海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

歴史・文化

救いのない今を生きるポーランド女性たちの物語 - 『カティンの森』著:アンジェイ・ムラルチク 訳:工藤幸雄、久山宏一

カティンの森事件という事件をご存じでしょうか。 第二次世界大戦中、約1万人のポーランド人将校がソ連公安当局によって虐殺されたといわれている事件です。 ja.wikipedia.org 事件発覚以降戦後も引き続き、ソ連に進攻したドイツ軍の仕業であると言われてい…

十字軍行軍の徒花と消えた特殊法人 ― 『テンプル騎士団』著:佐藤賢一

世界史の講義で、講師が「テンプル騎士団はフリーメイソンの源流であるという噂も」と聞き、その神秘性に惹かれ、何か新たな事実が分かるかも?と本書を購入。 学生時代は中世というのは一番つまらないし中世を研究する人たちの気が知れない(ごめんなさい!…

没落する日本で生き抜く宣誓 ― 『日本の没落』著:中野剛志

本作は、官僚・評論家である中野剛志氏による、ドイツの歴史家シュペングラー『西洋の没落』の解釈本というのが端的な説明になると思います。 曰く、100年前に書かれたシュペングラーの著作には、現代社会の諸相(経済成長の鈍化、グローバリゼーション、地…

中世イタリアを堪能しました ― 『デカメロン(下)』著:ボッカチョ 訳:平川 祐弘

いやー、長かった。でも中世イタリアを堪能しました。たっぷりと。 タイムスリップができるのなら一週間くらい中世に飛んでみたいなあ等と思いました。作品のように結構退廃的だったのか、あるいはやっぱり宗教的価値観の軛にぎっちぎちにつながれたような社…

恥部をさらけ出す話の数々こそ、人間中心主義の証か ― 『デカメロン(中)』著:ボッカチョ 訳:平川 祐弘

本作表紙にはオレンジ色の背景で黒字ででかでかとタイトルがあります。 どうやら家内も娘もこの本のタイトルが気になっていたようです。デカメロンって、音の響きも口に馴染みますよね。。。娘に至っては自分の知らない食べ物か何かかと思ったの事でした(「…

中世世界の豊かでエロい人間模様を描く ― 『デカメロン(上)』著:ボッカチョ 訳:平川 祐弘

世界史を勉強中、14世紀のペストの大流行のトピックで出てきた作品。読みたいとずーっと考えていたのですが、この度、上中下をまとめて購入しました。すべて読んでから記録を、と当初は思ったのですが、自らの更に老化しつつあるサメ脳(要は容量すくない)…

世界史で読む人類と感染症の歴史 ― 『人類 vs 感染症』著:岡田晴恵

感想を一文で申し上げるならば、非常によくまとまっており、面白くためになる作品だったと思います!! タイトルにもある通り、本作は人類と感染症との絶えざる闘いを歴史的事柄を交えて説明しています。病原菌が種としての生き残りをかけて宿主に感染し子孫…

宗教改革の起爆剤となった諧謔の書 ― 『痴愚神礼賛』著:エラスムス 訳:沓掛良彦

エラスムス。 確かにマイナー。訳者があとがきで嘆く通りです。世界史ではルターの宗教改革のくだり、そしてトマス・モア(『ユートピア』の著者)の友人というくだりで出てくる位ではないでしょうか。しかし一度読めば、本作が豊かなヘレニズム的教養の詰ま…

宗教は集団になると恐ろしい?宗教集団アメリカ!? ― 『キリスト教でたどるアメリカ史』著:森本あんり

総評 この本はアメリカ史?についての本です。しかし、焦点を当てるのはむしろアメリカの歴史のダイナミズムの下に隠れる宗教の強さ。あるいはこうも言えるかもしれません - 宗教という隠れ蓑にひそむ人間の汚さ・狡さ。 いずれにせよ、イデオロギーは人を…

日本人の『空気』の源とは ― 『「空気」の研究』著:山本七平

以前山本氏の『一下級将校のみた帝国陸軍』を読み、その徹底した日本帝国陸軍批判に感銘を受けました。軍隊という命を預かる組織にあって、非合理的な決断が横行していた様子、そして上級軍人の余りにも軽い転向がビビッドに描かれたからです。 それ以後、お…

