでしょうか、Kindle版ですが氏の本がなんと55円で売っており、安値につられて購入、読んでみた次第です。 ちな…

時代を感じる、小中学生お悩み相談 | 『バカのものさし』養老孟子

先日知人に頂いた本です。 プライベートで追い詰められてどうしようかと考えているときに、現実逃避して数時間で読了した本笑 ちなみに困難に対しては、向き合って一つ一つ対処する以外に方法はないのですが、心が萎え気味の際はケータイに逃げるのではなく…

英語でも、読む手が止まらない傑作小説 |『Not a Penny More, Not a Penny Less』JEFFREY ARCHER

Jeffrey Archerという作家さんはうっすらとお名前は存じ上げていましたが読んだことがありませんでした。 そもそものきっかけは『木曜殺人クラブ』が読みたいなあとAmazonを検索したのが端緒。一緒によく買われている作品ということでリコメンドで出てきたの…

文語調?がくせになる京都の学生譚|『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦

わたくし的には、今月は、「新たな作家さんを渉猟する月間」であります。 海外に居ると店頭でのジャケ買いも難しいですし、さりとてネットのAmazonでAIにリコメンドされる本を買うのもなんだか癪だし、新たな出会いを生み出すことは結構難しいかもしれません…

真剣なアホが素敵すぎる|『時をかけるゆとり』朝井リョウ

アホが真剣過ぎて素敵 青春 ・・・この言葉を、すべての人が納得いくように形容したり換言してみることは、きっと難しいことでしょう。それはもちろん、その若き時代に経験した思い出深い事象が各人によって異なるからです。恋散った甘酸っぱい青春もあれば…

漢字とひらがなによる日本語が美しい|『蜘蛛の糸・地獄変』芥川龍之介

この前、海外にきて初めて本を売りました。今でいうところの海外版「メルカリ」みたいなサイトでのことです。今まで3回売れたのですが、ぜーんぶ現地の方が購入者。ちょっと驚きました。ひょっとしたら業者か?笑 で、せっかくだから何か出物はないか、安く…

くすっと笑える米国版爆笑小ネタ集 |『ANT FARM』SIMON RICH

お笑いやジョークというのは実は非常に高度で難しいものだと思います。あえて言葉を字義通りに表現せず同音意義をとってみたり、有名な諺やクオートに当て擦ってみたり。 かくいう我が愛妻も「日本のお笑いで笑えるようになってやっと日本語が上達したって感…

純文学のような探偵もの!?|『ダマシXダマシ』森博嗣

本との出会いは様々 本との出会いは様々です。店頭でのジャケ買い、友人知人からのおすすめ、新聞の書評欄、電車のつり広告など、はたまたブログでの書評など。 私の場合、やはり子供が切っ掛けであることが多いです。要は子供の取り組んでいる国語の問題文…

イヤミスの真骨頂!第六回本屋大賞受賞作|『告白』湊かなえ

特に用事もなかったのですが、今週有給を一日取りました。ところが、どうしたことか前日夜から寝つきが悪くどうしても眠れず、そういう時は読書をしようと午前2時ごろから手に取ったのが本作。まあ当然ですが余計に眠れなくなり、本作読了し、朝の7時に就寝…

ドラマの絵が頭から離れない|『危険なビーナス』東野圭吾

今回もムスコ文庫から拝借。 ちなみに、うちの子はいまいち本を大事にしない?ので、たまにカバーやページが水(雨)でヨれたり、本の四隅が少し折れていたりするのですが、あれが個人的とっても許せないんです笑 私はA4の裏紙とかで文庫本のカバーを作った…

人間の特質としての共感を描くディストピア小説|『アンドロイドは電気羊の夢を見るのか』フィリップ・K・ディック 訳:朝倉久志

実家の本棚に眠っていた本。たぶん20年ぶりくらいに読んだものです。学生時代、哲学を勉強しており、その時に設定したテーマは「人間とは何か Was ist das Mensh.」 きっとそのテーマの一環で読んだのだと思います。 今般本作を再読し、学問への小熱い(決し…

優しく厳しく自己実現を促す寓話|『アルケスミト 夢を旅した少年』パウロ・ウエーリョ 訳:山川紘矢+山川亜希子

あらすじ(文庫本裏表紙より) 羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を超えて少年はピラミッ…

子供の脳死を扱う異色の東野作品|『人魚の眠る家』東野圭吾

この夏に日本に一時帰国した際、息子の本棚から回収した本です。 本嫌いの息子に多少なりとも本を読ませる習慣をつけさせてくれた(私にとって)神作家の東野圭吾氏。その時息子が読んでいるというので、どうよ、と尋ねると「いやあ、だるい」と。いつもだる…

頑張ることって素晴らしい。元気になれるスポ根小説|『DIVE!!』森絵都

本が好きな方だと、積読が先行しているうちに同じ本を二冊買ったりとか、売った本をまた買ったりとかってありませんか? 私はたまにやらかします。 本作「DIVE!!」は上の息子が高校受験に挑んている最中に上下巻そろえて買ったものです。下の娘(現在高校受…

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