反グローバリズム入門、かな―『グローバリズムが世界を滅ぼす』著:エマニュエル・トッド、ハジュン・チャン、柴山桂太、中野剛志、藤井聡、堀茂樹

新自由主義とかグローバリズムとか、しばしば耳にし、また口にもする割に、どこが良くて何がどう良くないのかについては、実はよくわかっていないようにふと思いました。 過日、トッド氏の『問題は英国ではない、EUだ』を読み、類書にあたる本書も読んでみよ…

箴言集、あるいは政体論。政治ないし中世ローマ等の専門家向けか―『ディスコルシ 「ローマ史」論』著:ニッコロ・マキァヴェッリ 訳:永井光明

正直言うと、安さにつられて買ってしまったんです。 ひと月くらい前でしょうか。通常価格1,700円くらいの本作が499円でした。しかもポイントがさらに200円分。ということは実質300円。安くないか!?しかも私の好きな歴史関連!Amazonレビューでもなかなかい…

親日はうれしいけど、真の融和はどうすれば可能か分からない―『親日派のための弁明』著:キム・ワンソプ 訳:荒木和弘、荒木信子

大日本帝国が20世紀初頭から第二次世界大戦までに繰り広げた蛮行に関し、メディアで報道されるたびに、その子孫の一人である私は悲しくなります。 学校でも習うし、きっとそんな蛮行は本当なんだろうなとは思いますが、本当に悪いことだけだったのか、という…

自由主義の成立は中国から!?今後の日本を考える良書―『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』著:與那覇潤

購入して通読二度目。相変わらず面白い。 lifewithbooks.hateblo.jp 本作は歴史書の顔と日本論の二つの顔を持つと言えますが、そのどちらの切り口も非常に興味深いものだと思います。 中国化とは自由主義のこと!? 歴史書としては「中国化」の概念の導入。 …

ジェンナー伝を読んで、ワクチンやら自己決定権やら相互理解をつらつらと。―『ジェンナー伝』著:小酒井不木

コロナ禍の下、これほどまでに予防接種について世間が関心を持ったことは、私の40年強の人生ではなかっと思います。 ジェンナーは世界史でほんの一瞬ちらっと「予防接種の祖」、のような説明で出てきて興味が湧きました。ジェンナーについて知りたいなと思っ…

「君臨すれども統治せず」の伝統はここから。イギリス貴族の気風の歴史を面白く伝える良書!―『MAGNA CARTA』著:DAN JONES

世界史を勉強していると、やれフランス革命だ、やれアメリカ独立戦争だと勉強するのですが、その都度引用されるのがマグナ・カルタ。したらマグナ・カルタって何なの?と思い、近くの新古品を並べる本屋で本書をゲット。円換算で500円程度でした。 読後の感…

やや雑然とした論説集、だけど面白いオジサンだと思います―『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』著:エマニュエル・トッド 訳:堀茂樹

以前、私のメンターが筆者のエマニュエル・トッドのことを引き合いに出してモニョモニョいっていたことがあり、どうやら読めと言うことだなと忖度し購入したものです。それから少し時間がたったのですが読んでみた次第です。 カバー裏の窓には筆者の肩書とし…

イタリア諸都市の教科書。世界史(文化史)の復習用に―『ヨーロッパの世界遺産①イタリア・ギリシア』監修:水村光男

巣ごもり生活も早一年強つづき、最近外に出たくて出たくて頭がおかしくなりそう笑 脳内旅行で我慢する日々ですが、今回は旅行エッセイではなく、結構真面目な文化史の話です。 私事ですが、今年の目標は世界史の勉強。子供たちのために契約したスタディ・サ…

明治の日本人論。実はアイデンティティ・クライシスの克服が原因か?―『武士道』著:新渡戸稲造 訳:岬龍一郎

かつて五千円札の肖像となっていたことで有名な新渡戸稲造。そしてこの『武士道』も国際的に有名な作品ですね。少なくとも名前は結構聞きますよね。 明治維新期の日本人論 in English こちら、一言で言えば、日本人論です。もっと詳細に言えば、日本人の道徳…

旧帝国陸軍幹部の思考力の貧困さを、経験者が克明に描く―『一下級将校の見た帝国陸軍』著:山本七平

非常にショッキングな本だと思います。 戦争のおそろしさ・生々しさは言うに及ばす、硬直的・融通無碍で変われない帝国陸軍の構造的な欠陥にショックをうけました。 自分の祖父達が、こんなに下らない組織のためにシベリアや中国に連れていかれたのかと思う…

アメリカ独立への呼びかけ!難解古典英語に萎え気味も、読後の達成感あり―『COMMON SENSE』著:Thomas Paine

世界史で、アメリカのイギリスからの独立に際して米国民を一丸とするきっかけとなったと紹介されており、買ってみました。ちなみにたったの58ページ!! ですが、メチャクチャ難かったです!! 世界史の授業では、当時英国と対峙する米国にあって独立派・王…

こんなにも豊かなアイヌの文化と自然!―『アイヌと神々の物語 炉端で聞いたウウェペケレ』著:萱野茂

昭和の時代に、『まんが日本昔ばなし』という番組がかつてありました。アニメで日本の昔話を描く、素敵な作品でした。 本作『アイヌと神々の物語 炉端で聞いたウウェペケレ』を読んで、そんな30年も40年も昔のアニメ番組を思い出しました。 子ども向けテレビ…

穏当すぎてやや物足りないか―『右であれ左であれ我が祖国日本』著:船曳建夫

早く書けばいいのにダラダラしていて感想を書くのが延び延びになり、内容を忘れかけています笑。 内容ですが、東大教授による日本論です。過去500年の間に見られた政体をそれぞれ、「大日本」(豊臣型)、「小日本」(徳川型)、「国際日本」(織田型)、と…

英国・フランスの両国民国家の夜明け―『英仏百年戦争』著:佐藤賢一

世界史を学んだ方なら、ノルマンコンクエストの1066年が英国建国年号となっていることを授業で教わったかもしれません。覚えていますか。 その時、一部の方は疑問を持たれませんでしたか? え、だってフランスのノルマンディ公が英国をとったのならある意味…

悠久の古代ギリシア神話。興味がある人にはお勧め!―『トロイア戦争全史』著:松田治

先日ギリシア神話の本を読みました。 大興奮というわけでもありませんが、相応の感心をしつつ気のないへぇーなどという相槌を一人うちつつ読了し、一夜漬けの知識をあたかも随分前から知っていたかのように家族に開陳し、まあまあ嫌な顔をされたりしました…

旅行に役立つギリシア神話。変わった切り口で神話を語る―『ギリシア神話 神々と英雄に出会う』著:西村賀子

日本人は実に外国のものをうまく取り入れる民族だと思います。 英語もフランス語もドイツ語も、すべてカタカナにして日本語に取り込むのです。ランチにヴィシソワーズを取って、デザートはバームクーヘンだった、とか。 日常会話にはこうした言葉がじつに自…

スターリンの死と20世紀最大宗教の衰退―『フルシチョフ秘密報告 スターリン批判 全訳解説』訳・解説:志水速雄

世界史を勉強していると、度々”20世紀最大の宗教”などと呼ばれる共産主義。その中枢であったソ連はすでにこの世にありませんが、その”宗教の”瓦解の過程を知りたいと思い、まず本書を手に取りました。 訳者に記憶あり ちなみに、内容よりも訳者の志水速雄と…

史実と回顧の違いは大きい。内容は月並みも是非解説を読んでほしい。―『マッカーサー大戦回顧録』著:ダグラス・マッカーサー 訳:津島一夫

本書は第二次世界大戦後、GHQトップとなったマッカーサーの回顧録。 95%以上は気持ちよく、へーなるほど、とか、敵ながらあっぱれとか、つらつらと読んでいました。しかし最後の解説を読んで、本書の出色の出来は寧ろ解説にある気がしました。同時に本の怖…

ローマ史大家の名著で修行のような読書を楽しむ―『新訳 ローマ帝国衰亡史』著:エドワード・ギボン 訳:中倉玄喜

まさに修行のような読書でした笑。 500ページに迫る大著。洞察にあふれる記述に驚きの声をあげることもある一方、ややもすればダラダラと続く人物描写が眠気を大いに誘う事もありました。毎日70ページとして1週間でスケジューリングするも果たせず、途中でリ…

私には合いませんでした。―『なぜ国家は滅亡するのか』著:中西輝政

端的に言うと、うーむ、残念。という一言。 本作は、佐藤優氏と手嶋雄一氏の対談で言及されていて興味を持ったと記憶しています。 lifewithbooks.hateblo.jp 現実世界を取り巻くパワーバランスは米国中心。彼の国がどうなるのか、中国はどうか、インドだって…

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